73 武器と魔法陣
低めの壁を作り、指令室のテントを司令塔に作り替えた。
ラブル中佐はぼろい指令室のテントから、中々立派な塔に作り変えられ、最初は怒っている様な戸惑っている様な感じだったが、塔の最上階に立派な指令室があるのを確認し、椅子も小さな丸椅子ではなく、ゆったりとした椅子に作り替えた事にご満悦の様だった。
ハヤト隊の皆は、ライカ以外は久しぶりに驚いてくれた。
とは言っても、壁も建物も魔法で出来ており、とりあえずは『硬化』を付与しているが、魔法をぶつけると爆発するので、マシェルもビアには通用しないが‥‥‥
そして今日、ハヤト隊は偵察に向かうことになる、出発前に全員の防具に『硬化』『耐壁』を付与してあげる
「う~ん‥‥普通だったら結構なお金を取られるんだけどな‥‥」
「『付与』魔法を使える人がいると便利ね」
兵士としては、もしもの為に『硬化』もしくは『耐壁』を掛けておきたい所だけど、結構お金を取られる、まず『付与』魔法を使える者が少なく、さらに同時に『硬化』『耐壁』のどちらかを契約している者は更に少ない。
俺としては、知らない人から「やってくれ」と言われたら対価を貰うけれど、同じ部隊や、同じ任務を共にする人にはタダでやって上げてもいいと思っている。
ただ、『付与』魔法を使える者達の組合があり、あまり安く請け負ったりすると苦情を言われる
「タクティアにはこれね、専用武器を作っておいたから」
「えっ!?」
『収納』から一つの武器を取り出す、見た目相撲の行司が持つ軍配と、斧を組み合わせたような形をしている。
ゴルジア首相から、そこそこ良い刀を一本都合してもらい、それを適度な長さに切断し軍配の片側に付ける、トマホークのように両方に付けようかと思ったけれど、もし打ち合った時にタクティアの貧弱な腕では、そのまま押されて反対側の刃が顔にグサーと刺さりそうなのでやめた。
武器の名前は見た目のまま『軍配』にする
「これね、色々仕掛けがあってね」
刃には当然ながら『硬化』が付与してある、そしてタクティアは右利きだった、軍配の右側面には『耐壁』を付与しそれで防御も出来る、そして軍配の左側面には、数個の人工魔石や天然魔石が埋め込まれている
「まずこの2つの人工魔石が、右側面の『耐壁』の予備ね」
これは俺の盾と同じ物、『耐壁』を破る程の攻撃を受けると、この魔石が身代わりとなり弾け飛ぶ。
ただ俺の経験上、弾けると破片が顔に降りかかるので、この上からカバーを付けておいた。
目に入ったら危ないからね
「で、この人工魔石が発動装置だよ」
『土』魔法で簡単な山を作る
「タクティア、この魔石に集中して魔力を軽く流してみて、目標はあの土の山ね」
「これですか?」
タクティアが土の山に視線を移し、俺の指定した魔石に少しだけ魔力を流す
ブワッ!!
簡単な土で作った山が一瞬で拭き取んだ
「「わっ!」」
「ハヤト! ハヤト! 今のは何だ?」
「『放出』魔法だよ、瞬間的に出せるように調整したんだ」
「『放出』ってあのエンジンに使う奴か? いつの間に契約したんだ、それがあれば軍じゃなくても他のもっと給料も高い企業から声が掛かるだろう!?」
ベルフは少し興奮した様に問いかけてくるが‥‥
「普通は色々な企業からスカウトが来るはずなんだけどね、俺には無かったんだよ」
「あっ! そう…か、すまなかったな‥‥」
気持ちよく武器の説明をしていたが、俺も色々と思い出してしまい何だか落ち込んでしまった。
ベルフも「しまった!」みたいな顔をしている
まぁ、まぁいいさ!
「それで最後にこの人工魔石にちょっとだけ魔力を通してみて」
タクティアが頷き魔力を通すと、軍配の先端から40センチほどの、細い魔力で出来た針に似たものが飛び出した。
「「 おおぉ! 」」
「これが最後の切り札みたいな物かな? その他の天然魔石は魔力量の少ないタクティアを補助する魔力のタンクみたいな物だよ、『重力』も付与して軽くしてあるから持っていても重くはないだろ?」
それに加え持つ所も少し楕円形の形をしており、握りやすくしてある。
さらに持つ所の下の方には、素麺のみたいなヒラヒラの飾りも付き、見た目もバッチリだ。
「確かに‥‥凄いですよハヤト隊長! こんな素晴らしい物をありがとうございます」
「いいっていいって、はっはっはー」
何となくいい事をした気分になる、作るための労力は掛かったものの、作るための費用はゴルジア首相と軍から出ているので俺の懐は全く痛んでいない、あと作っていて楽しかったので苦にはならなかった。
「隊長一ついいですか?」
「何? ライカ」
質問ですか? いいですよ受け付けます
「そのタクティア殿の武器ですが、少しリーチが短いような気がするんですが‥‥それだと幾ら『放出』を付与した変わった機能があっても、打ち合いになった時にそのリーチの差が致命的になると思うんです」
うむ! 言いたいことはよく分かる、魔法が使えず刀一本で勝負しているライカは、ご不満な様子だ。
俺が付与した『放出』や隠し針だって、タクティアの魔力や、天然魔石の魔力量が無くなると回復するまで時間がかかる、更に『耐壁』が全て破られればただの片刃の軍配にしかならない
でもねライカ君‥‥
「タクティアにはそもそも、戦闘的な物は全く期待していないからね、剣技なんかは子供にも劣るし」
「えっ!!!」
ニコニコ顔だったタクティアの両目が見開かれる
「タクティアに渡した武器は、どちらかと言ったら時間を稼ぐための武器だよ、本来召喚者がする戦い方、時間を稼いで仲間が助けに来るのを待つ、そういった戦い方をするために作ったんだ」
「なるほど‥‥それでしたら納得しました」
武器に五月蠅いライカも納得してくれたようだ。他の隊員もなるほどと頷く
「ハヤト隊長、ハヤト隊長!」
おっと‥‥ここに納得できていない人物が一人
「なんだろ? タクティア」
「いえ‥‥私の剣技が子供にも劣ると言うのは‥‥どういう事でしょうか?」
「ん? そのままだけど、へっぽこ過ぎて子供にも勝てないよ、流石に初等部の子供には勝てるとは思うけど、中等部以上になると‥‥ちょっとねぇ」
「中等‥‥いや、だって! ハヤト隊長は私の剣技は中々の物だって言ってくれたじゃないですか!」
今にも泣きそうな顔になっているタクティア
「え? あれ本気にしてたの? いやだなぁ~お世辞に決まってるじゃん」
ふらっふらっと、後ろによろめきながら一歩二歩と後ずさっていくタクティア
「お、お世辞‥お、おせ」
よっぽど自身では剣技に自信があったのか、ガクリとその場にへたりこむ、ここに来る前に一度皆の実力を確かめるためと、お互いに知る為に、剣技だけで勝負したことがある、その時にもちろんタクティアも参加したので、他の隊員もタクティアの実力は知っている、誰一人足を動かすことなくタクティアに勝利できた位彼は弱い、タクティアの武器を弾いて頭にポンで終了する
座り込んでしまったタクティアを、皆は沈痛な面持ちで黙って見ていた。
しかし、ソルセリーは一昨日、タクティアが俺を笑いものにした事の復讐だと気づき、呆れた顔で俺を見ていた。
そう、今の俺は笑っていた
ただ、俺も隊長の端くれ、隊員のモチベーションを保つために、下げたら今度は上げなければいけない、タクティアに近寄り同じ目線になる様に膝を付き肩を叩く
「タクティア、お前は接近戦では全くだ」
タクティアの目からは光が失われその言葉で顔をさらに下げる
「でもな、俺の世界の『兵法書』ではな‥‥」
その言葉を聞いた瞬間「グワッ!」っとタクティアは顔を上げた
うわっ! ビックリしたな‥‥
取りあえず話を続ける
「昔から軍師と言うのはこういった形の武器を持っているんだ。その中でも天才軍師と言われた存在」
ゴクリと唾を飲む音が聞こえる
「タクティアにも前に教えたから知っているだろう?」
「「 諸葛亮・孔明 」」
「そうだ、その諸葛亮・孔明が持っていた武器が、お前に渡した武器の様な形をしているんだ」
タクティアの目に強い光が戻り、俺の顔と渡した武器を交互に何度も見返す
「俺がタクティアに求めているのは、無双の力でも万能の魔法能力でもない、孔明のようにどんな逆境でもひっくり返すことの出来る知略だ。だから、タクティアにはこの部隊の『諸葛亮・孔明』になってほしくてその武器を渡したんだ、わかるな?」
目を見開きうんうんと首を縦にふる
「ハヤト隊長‥‥」
うっすらと目に涙を浮かべ、俺とタクティアは見つめ合った
ベルフとライカは、温かい目で俺達を見ていたし、エクレールは少しだけ涙をぬぐう様な仕草をしていた
しかし、ソルセリーだけは俺の意図に気付いていたのと、俺の笑顔を見ていたので、半目で俺を見ていた。
◇◆◇◆◇
キャンプ地を離れ4日目、途中まで軍用車で移動し、そこから徒歩になる。
要塞には近寄らず付近の調査・偵察を続けている、しかし中々調査が進まない、それもそのはず
「はぁ はぁ はぁ」
原因はタクティア、ちょっと歩くと息切れを起こしフラフラになる、今のハヤト隊にとっての大きな足枷になっている。
前までは、心臓の痛みのせいで走れなかった分、体力作りの為と、ただ単に走るのが楽しいから早朝にランニングをしていたが、健康な体であるのが当たり前になってくると、走ることもしなくなっていた。
今度タクティアを無理やり誘って、また早朝ランニングでもしてみようか?
うさ耳天然魔石を被り、『探知』をしつつ調査を行っていると‥‥
「はっ!」
こ、この感覚は!
俺の異変に後ろにいた隊員達が一斉に武器を構え、俺との差を詰める
「ハヤト、どこから来る?」
「み、見つけた‥‥」
「ハヤト隊長まさかトンネルの出口ですか?」
「違う‥‥‥‥こっちだ!」
他の隊員を置き去りにし、反応があった場所に向かって走り出した
間違いない、この反応は大陸深部の時と一緒
「ハヤトちょっと待て! ハヤト!」
反応を感じた場所から300メートル程離れた場所にその場所はあった。
大きな岩があり、その真下から反応がする。
「おい! ハヤト見つけたのか!?」
「ああ! 見つけた!」
岩に『重力』を掛け、更に身体強化を使い岩を持ち上げると、そこには明らかに人の手が加えられた様な石の蓋があった、それを持ち上げるとそこには階段があり、地下に入れるようになっていた。
「こ、これは‥‥やったなハヤト大手柄だ!」
「ああ! 来た甲斐があったよ」
「はぁ! ひぃ! ひぃ! はぁはぁ、ぜえぜえ! あ、あっ あった‥‥」
タクティアがかなり遅れて到着する、多分「あったんですか?」と聞きたいんだろう。
それにしても、他の隊員達はタクティアを置き去りにして来たのは酷いと思うよ、真っ先に走り出した俺もどうかとは思うけれども。
「よし! 行くぞ」
皆にそう言い階段を下りる
「はぁはぁ! ちょ、ちょっと」
タクティアは「ちょっと待って」と言いたいんだろうが‥‥
待たない! タクティアよりも大事な物がそこにあるんだ
『照明』で中を照らし、階段奥深くに降りていく、降りてみるとそこそこ深いようで『照明』で奥まで照らしても底が見えない
「ひぃ! ひぃ! も、もうだ」
あ~うるっさい!
時間にして10分だろうか? 降り続けていると先の方に扉が見えた
「ハヤト注意しろ、ここは俺とライカが前に出る」
ベルフとライカが警戒して俺の前に出る、でもその必要はないと思う
だって‥‥
ベルフとライカが一斉にその扉を開けると‥‥
そこには光輝く魔法陣があった
「よしっ! よしっ! 見つけた!」
「え‥‥トンネルじゃなくて、魔法陣か?」
敵の要塞のトンネルだと思っていた皆はガッカリしたが、どう見ても最近使われていない魔法陣を発見したのでガッカリしきれないでいた。
それよりもちょっと興奮しているみたいだった。
魔法陣に目が無い俺は、ベルフとライカを掻き分け、魔法陣に張り付く
これは古文‥‥
遠い昔に使われていたと言われている文章が、魔法陣の横に合った石碑に書かれていた
「ソルセリー! ソルセリー!」
「何を?‥‥古文ね、任せて!」
ソルセリーに古文を解読してもらう
「えーっと、‥‥草‥‥」
・・・・
・・
「あ゛!?」
思わず変な声が出てしまった
「遊んでないで早く解読してよ!」
「したわよ!」
「草だけじゃわからないんだから! ほら! この石碑だって文字が一つも欠けて無いよ! いい状態で保存されてるじゃん!」
「こんな難しい物分かる訳ないでしょ! この石碑の文章よ、文章が変なのよ!」
ソルセリーは文章のせいにしだした。
なら他の‥‥
ベルフと目が合うが、サッっと目を反らされる、そうだベルフは駄目だったんだ。ならエクレール
「エクレールは!」
「私はそういったのは苦手で‥‥すまない」
軽く首を横に振る
だったら一番頭のよさそうな‥‥
「ぜぇー ぜぇー ぜぇー」
壁に寄りかかり、肩で大きく息をしていたタクティアの首根っこを掴み、石碑の前まで連れてくる
「タクティアなら分かるでしょ? ねぇ! これ読んでよ」
タクティアは石碑を見た後、ゆっくりと首を横に振った
「だぁぁぁぁぁぁっ! 何で皆分かんないの! 一般常識じゃなかったのかよ!」
こうなったらソルセリーに無理にでも‥‥
ソルセリーに向き直ると、彼女はビクッ! と体を震わせた
その時後ろで‥‥
「この魔法陣は木々や草花、植物に対して成長を促進させる、魔力を込めれば込めるほど植物の成長は促進されるだろう‥‥」
俺の横からライカが顔を覗かせ、石碑の文字を解読していた
「『成長促進』って名前らしいですよこの魔法」
そこにいた全員、ライカ本人と疲労で倒れているタクティア以外、口を大きく開けたままライカを見つめていた。そして見つめられていることに戸惑うライカ
「え!?‥‥な、何ですか?」
俺はそっとライカの手を握り締める
「ライカはこの古文が読めるの?‥‥」
「ええ、まぁ、学校で習いますしね」
わぁぁぁぁぁあ! わぁぁぁぁあ!
「凄い! 凄いよライカ! 頭いいんだね!」
「え? あ、そうですか?一般常識だとおもうんですけど‥‥」
「凄いなライカは!」
「ああ、私も見直したぞ!」
俺とベルフ、エクレールに称賛され、ライカはまんざらでもないようで照れていた。
しかし、俺は見てしまった
ソルセリーが般若の様な顔でライカを睨みつけていたのを‥‥
この魔法陣はどうやら植物の成長を急速に伸ばすための物らしい、戦闘には全く不向き、主に農家の人が欲しがる物だろう、コレがあれば魔力が続く限り作物を無限に収穫できるみたいだ
「ささ、俺は後でいいから、みんなから先に契約を試してみてよ」
真打は最後に登場だからね
まずはソルセリーとライカ、二人はやっぱりと言うか契約出来なかった。
続いてはタクティア、魔法陣に触れ魔力を流すと‥‥何と魔法陣が反応した
「あっ! 嘘!」
「やったね、タクティアおめでとう!」
「あはは‥‥契約出来ちゃいましたよ、戦闘には使えませんけれど‥‥あれですね‥‥何と言うか久々の感覚なのでかなり嬉しいですよ」
「やるなぁタクティア殿は‥‥よし! 次は俺だ!」
その後ベルフは契約出来ず、エクレールも契約は出来なかった
「最後は俺だな」
真打登場! そして普通に契約が完了
魔法陣のある部屋を見渡してみるが植物らしきものはない、だったら‥‥
「タクティアさっそく試してみようよ!」
「そうしましょう!」
タクティアを脇に抱える
「え?」
身体強化を使い階段を駆け足で昇って行った
「先に行ってるからねー」
他の4人にそう言い残し階段を駆け上る
途中
「うわっ! あぶっ! ハ、ハヤ! 隊」
なにやらタクティアが騒いでいたが、そんな事よりも早く試して見たくて地上を目指した
「はぁ はあ はあ」
「タクティアは何でそんなに息切れしてるの?」
運んであげたのに何故か疲れた様子でいる
「ものすごい勢いで階段が通り過ぎていきましたからね、それを躱すのに‥‥」
「‥‥あーなるほどね」
脇に抱えていたが、階段との距離が近く、頭と足が階段に当たらないようにエビぞりになって踏ん張っていたそうだ。
「ごめんね、今度は肩に担ぐことにするよ」
「え、ええ‥‥」
小さく細い、若い木に『成長促進』を使ってみたところ、一瞬で巨木にすることが出来た。
林業で食っていけるな‥‥
もしくは品種改良何かで使えるかもしれない、他の隊員が魔法陣のある洞窟から出てきた後、一旦岩をもとに戻し、座標を記録してキャンプに帰ったら軍に報告することにした。




