88 一緒に帰還
祝 令和元年
「ああっ!!」
エクレールの右太ももに敵の矢が刺さり、矢じり部分が貫通し途中で止まった。
「ハヤトもう駄目だ! 撤退命令を!」
空からは雨のように矢が撃ち込まれてくる、一斉に撃ち込まれたため対処が遅れ、エクレールに矢が刺さってしまった。
タン タン タン タン
召喚獣のノームが敵兵に対し、銃を発砲する音が響く
「撤退は出来ない! 今下がると拠点攻撃中の味方部隊が挟まれる! 何とか持ちこたえろ!」
◆◇
3年半の駐留生活を終え、我が隊は大陸東部の前線へと送られた。
今回敵拠点の一つを制圧するため、中隊規模の部隊で攻略に挑んだ。我が隊もその中隊の一部隊として参加することになった。
その攻略途中に敵の援軍部隊だろうか? もしくはそれを含む補給部隊かもしれないが、接近中との事でハヤト隊が迎撃の為、そちらの方に移動した。
その援軍部隊が小隊程の規模があり、完全に押されている状態にある。
持ちこたえられるか? と聞かれたら不可能、だがここで押さえないと拠点を制圧中の部隊が挟まれる事になる、だが圧倒的な戦力差の為、じわりじわりと後ろに下がるしかなかった。
現在攻略中の敵拠点には、魔法を打ち消すことの出来る魔道具が存在し、外から拠点への魔法は一切効果が無い。
その装置はもちろんハルツール軍にもあるが、高価でかなりの場所を取り、移動にもかなりの労力が伴うため、わが軍はキャンプ地にしか存在しない。
もっと部隊数を増やし、一気に攻めた方がいいとは思う、現在の戦力では到底落としきれるものではないと感じる。
以前攻略したヨルド要塞の後、ハルツール軍とマシェルモビア軍の戦闘は激化し、至る所での戦闘や拠点のつぶし合いが始まっていた。
そのためあちこちで人手が足りず、どの場所でも攻めあぐねている。
◆◇
ブィィィィン
虫の羽の音が聞こえ、俺の肩にピタリと止まる
『先輩! 敵増援は抑えられそうすか?』
虫を通して人の声が聞こえてくる
イデラム? ドルバの召喚獣か
「敵部隊は小隊規模、もしくはそれ以上、俺ら4人じゃ抑えきれない、少しづつ後退している」
『こっちは中隊長が負傷したっす、怪我人多数、こちらは撤退するんで、先輩達も即時撤退してください』
「了解した」
ドルバの召喚獣イデラムは俺の肩から離れ、召喚者本人の元に飛び立った。
「ベルフ撤退する! 攻略は失敗、ライカはエクレールを! しんがりは俺がやる!」
「「了解!」」
ベルフが先頭を走り、ライカが足に矢を受けたエクレールを支え続く
「ノーム!」
「分かってまさあ!」
ノーム1号が小型魔石砲を構え、そして閃光弾を放った。
・・・・
・・・・
「貫通してて逆に良かったな」
今いる場所は敵から奪い取った拠点、少しばかりハルツール軍の方が押しているらしく、こうして奪った拠点を自軍の拠点として利用している
だいたい奪った拠点なんて言うと、盗聴器みたいなのが取り付けてあったり、地下に爆弾がセットされていたりと、色々とろくな事が無いが、この場所はしっかりと調査したので大丈夫だそうだ。
大丈夫と言うと、この拠点に地下があるかも確認をしたそうで、結果は無し、そしてその地中を調べるのに俺が改良した『探知』魔法が使われている。
この俺が改良した『探知』魔法、ついにあの魔法大全集に掲載される事になった。
年1回発行されるあの本に、魔法の名前と俺の名前が載ってしまった。あの『探知』魔法は空洞はもちろんの事、金属や水源の探知にも使え色々改良版が出ている。
そんな俺の作った素晴らしい魔法で、安全を確認されたこの拠点まで俺達は撤退してきた。
エクレールの太ももに刺さった矢は、矢じりに返しが無い、鎧を貫通するための物だった。
返しが付いている物で貫通せず、途中まで刺さっていた状態だと、それを抜かなければいけないし、抜くときには凄い痛みと回復するのに多少時間がかかる。
矢の後ろの半分出ている部分を切り取り、残りの部分を抜く作業に入る
「隊長、すまないがゆっくり、ゆっくり抜いてくれ」
「ゆっくりでいいの?」
「そうだ、ゆっくりだぞ」
「エクレールって結構マゾなんだね」
俺は言われた通りゆっくりと矢を抜いていく
「あ゛っぅっ!!! 隊長もっと早く抜てくれ!」
言わんこっちゃない、ゆっくり抜いたら痛みも長続きするだろうに、どうせ『癒し』を掛けるんだから、さっと抜いてさっと直せばいいのに
俺は残った矢をスッ! と抜いた
「くっっ!!」
矢を抜いた足を抑え悶絶する
「早く回復したら?」
痛みで忘れていたらしく、慌てて魔法を掛けると手のひらが光り、矢に射抜かれた足に沈んでいく、血は止まり痛みも多少引いたようだ。
涙目で俺を見上げてくるエクレール
「隊長‥‥早く抜くにも限度というものがあるだろう」
「痛いのは一瞬の方がいいんじゃない?」
エクレールの『氷』魔法を使った連続抗議を、同じく『氷』魔法で相殺し、軽く躱し続けていると
「先ぱーい!」
軍学校の後輩の一人、召喚者のドルバに声を掛けられる、ユーロスとポンドラスは他の拠点攻略・防衛に回されているらしい
「あっ、すみませんっす、お邪魔したみたいっす、また後で━━」
「違うから、そんな事よりドルバ、そっちはどうだった?」
「うっす、中隊長は6日程で完治しそうですね、他の怪我をした人達も1週間もあれば完治するみたいっす、次の作戦には2週間程かかりそうって言ってました」
2週間か‥‥
「敵拠点の方は? 何かつかめた?」
「全然っす、相変わらず魔法は効かないし俺の召喚獣も2体やられましたよ、あれどうなってるんすかね、結構魔法叩き込んだんすけど、魔法を無効化する魔道具が停止する感が無いんすよね‥‥他のみんなは、あの拠点に人工魔石を回復させる補充機が付いているんじゃないか? って言ってますけど」
地球で言ったら発電所みたいな施設がこの世界にもある名前は‥‥集魔機だったか? こっちは電気じゃなくて魔力だけれど、魔力を大気から集め、それをケーブルを使い各地の補充機に流す、人々は人工魔石を持ち寄ってその補充機で人工魔石の魔力を回復させる。
敵拠点の魔力を無効化させる魔道具にも、使用には人工魔石を使用していると思われる、しかも大量にだ。
ただ、あまりにも持続力が長すぎる
人工魔石を別拠点から持ち込む方法もあるが、あの装置を作動させるためには大量の人工魔石が必要であまりにも効率的に悪すぎるし、運び込んでいるという動きも無い、となると、地下にケーブルと這わせ、拠点に補充機を設置するという方法もあるが‥‥
「補充機ではなく魔力を集める集魔機自体、あの拠点にあるのではないか?」
まだ痛むであろう足を抑えながらうエクレールが言ってきた。
やっぱり集魔機って名前で合ってたね、それはいいとして、集魔機を置くのは無理なんじゃないかな?
「その方法もあるかもしれないっすけど、集魔機自体かなり大きい物ですよ? あの拠点の大きさに収まる物とは思えないんすけど‥‥」
そう、一基の大きさが野球場ほどある、それ位大きくないと大気から魔力を集める事が難しいとされている、なので、あの拠点には収まり切れないのだ。
こんな時タクティアがいれば、あれこれ勝手に考えてくれて楽なんだけれど、今タクティアはサーナタルエの軍本部にいる、ハルツール国内で面倒事が発生しているらしく、そちらの方に駆り出されている。
ソルセリーは俺達がいる拠点にいるが、今回の作戦には参加しておらず、この拠点で待機、今頃は今回の作戦で負傷した兵士の看護に回っているだろう
「ウエタケ・ハヤト、ウエタケ・ハヤト曹長はいるか?」
「先輩呼ばれてますよ」
おっと、なにやら呼ばれてしまった
「ここに居ます」
「ウエタケ・ハヤト曹長だな」
「はい」
「本部からの通達だ」
一枚の紙を渡される、そこにはこう書かれていた
『ウエタケ・ハヤトに休暇を与える』
「いや、そんな事書かれてないっすよ」
横からのぞき込んでいるドルバに言われる
「言ってみただけだよ」
だったらいいな、と思っただけである、実際には‥‥
『至急、サーナタルエに帰還せよ』
◆◇
「じゃあベルフ、後は頼んだよ」
「まかせとけ、土産はチョコレートでいいからな」
ここに来る前にベルフは俺を通じて大量のチョコレートを買い付けたが、もう全部食べてしまったらしい
「分かったよ、ライカも怪我の無いように、エクレールは安静にしてなよ」
「はい」
「分かってる」
ぴしっとした立ち姿で答えるライカと、杖を付きながら見送ってくれるエクレール
3人に挨拶を交わし、出発することにする
もう既に中型の竜翼機がスタンバイしている状態にあり、あれに乗ってサーナタルエに戻る事になる
「隊長、私も準備が出来たわ、行きましょうか」
とそこに、先ほどまでいなかったソルセリーが、何故か自分の荷物を持って立っていた。
「「「「????」」」」
一瞬、皆何を言っているのか理解出来なかったが、最初に言葉を発することが出来たのはベルフだった
「ソルセリー、お前どこかに行くのか?」
「帰るのよ」
「だって‥‥お前‥‥」
「ああ、なるほど、ソルセリーにも帰還命令が出たんですね?」
「そういう事か」
ソルセリーにも来てたのか、なら一緒に帰るのは当然か
「来てないわよ」
「「「え?」」」
「隊長が帰るって言うから、私も一緒に帰るだけよ」
「ソルセリー、帰還しなければならないのは隊長だけであって、我々には帰還命令は出ていないんだが」
「そうね、でも私、前にタクティアに言われたのよ、『隊長と一緒の時以外は出撃するな、必ず行動を共にするように』てね」
‥‥俺はそんな事一言も聞いてないんだけど?
「そういえば‥‥タクティアがそんな事を前に言っていた気が‥‥」
ベルフが少し思い出すような言い方で、そんな事を言ってきた
「そうなの?」
「自分も‥‥それっぽい事を聞いたような‥‥」
そうなんだ‥‥ライカも聞いてたのか、タクティアそんな事言ってたんだな、知らなかった。
「ほら、隊長すぐ戻らなければならないんでしょう? 行くわよ」
ソルセリーはスタスタと竜翼機の方に向かって行った。
「あ、ああ」
俺もソルセリーの後を追う
「じ、じゃあ、皆も気をつけてね」
二人が竜翼機に向かって行った後
「タクティアは本当にそのような事を言ったのか?」
そんな話は聞いていないエクレールが、ベルフとライカに尋ねる
「うーん、言っていたような‥‥あれ? 言ってたかな、ライカは聞いていたんだろ?」
「言ってませんでしたっけ? ベルフがそう言うから言ってた気がしただけなんですが」
◇◆◇
竜翼機でサーナタルエに無事に帰還した。
2度、補給の為地上に降りたが、それでもコスモよりもかなり早く帰ってくる事が出来た。
俺は軍に呼ばれたと思っていたが、実際に用事が有ったのは軍では無かった。
てっきり軍に呼ばれたと思った俺だったが‥‥‥
軍本部でタクティアに出迎えられ、俺の後ろから一緒に降りてくるソルセリーを見て
「どうしたんですか、ソルセリーは?」
と言われた。
不思議に思い、ソルセリーが皆に言った事、ソルセリーがタクティアに俺の側にいるように言われたといった事を聞いた所
「そんな事言ってません」
と、返ってきた




