65 長期休暇 ①
「あっ、そうするのね」
日はすっかり沈み、デュラ子とオヤスの喫茶店で夕食を楽しむことになった。デュラ子のお願いで夕食を共にしている。
召喚獣は元々食事は不要だが、俺とネクターが楽しく食事をしているのを見て、ずっと前からやって見たかったらしい。
首と胴が分かれているデュラハンのデュラ子が、どうやって食事をするのか? と思っていたんだけど、デュラ子は「カパッ」っと頭をを胴に被った。
‥‥被った、うーん、表現がそれしか思い浮かばない、まるでヘルメットを被る様な‥‥装着、そう! 装着した。
俺としては一人「あーん」をするのかな? と勝手に予想はしていた。
口に入れ喉を通った食べ物は、そのまま垂れ流しにはならないだろう、不思議な力で胃の方に移動するのだろうと思っていたんだけど‥‥
意外と普通だった
「あの‥‥主よ、そんなに見つめられると少し食べずらいのですが‥‥」
個室に入ると、普通なら対面して座るはずだがデュラ子は何の迷いもなく俺の横に陣取った。
「気にしないでいいよ、続けて食べてよ」
ガチガチに緊張し赤面したたデュラ子、元々顔色が白いのでその差がはっきりと分かる、他人に食べる所をじっと見られていたら俺だって食べずらい。
そんなことより、首と胴の接合部分、本来切り離されている部分だがその跡が全くない、デュラ子が体を前に倒しても首が落ちる気配すら無い、まるで最初から繋がっていたかのように
俺はデュラ子の首に手を掛け「ヒョイ」っと上に持ち上げてみた
「ひょうっ! ヴぁ、あぁるじ!?」
食事中、いきなり首を上に持ち上げられたデュラ子はおかしな声を出す、首を持ち上げてみても胴と離れることは無かった。
「ああ、悪い悪い、首と胴が完全にくっついているみたいに見えたから確かめたくなってな」
「い、いえ、お気になさらず、こちらも少し驚いただけですから」
顔を赤くしたまま自身の首を少し押さえている
小学生みたいな悪戯をしてしまったけど、気になるから聞いておこう
「なあデュラ子、首がくっ付くんならさ、いつもくっ付けておけばいいんじゃないか? その方が両手も空くだろ?」
そっちの方がいいだろ? と思ったがデュラ子の考え方は違った。
「いえ、それだと戦闘中首が落ちた時に隙が出来ます」
脇に抱えていた方が落ちやすいと思うけど‥‥
「それと胴の上に首があるとバランスが乱れますから」
あの大剣とのバランスを首一つで取ってたのか、なるほど‥‥‥‥‥うん、普通に考えたら無理がある、でもデュラ子にしたらそうなんだろうな~
一応納得した俺は、目の前にある苦パナンサンドを口に運んだ、味覚異常のあるこの世界の人間とは違い、俺の召喚獣デュラ子は普通の味覚の持ち主らしく
「主、これはいささか味が甘すぎではないでしょうか?」
と言ってくる、そう! そうなんだよ、これが普通なんだよな
ソルセリー救出の時、大陸深部を抜けハルツール側の緩衝地帯に入った時には、既に食料が尽きていた。
そこでクジュの村で培った知識で、食べることの出来る野草を採取し、その場で魔法を使い土鍋を作り、野菜炒めにして皆に振舞った。
油が無いので鍋にこびりつき焦げてしまうことが多かったが、それでも数カ月ぶりの野草はため息が出てくるほど美味かった、他の4人も同じくため息が出る、しかしそれは別の意味でのため息
「‥‥魔物よりはましですね」
このトルリ・シルベの言葉
こいつには焦げ付いたところを沢山入れてやろう
「なんですか!? 捕虜への虐待ですか!?」
と叫んでいたがもう知らない、要らないなら虫でも食べてればいい、ほらムカデも殻でも齧ってな!
「やめて下さい! これは私の食べ物です、取らないで! 嫌! 魔物の死骸を押し付けないで!」
俺とトルリのやり取りを見ていた他の3人は眉間にシワを寄せながら、黙々と自身に出された物を食べていた。
あーでもない、こーでもないと出された食事に対し討論する、同じ味覚を持つデュラ子との食事はとても楽しい物だった。
◇◆◇◆◇
ハルツールに無事に帰還したその日のうちに、ゴルジア首相には既に連絡を入れていた。
大陸深部での戦闘などで破損した武器や防具、それとレールガンなどの弾丸を含む備品、それらを修理補充などをしなければならない、俺の武器などはどれも癖のある物ばかりで、コレが無いと自分の力を発揮できない‥‥‥という設定の元、サボりたいのだ。
「なのでこれらのために長期の休暇を下さい」
「うむ、ゆっくりと休むといい」
「‥‥ありがとうございます」
意外とあっさり首相から了承され、少々肩透かし気味の所がある。
その後も色々と言い訳を用意していたんだけども、それは次の機会に取って置こう。
建前は一応準備になっているけど、いつまでも休んではいられないので、破損した物の修理などもやって行かなければならない
「はぁぁぁぁぁ‥‥‥‥」
破損した武器防具を見てため息が出る、ちょっと直すだけでは不可能で、ほとんどが作り直しの状態の物が多い。
ちょっと欠けた‥‥ちょっとだけヒビが‥‥ならまだいい、ここまで酷いとやる気が中々出てこない。
日本にいた頃俺が一時期ハマっていたゲームに「壊して作り直そう」と言うゲームがあった。
四角いブロックを集め、それを色々な形に作っていくゲーム、中々奥が深く回路などを使うことで、自動で食べ物を作ったり材料を作ったりできるゲームだ。
動画サイトで他の人の作った物を一生懸命に真似、出来上がった時には物凄い満足感がある。
ただし、そのゲームには「お師匠さん」と呼ばれる敵がいた、深緑のその敵はせっかく出来上がった物を木っ端みじんに破壊していく、多少の損害ならまだいいが、時間をかけて作った物全てが一瞬で破壊された時のあの絶望感はとてつもないものだった。
鉄を自動で精製出来る装置を破壊された時に完全に心が折れ、その後別のゲームに逃げた。
目の前にある破損した武器防具を見て今にも逃げ出したくなる。
「やるか‥‥‥‥」
突っ立っていても物事が進むわけでもないので、仕方なく取り掛かることにする
レールガン用の弾丸は召喚獣のノーム達に任せ、まずは防具に取り掛かる。
「散々だな」
防具の至る所が欠け見てるだけで痛々しい、中には少々危なかった箇所もあった、あと少しだけ深かったら肉体の方が傷ついていたと思う
召喚者としての防具に求めることは機動力、常に味方に守ってもらう存在の召喚者には防御力など不要、それよりも臨機応変に対応すること、敵の攻撃を避けることが必要と教えられてきた。
だが実際はほぼ一人で戦って、召喚者なのに前に出なければいけない、そんなのおかしいですよカテ〇ナさんと文句も言いたくなるが、こればっかりは仕方ない
通常の軽鎧を装着してみたけど、3年程俺が手を加えた軽量化された鎧を付けていたので、通常の軽鎧は物凄く違和感があって本当に使いずらいし動きずらい。
だからと言って前のように軽量化をすると防御力が落ちる、さてどうしようか? と迷った挙句思いついたのが、盾に使っていた『重力』を付与した1センチ四方のキューブを使うことを思いついた。
前回と同じで軽鎧を更に軽量化し適切な場所にキューブを埋め込む、そしてそれに装着できる様な装甲を作り、その裏にもキューブを装着、要するにアタッチメント形式にする、普段はその装甲アタッチメントを『収納』に仕舞い、必要な時必要な場所にアタッチメントを出す事にした。
軽量化した軽鎧自身にも改良を施す、大陸深部で得たムカデの殻、中々防御力がありしかも金属よりも軽量だったため必要な場所に『合成』魔法を使い、それを張り付けた。
金属と魔力を通す布だけだった軽鎧が、ムカデの殻がいいアクセントになり、中々おしゃれに仕上がった。
出来上がった鎧を鏡の前で堪能する
「かっこよすぎる‥‥‥‥、そして更に!」
軽鎧に埋め込んだキューブの上にアタッチメントの装甲を『収納』から出す
「おおぉ!」
あっという間に防御力重視の鎧に変化した。まるで変身ヒーローみたいだ。
何度か出したり引っ込めたりして堪能したた後、デュラ子にも褒めてもらおうと思い召喚
「素敵です主!」
手放しの大絶賛、うっとりとした顔で俺の鎧姿に見とれていた。
ここではたと思いつく、デュラ子は軽鎧というかオッパイアーマで防御力が殆ど無い、一方の馬のハン子も鞍しかない‥‥‥そうだ! デュラハンにもコレを応用して作って上げよう。
デュラ子には西洋の騎士の様な重鎧を、ハン子にも中世ヨーロッパにあった馬の鎧を、そして必要な時にいつでも『収納』を通じ、すぐ装着できるようにした。
「わぁー! わぁー!」
いつもは堅苦しい女騎士の様な話し方をするデュラ子が、まるで子供の用に目を輝かせ喜んでくれた
「凄いです、凄いですよ! 最高ですよ!」
喜んでくれている姿を見てるとやった甲斐があるというもの
さて、防具はこれでいいとして次は武器の方、半ばでぽっきりと折れてしまった日本刀もどき雷雲・改、『分離』で魔鉱石を剥がし魔道具の炉で溶かす、折って伸ばしてを繰り返し日本刀の姿にする、何度かやっているせいか少しずつではあるけれど出来が良くなっている気がする、溝を掘りそこに剥がした魔鉱石を流し『硬化』で固める、この溝を掘って魔鉱石を流し込む作業がメンドクサイ、プラモで何個も同じパーツを組み立てる作業と似ている。
武器も完成したけれど、そこから流れる魔力の色、人工魔石で色を付けていたけど‥‥変えてみるかな?
無色にすると相手は間合いを読み切れず有利になると思う、ただ俺にも見えなくなるので危ない、なので今回も色を付けてみようと思う、前回と同じ人工魔石を嵌め雷雲は完成した。
今回は槍も作ってみようと思う、魔力を極力使わない風に調整、軍の支給品の槍をモデルにし細身の槍で先端から魔力を少しだけ出すようにする、色づけ用の人工魔石が‥‥
「あれ? 紫色が無いな」
持ってくるのもめんどくさいし
「これでいいか‥‥」
丁度手元にあった人工魔石を入れ、魔力を通すと穂先から黄色の魔力が出た
「黄色か‥‥まぁ、いいや」
鍛冶仕事と一緒に魔法も改良して行く、大陸深部でのワーム、あれが正直今でも怖い。
最近も夢で出て来た位だし、地面からいきなり飛び出し飲み込まれ肉の塊になる夢を何度も見て、その都度飛び起き心臓が痛いくらいに鼓動が速くなる。
地面の中にいる者に直接攻撃できる魔法の開発、これは結構簡単に作ることが出来た『火』魔法をベースにして作ってみたけど、これは地上の敵にも効果がありそう、大地そのものを溶かすドロドロの溶岩、魔力の消費は結構多いけどワームには効果はばつぐんだと思う。
そして地中に潜んでいる者を探す為の『探知』魔法の開発、これが一番時間がかかってしまった。
ノートに何度も魔法陣を書き直し何度も試し、調整しやっとのことで完成することになった。
ただ、地中の『探知』をするためには直接地面に接触する触媒が必要になってしまう、それで作ったのが杖、最初はお年寄りがするようなステッキタイプの杖を作ったけど‥‥
「違うな、これ」
最初は杖なら何でもいいと思ったけど、段々と制作に熱が入り、ノームに身振り手振りで意見を求め、デュラ子に相談しやっとのことで完成したのが
「神々しい感じがします」
デュラ子が感心する
「ここまで派手にする必要は無いんだけど」
「いえ、主にふさわしい杖かと」
「そお?」
完成した杖は地面に刺さる為に杖の先端が尖っている、自身の親指程の太さで杖の上の方は、よく分からないが何となくかっこいい形をした飾りがあり、その飾りの中心には天然の魔石が『重力』魔法を使い浮かんでいる、その他にも色々装飾や無駄な文字が刻まれていたる。
もちろんその装飾には意味が無い、一歩間違えば完全に魔法少女になっていたが、何とかファンタジー系RPGに出てきそうな杖にとどまった。
今まで通常の、魔物を発見するための『探知』、生命がある物に反応する『探知』、『潜伏・隠蔽』の解除、更に生命の『探知』
この4つの『探知』魔法をワンセットで使っていたけど、更に地中を調べるために杖を使った『探知』魔法が入る、頭の中で色々な物がチカチカして気持ち悪くなるけど、こればっかりは慣れるしかない
◇◆◇◆
「うおおおおおおおおおおおおお!」
「「ワオォォォォォォォォォォン!」」
手を握りしめ足を踏ん張り体中の力を腹の中心に集める
只今グースに変身するための特訓中です、毎日の日課になっていたこの特訓、正直効果があるかどうか全く分からない、毎回オル&トロスに手伝ってもらっている。
定番の怒りで、もしくは悲しみの力で‥‥色々やっては見ているがあれ以降変身はしていない、庭で練習をしているが、たまに近所の人や通りかかった人が門の所から覗いたりしている、大人が大声を出して叫んでいるのが気になるんだろう、俺だってそんな人がいたら気になるが、危ないから近寄らない、ただ、この辺りは治安が良いせいか何かあると住民たちが集まってくる。
「いい加減諦めたらどうだ?」
「いえ続けるべきです、遠吠えをするご主人はとても素敵ですよ」
遠吠えじゃないし‥‥
「やっぱりだめかなぁ~」
効果が全く無いのならこんなことに時間を割きたくは無いんだけど、もしも効果があったらネクターに会える機会が増える、そのために一心不乱に頑張ってきた。
少しでも望みがあるのなら続けていこう、全く無いとは言いきれないし
「今日はここまでだな、夕食にするか」
食事を終え夜になり布団に入る、一日中何かをしているせいか大陸深部から帰って来てからぐっすりと眠れる日が多い、その日も布団に入ってからすぐ意識が深い所に落ちていった。
・・・・
・・・・
朝
布団から起き出し、顔を洗い歯を磨くため洗面所に行く、まだ完全に目が覚めてない状態で蛇口からお湯を出し両手ですくい、顔に掛けた
ゴン
何か硬い物が当たる音がする、それと顔に水を掛けたつもりがその感触が無い、鏡を見て寝ぼけていた目が冴えてくる。
そこには自分の見慣れた顔で無く赤黒い鎧を纏った自分の姿が鏡に映っていた
「アレ? グラースオルグ二ナッテル」




