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66 長期休暇 ②

「行政府の者ですが、あなたはウエタケ・ハヤトで間違いないですか?」


「そうですが」

庭で日課となったグースの力を制御する訓練の最中、お役人さんが訪ねてきた。そのお役人さんが語るには、つい先日新しい都市条例が施行された。


 内容は‥


「召喚獣による移動と使用の制限が付くことになりまして、今後サーナタルエ内での召喚獣による移動、もしくは飛行が禁止されることになりました」


「えぇぇぇ‥‥」



 


 ハルツールの首都サーナタルエにいる時は、いつもコスモに乗るか、たまにデュラ子から馬のハンコ子を借りて街中を移動している。

 この世界にも車はありもちろんそれに伴って道路交通法がある、交通ルールを守って住民は公共の場で移動をしている、その中で全くルールを守らない者がいた。


 俺だ


 車道を走り回り、時には歩道も走り空も飛ぶ、車道側の信号が止まれになれば歩道を走り信号を過ぎたら車道に戻る、車ではないからいいだろうと考えていたが周りはそう思ってなかった


 「いつもあの召喚者が、見知らぬ生き物に乗って暴走している」


 との苦情が役所に殺到している、しかも結構前から。

 この条例が出来たのも間違いなく俺のせいだと思う、なので‥‥‥


 俺は今、車の免許とバイクを復活させるために動力部分、つまりエンジンに付与する魔法、『放出』を契約するために泊りがけで来ている。

 何故泊りがけなのか? 遠いから? 違う、両方とも試験があるからしかも筆記試験、試験自体はすぐに受けられる訳でもなく日にちが決められている。

 数日家を空けるので首相に連絡し了解を得てここに来ている、首相は今回の条例が出来た経緯を知っていた。

 俺をピンポイントで狙って来たこの条例の事で


「大変じゃの、ふっふっふっ」

 と笑われてしまった。


 正直俺は悪くないと思っている、コスモもハン子も車ではない、車なんかと一緒にしないで欲しいし、そもそもエンジンなんかついてない、でも決まってしまった事はどうしようもないので従うしかない。


 まずは車の免許は3日に1回試験がありそれに合格し、尚且つ実技で合格すると免許が交付される、実技の方はカナル隊に居た時、キャンプ内を軍用車で乗り回し練習をしていたから大丈夫だと思う。


 実際実技試験を受けた所、一発で合格した。

 問題は筆記試験、召喚獣もいるし免許はまだまだ先でいいと思っていたので、全く勉強はしていなかった。結果としては2度落ち3度目で何とか合格、車の免許を取得することが出来た。


 そして最大の難関『放出』の契約をするための筆記試験、この『放出』は条件が厳しく筆記試験もそうだが、何より『付与』魔法を先に契約出来ていないと試験すら受けさせてもらえない、俺は既に『付与』を持っているのでそこは問題なかった。

 バイクを修復するために契約しなければならない魔法だけど、この筆記試験があるから気楽に取ることが出来なかった。一応ちょくちょくは勉強はしていたんだけど‥‥


「次の方どうぞ」


「はい」


 まずは手に契約を制限する魔道具を付けられ、魔法陣に軽く触れ契約が出来るかどうか確認がとられる、魔道具越しに魔法陣に触れることで本契約は出来ないが反応は見ることが出来る、これで契約の見込みアリの場合筆記試験を受け、合格したら実際に契約が出来ることとなる。


「はい、反応アリですね、1番の窓口で試験の受付をお願いします」

 お役所の方らしい淡々とした口調で案内される


 ここで契約書を書かされる、『放出』『付与』を持っていた場合、車のエンジンから竜翼機のエンジンはたまた船のエンジンまで作れることになる、国にとっても重要な人物になるので、管理される事になる。


 書類を10枚以上書かされ、更に講習も受けさせられる、これは試験を合格しても合格しなくてもやらなければならない、その後筆記試験の日にちを決めることになる。


「筆記試験はいつごろにされますか?」

 受付のお姉さんに聞かれる


「出来るだけ早い方がいいんですが」


「なら丁度明日試験がありますから、午前の方で予約を入れておきますね」


 そして次の日試験を迎える




 結果


 自信が無かったにも関わらず試験は合格できた、『放出』プラス『付与』を持つ俺はかなり上の国家資格を得たものと同然になる。


 その二つを持つ人間には企業からひっきりなしにスカウトが来るらしい、でも俺には全くスカウトが無かった。

 グラースオルグの威圧は無くなったという情報は既に国中に広まっているらしいが、それに付随してもう一つの情報デマが広まっていた。


 グースに触れると魂を喰われる


 以前よりもひどくなっている気がする、『えんがちょ』みたいでちょっとだけ傷つく‥‥




 ◇◆◇◆


「さて、やっと制作できる、やりますか」

 魔法契約後すぐに家に帰り、バイクの修理に取り掛かる事にする


 そして五分後‥‥


「終わった‥‥」

 いきなり頓挫してしまった。


 こちらの世界に無い材質は、似たような物で代用すればいい、形は少し不格好になるが自分で作れるのなら作ろう、まだ使えるバイクの部品は流用しようと思っていた。

 まずこちらの世界には二輪車という物が無い、自転車を含むバイクもだ、だから最初にコチラに来た時、一緒に世界を渡った兄さんのバイクについて色々質問された。


「何故こんなにも不安定な物を?」

「危険だし正直実用性が無いように思うんですが?」


 始めて見る2輪車に技術者たちは首を傾げていた、その時にちょっとでも気づいておけば良かった。

 頓挫した原因、それは‥‥‥タイヤが無い


 バイクのタイヤは正面から見ると細くそして丸みを帯びている、そのタイヤのおかげでハンドルを曲げるだけでなく、車体を倒すことで曲がることが出来る。


 一方、車のタイヤは太くそして角ばっている、真っすぐ走ることは可能だが曲がる時に角ばったタイヤのせいで車体を傾けることが出来ず、曲がるためには物凄くスピードを落とさないと曲がれない


 俺はバイクのタイヤを作れない、この世界でも不思議な魔法でタイヤを作る訳ではなく、魔道具こちらの世界での機械を使い工場で生産をしている、そしてこの世界ではバイクのタイヤなどは作ってはいない。


「いっそのことバイクは諦めるしかないか、はぁ~、車でも買うか‥‥」


 ・・・・・


 ・・・・・


 結局の所車を買ってきた、即納出来る中古車


 高校の頃からバイク乗り(原付き)だった俺にとって正直、車に興味を持てない、目の前にある車はボディの塗装が所々はがれており見栄えが悪い、特に屋根の部分がひどくかなり錆びていた。


「かっちょ悪いな~、いっそのこと屋根を取っちゃおうか」


  打ち直しをした日本刀雷雲の初仕事、初めて買った車の屋根の切断、イメージとしてはオープンカーを目指していたがここでうっかり、フロントのピラーの所まで切断をしてしまった


「ん! あっ!」


 気づいた時には既に遅し、ピラーを切ってしまったことでフロントガラスが車内に倒れそのまま割れてしまった。


「脆いガラスだな‥‥いや、逆にいいかも」

 どことなく昔のアメ車のような見た目になった


「他のボディも取ってみるか」

 ドアを外し、ボディを切り取るとどことなくカートのような見た目になる


「‥‥座席も取ってみるか?」

 座席を外し、更にハンドルやメーター類もすべて外す、そしてそのほとんどを取り外した時、残ったのはとても簡単な部品だけになった。


 この世界の車はとても単純に出来ている、簡単に言ってしまうとミニ四駆、モーターがありギアがありそのギアで前輪のタイヤに動力を伝える


 こちらの世界のエンジン、まずは何でもいいので箱を用意する、金属はもちろん木製でも構わない、それに『放出』を付与しその箱の中に燃料となる人工魔石を入れ、箱に魔鉱石でごく簡単な回路を刻むと完成になる。

 後は前輪に動力を伝えるためにギアではなく『重力』でエンジンと前輪のタイヤのシャフトに繋げれば完成、ただ単に前に進むためだけだったらそれだけで完成する、もちろんその他にもサスペンションや他の部品もあるけれど


 その単純なつくりを見ていた時「ピン」と来た


 シャーシやフロント、リアのシャフトを途中で切断し短くし『合成』でくっつけ、車体事態を小さくする、そこにほぼ無傷のバイクの座席と少々ひん曲がったハンドルを持って来てその小さくなった車の上に装着してみる


「バギーがつくれるな!」


 そこからは早かった。

 バイクらからは座席とそしてカウルとハンドル、カウルとハンドルが欠けていたり歪んでいたりしたので修復、これはこっちの世界の金属とムカデの殻の残りを使った、タイヤをオフロード用の物に変え、もし転倒した場合の安全のためにロールバーを設置、他の細かい物も取り付け、車の改造手続きなどを全て済ませ、完全に出来上がったのは4日後だった。


 ・・・・・


 ・・・・・


「素人にしては上手く出来たんじゃないかな?」

 結局『放出』を使うことは無かった。何しに取りに行ったんだろうと思ってしまうけど、あっても困らないからいいだろう。


 さて、このバギーには重要な箇所がある、それは座席、バイクの座席をそのまま備え付けた。 

 そして、約9割の男性バイカーの夢、それは後ろに女の子を乗せる事で背中に当たる胸の感触を味わう事、実は私もその9割の男性の内の一人でしてね‥‥へっへっへっ


 後ろの座席にネクターかデュラ子を乗せて走りたい、さぁ! 始めようじゃないか!


「召喚! デュ━━」

「私の出番ですね?」


「あっ、うん‥‥‥」

 最近デュラ子は召喚しなくても出てくるようになった。


 ・・・・・


 ・・・・・


「なるほど、これの後ろに乗ればよいのですね?」

 近距離でまじまじとバギーを見ている

「少し頼りなく感じるのですが」


「ハン子と比べたらそうだろう、でもな、小さい方が走りが結構楽しかったりするんだよ、ま、走れば分かるさ、ほらほら後ろに乗って」


「はい、では失礼します」


 デュラ子を乗せバギーは走り出す、久しぶりのバイクのハンドルと、向かってくる風が気分を高揚させる、こちらの世界の乗り物は人工魔石を燃料にしているので空気が汚れることが無い、日本で原付を乗っていた時はフルフェイスのメットか、もしくは眼鏡をかけていないと目の中にごみが物凄く入ってきた。

 原付から降りて鏡を見ると目の淵が真っ黒になった物だが‥‥


 ああ…気持ちいい、バイクの復活は出来なかったけどこれはこれで満足できる結果になった。しかし、いくら待ってももう一つの気持ちいい物が来ない、背中に当たるはずなんだけど‥‥


 ところがどっこい流石はデュラ子だった、背筋がピンと伸び乗馬の手本と言えるだろうキレイな乗り方をしている、その姿勢は崩れることなく常に背筋が伸びている、ちょっとだけきつくブレーキをかけても姿勢はそのままだ。


 路肩に寄せバギーを止める


「デュラ子、お前はずっとマナー違反をしているぞ」


「え! そうなのですか? も、申し訳ございません! 私のどの行為が悪かったのでしょうか?」


「こういった座席に乗った時で前に男性、そして後ろに女性が乗った場合、後ろの女性は前の男性に腕を回し少しだけくっつくような感じで座るのが常識だ。

 背中に少し胸を当てる様にして「私は座席から落ちてませんよ」アピールをするんだ。運転している間は後ろが見えないからな」


「そ、そんな常識があったとは、どうかこのデュラ子の無知をお許しください」

 デュラ子の声には少しだけ焦りが見える


「俺は寛大だからな、今度から気をつけてくれればいい」


「おぉ‥‥なんと寛大な処置、ありがとうございます今後このようなことが無いよう心がけます」


「うむ、気をつけるのだぞ」


 なるほどと、デュラ子が急に納得をした

「以前ハン子に私と主二人で乗ったあの時、主は私の胸に手を回されておりましたね、その時もそんな事情があったのですね?」


「う、うんそうだね‥‥」


「では主、失礼します」

 と言ってデュラ子は俺の体に両腕を回した


「デュラ子そこはあばら骨の所だからもっと下の方がいい、そこに手があると何となくバキッ!とか行きそうで怖いから」


「あっ! ハイ! もっと下ですね」

 デュラ子はスッと手を下げた


「あ! ちょっと待ってそこは!」


「?‥‥あっ! し、失礼しました!」

 あまりにも下の方に手が行ってしまったデュラ子は慌てて手を引っ込める


「ちょ、ちょっと形が変わっていたと思うけど、変な気を起こしている訳ではないからな」

 ちょっと変わっていたのは少しだけ期待していたせいである


「だ、大丈夫です、それに私は主の真の形を知っているのでそのような気を起こしていないのは分かっております」


「そうか、分かってくれるな‥‥ちょっと待って、真の形って何? 何で知ってるの?」


「それはいつも主の事を見ていますので、主の全てを知っているつもりです」


「ねぇ、どこまで知ってるの、見られたら駄目な所まで見てないよね」




 ◇◆◇◆◇



「という訳でして、ウエタケハヤトを軍に正式に所属させることになりました」

 軍参謀のタクティア・ラティウスは他3人の軍幹部と共に、ゴルジア・サト首相と面会をしていた。


「ふむ、いつかは来るだろうと思ってはいたが、今更都合が良すぎるのではないのかな?」

 ゴルジアはタクティアを見据える


「ええ、都合が良すぎますね、こちらの身勝手な決定ですからね、ただそれは彼の威圧が原因でした、威圧のせいで他の兵士達とは共に戦うことが出来なかったためです、ただし今は違う、彼には既に威圧がありません」


「ハヤトは威圧は無くなったが、彼に触れると魂が食われると言う噂が流れている、軍人どもに彼と共に隊を組もうという者はおるのか?」


「ええ、既に集まりました」


「なに?」


「声を掛けてみたら皆二つ返事で了承しましたよ、それに彼は元々軍人志望でした。彼が軍に入る事を条件に軍学校への入学も許可が出されましたし、その際の費用もこちら持ちです」


「ハヤトへの給金はワシが出している、通常の軍人よりも遥かに高い給金をな、それにハヤトが使用する高額の備品の全てもだ、軍人志望だとしても一度高い給金や待遇を得た以上、今更その生活の水準を下げるようなことは無いと思うが」


 タクティアはニッコリと笑い

「そう! そうなんです、人と言うのは一度贅沢を覚えるとそれ以下の生活には戻れないものです」


 いきなり自分の話に乗って来た目の前の男にゴルジアは少しだけ警戒感を持つ、一体何を考えているのか、どういう腹積もりでいるのか?


「ゴルジア首相も彼の浪費にはお困りでしょう? なので提案なのですが」


「提案?」

 

「ええ、首相と軍で折半するのはどうでしょうか?」


「‥‥‥‥なに?」





 その後、ウエタケハヤトは正式に軍に所属する事となった。


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