63 贈り物
「おーよしよし」
黒い色をした長い首を優しく撫でてあげる、撫でられている方は気持ちよさそうにその長い首を軽く上下に振る、お店の前にいる俺達を変わった物を見るような目で通行人がコチラを見ていた。
それもそのはず、こちらの世界にはいるはずもない動物がそこにはいるから
「ハン子気持ちいいか?」
ブルルル
よほど気持ちがいいのかハン子は鼻を鳴らした、この世界にはいない馬の首を撫でながら、デュラハンの本体の方のデュラ子が店から出てくるまで外で待っている所だ。
◆◇
大陸深部を横断しハルツールにソルセリーを無事に‥‥完全に無事とは言えないけれども、ハルツールに帰ってきた時には、失明をしていたソルセリーを、目捕虜ということで保護をしたトルリ・シルベの回復魔法で見えるくらいまでには回復していた。
切断された指も少しは再生出来ていたし取りあえず無事に、て事にしておこう。
深部を脱出し、緩衝地帯を抜け近くにあった村に到着した俺達は、その村に駐留していた部隊によってすぐさま軍本部に連絡が渡った
俺がソルセリーの救出に向かってから3カ月が過ぎており、軍は俺達が死亡したと考え、すでに葬式が執り行われていたらしい。
その事を、その村に駐留していた部隊の隊長に教えてもらった、ハルツールに戻るのにどうやってここまで来たのか? 駐留していた部隊の人達に聞かれ、深部を通過して来たと答えると彼らは驚き興奮した状態で詳しく話を聞きたがった。
オットがそれに答えていたが、オットも無事に帰ってきた興奮からか饒舌に話していた、そこまで話してしまってもいいのかな? と思う箇所まで話していたが、ベルフが止めなかったのでいいのだろう、マシェルモビアに襲撃された事、深部での戦闘、天使ネクターから女神サーナまで、女神サーナが来た時はお前寝てただろうと思ったが、オットはさも自分が会った様な話し方をしていた、無事に帰ってこれたことで彼らも心が解放的になっていたのだろう
その日は村にある駐留部隊の宿舎でそのまま一泊した、魔物に警戒をしなくてもいいのは、やっぱりいいなと思いつつ、久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た、自分でも分からないくらい疲れていたのか次の日起きた時にはもう昼を過ぎていた。
「おう、ハヤトやっと起きたか」
部屋を出てリビングに向かうと、そこには筋肉質で髭面のベルフ・ラーベが1人椅子に座りくつろいでいた
「おはようベルフ、他の3人は?」
「まだ寝ているな、今お茶でも入れよう」
「うん、ありがとう」
こんな日は味がコーヒーに似たクオルシでも飲みたいんだが、既に『収納』の中身はすっからかんになっていた、入っているのは壊れた武器や防具くらい
帰る前にクジュとコンセの村に寄って行こうか‥‥
コトリ‥‥とベルフが入れてくれたお茶がテーブルの上に置かれる、それを一口‥‥うん、久々に飲んだけど砂糖水かな? と思うくらい甘い、でもとても懐かしい気持ちがした。
「ハヤト、昨日は言えなかったが‥‥ありがとう、今ここにいられるのはハヤトのおかげだ」
真っすぐに俺を見るベルフからは言葉と同じ感謝をしているという念が伝わってくる
「お礼を言わなきゃいけないのはこっちもだよ、俺だけだったらソルセリーを救出するのは無理だっただろうね、あの時ベルフがソルセリーを連れて逃げ伸びてなかったら俺はどうしようもなかったし、その後も何度もベルフに助けてもらったからね、もちろんオットやソルセリーも含めて」
実際ベルフには何度も助けてもらったし、最初の頃見捨てて置いて行こうかと考えていたオットにも命を救われた、救出対象のソルセリーも魔物との数の差を埋めるためには必要だった、捕虜になったトルリですら助けになった、俺としては彼らには感謝しかない
「何にせよ俺もやっと任務が終わったし、これから長期の休暇を申請しようと思っているんだ、ベルフ達も多分貰えるはずだと思うし、お互いゆっくりと休もうじゃない」
入れてもらったお茶を一気に飲み干し椅子から立ち上がる
「それじゃあ俺は一足先に戻るよ」
「戻るってどこに?」
「サーナタルエだよ」
「ちょっと待ってくれ、明後日には迎えが来る予定なんだぞ、その時に皆で一緒に戻ったら‥‥」
「寄りたい場所が2か所程あるし色々と約束もある、それに召喚獣で帰った方が速いからね」
「ならソルセリーとオットを呼んで‥‥」
ベルフは2人を呼ぼうと席を立とうとするが
「いや、寝かせて置いてあげて欲しい、あの二人も昨日まで相当無理をしてたのは分かってるし、昨日だってかなりはしゃいでいたからね、自分で起きてくるまでそっとしておこう」
「そう‥‥だな、ソルセリー辺りは怒り出すと思うがそのままにしておくか」
「じゃねベルフ、それと報告書を宜しく俺正規の軍人じゃないから」
「分かった、‥‥ハヤト」
「うん?」
「またどこかで会おう」
ベルフは右手を差し出して来た
「ああ、どこかで」
◆◇
ベルフと握手を交わし、クジュ村・コンセ村に立ち寄りサーナタルエに戻ってきたのが昨日、一日ゆっくりと休み今日はデュラハンのデュラ子と約束をしていた彼女の靴を買いに来ていた、女の買い物は長い、てことで俺とデュラ子の相方のハン子は外で待機している。
「主よ、お待たせしました」
脇に抱えられたデュラの顔がニコニコと笑っている、召喚獣と言ってもやはり女なんだろう、買い物となるとやはり嬉しくなるようだ満足気な様子からいい物を買えたようだった。
「いい物を買えたみたいだ」
「はい、満足のいくものが買えました」
俺が買ってあげた服によく合う靴を履きデュラ子は上機嫌だった。俺の後ろの方では首を脇に抱えたデュラ子を見て「うわぁ!」とか「ひぇぇぇ!」とか通行人が悲鳴を上げているが知ったこっちゃない、デュラ子の色気が伝わらないとは‥‥と逆に可哀そうになってくる。
「じゃあお前の服を買いに行こうか」
「主よ服はこの前買っていただいたばかりですが?」
「あれだけじゃ足りないだろう? 服ってのは流行り廃りが激しいからな、あれから結構たっているんだ、また新しいデザインの服があるかもしれない、お前だって新しいのが欲しいだろう? その他にも一着プレゼント用に用意したい服もあるし」
「はい! ‥‥ですが私だけというのは」
「他の召喚獣にも色々買ってやることにする、あいつ等にも色々と世話になっているからな」
「‥‥何という、我々にこれほどの褒美を取らせて頂けるなど‥‥、私はもちろん彼らも一層主に対し忠節を尽くすことでしょう」
デュラ子とハン子はその場で深々と頭を下げた、デュラ子の場合は頭を脇に抱えているので、上半身を倒すという表現が正しいかもしれない
前にデュラ子が、召喚していなくても俺が何をしていたのか見ていたと言っていたことがある、詳しく聞いてみた所、召喚獣には個別に部屋、もしくは空間が割り当てられており、そこで思い思いに過ごし他の召喚獣達と話をする事も出来るらしい、そしてモニターではないが、俺の姿を見ることが出来る物があるらしくデュラ子はそこにかじりついて見ているらしい。
他の人の召喚獣もそうなのか? と聞いてみたら「知らない」と答えていた、こればっかりは喋ることの出来る召喚獣がいる人でないと分からないので確かめようがない
デュラ子の魔法陣の中の部屋は結構大きいようで、そっち用に新しいタンスを新調した、それと馬の方のハン子の『収納』に仕舞ってあるタンスもそちらに移すことにする、そして空いた『収納』には後で新しい武器を仕舞える物でも作ろうか?
デュラ子には新しい服とファッション雑誌を買ってあげ、ハン子にはブラシを買ってあげた。ペガサスのコスモもブラシがいいとデュラ子の通訳で分かったので同じものをプレゼントする。
ノーム達は聞かなくても分かるパナンのシロップをやろう、ただ彼らは地べたに座って酒盛り? しているらしくテーブルとイス(切り株風)をセットであげる
オル&トロスにはボールを、それと『風』魔法を使った簡単な魔道具を作った。
ボールをその魔道具にセットすると自動で発射できる筒を作ってみた、最大10連射、速度と角度も調節できるようにした。
鳩ポッポは箒が欲しい? みたいで庭にあった竹ぼうきに近い物を上げる、デュラ子に後で聞いたところ、箒の先の方を千切ってそれを集め巣に使ったようだ。‥‥‥卵でも産むんだろうか?
最後にヒュケイにそっくりの召喚獣ヤタだけど、こいつだけは俺でも何を考えているのか分からない、デュラ子にお願いして聞き出すと大きな木が欲しいとのこと、緩衝地帯に赴きそれなりの木を確保『土』魔法で根を潰さないように土だけを除去してあげるとヤタはそれを持って帰って行った。デュラ子に後で聞くと、ヤタは魔法を使って穴を開け持ち帰った木を植え、木の上の方にいつも止まっていると言っていた。
え? なに? 木が植えられるくらい広い空間なの? 一度魔法陣の中がどうなっているか確認したい。
さて、デュラ子に靴を買ってあげ、召喚獣にもプレゼントをあげたしもう一つの約束した事に移ろうか
「出でよネクター」
「‥‥その言い方‥‥」
何となく出てきそうな気がしたからやってみたけど、本当に出てくるとは思わなかった、俺の目の前には銀髪の世界で一番可愛い女の子がそこにいた、呼ばれ方で少し不満げな顔をしているが、その顔すら可愛い
「やあネクター会いたかったよ、相変わらず世界一可愛いね」
「可愛いと言われても僕にしたら微妙だけど、とりあえずありがとうと言っておくよ」
そう言ってネクターは柔らかく微笑んだ




