62 タクティア・ラティウス
軍参謀の一人タクティアは、自身の部屋に一人の人物を招いていた
「すみませんね無理に来ていただいて」
今回ようやく時間を取ってもらって来てもらったソルセリー救出の場にいた一人、ベルフ・ラーベと会うことが出来た。
「そちらの椅子にお掛けください、今お茶を入れますので」
「はっ、恐縮です」
ベルフ・ラーベは少し緊張した面持ちで椅子に浅く腰を掛ける
彼を呼んだのは、前回の作戦で報告書には書かれていない細かな内容をどうしても聞きたかったから
ベルフ・ラーベは「自分は何かやらかしたのか」と思っているようで落ち着きがない、だけど今回私が呼んだのは、ただ単に自分の興味を満たすため、一種の娯楽になる。
それでいて今後の作戦を立てるための参考にもなる
破壊の一族が無事に帰還したことで私の軍に対する発言力も回復した、むしろ少し上がっただろう、彼らのおかげで‥‥‥‥
今回呼んだのがベルフ・ラーベだったのは、ただ単に一番呼びやすかっただけ、サコナ・ソルセリーは軍で管理をしているため、今の私ではまだまだ力が足りず許可なく呼び出すことが出来ない、しかもその許可すら下りることは無い。
それにサコナ・ソルセリーは前回の作戦を最後に軍を退役するという噂まで流れている、軍にとって破壊の一族のカードがなくなるのは損失になるが、一族で血を次の世代に引き継げるのはもう彼女しかいない、将来の為にもそちらの方がいいと思う。
もう一人の重要人物のウエタケ・ハヤト、本来ならそちらの方に話を聞きたかったのだが、ゴルジア・サト首相がガッチリ囲ってしまっていて連絡すら通らない、前回の作戦で帰還して以降‥‥
「彼は正規の軍人ではない、もし彼に話があるのなら必ず私を通すこと」
と軍に対して通達があった。
そう、ウエタケ・ハヤトは軍人ではない、給与だってゴルジア首相が出している、物資は軍の物を使ってはいるがその資金を出しているのも首相だ、それに、未だに軍は彼を正式に認めてはいないという事もある
現在ウエタケ・ハヤトは、大陸深部での戦闘などで自身の武器や防具のほとんどを失ってしまった。
彼の力を十二分に発揮するためには、彼専用の武器や防具が必要とのことでその修復や休養のために長期の休暇に入っている、たった4人だけで大陸深部を通過したという偉業を成し遂げたのだから、当然と言ったら当然の権利になる、長期の休暇を取るのに誰にも文句などは言われないだろう
「どうぞ」
巷では普通のお茶にトロン茶の茶葉をほんの少し入れるのが流行っているらしい、そうするとお茶に少し深みが出るとか‥‥、私も試しては見たが正直サッパリ違いが分からない、ただ最近の流行りなので私もそれに従う事にする
「ありがとうございます」
まずは彼の誤解から解いておきましょうか、まずは自分の分のお茶を一口飲み‥‥やっぱり違いが分からない
「まず今回お呼びしたのは何かを詮索するためではありません、ただ単にお話がしたかっただけです」
「話‥‥ですか‥‥」
「ええ、例えば報告書にあったウエタケ・ハヤトの案により進路を大陸深部に‥‥となっていますが?」
「その通りです報告書に嘘偽りはありません」
「ふむ、では何故貴方はそれに従ったのですか?」
「それは‥‥次に指定されていた場所の進路上には既に敵兵が潜伏していて進めなかったというのと、その時の決定権がハヤトにあったからです」
「大陸深部の事は軍学校の授業でも習ったはずですが、人が近づいては行けない場所となっています、昔は深部の調査隊も軍から出されていたようですが、あまりの被害の多さに今では調査などもってのほか‥‥となっています、現に貴方たちを追跡してきたマシェルモビアの兵士20名、捕虜になった女性兵士を入れたら21名でしたか、彼らも最終的にはたった4名になっていましたし‥‥貴方は大陸深部の危険性を進言しなかったのですか?」
「それは‥‥」
考えてもいなかった‥‥て表情ですね、あの時決定権はウエタケ・ハヤトにありましたが、経験や年数では貴方やソルセリーの方が遥かに多い、ウエタケ・ハヤトは軍学校を卒業してからまだ3年程しかたっていない、決定権が彼にあるとはいえ、普通なら難色を示したり進言するはずなんですが
「言い方が少し悪かったですね、別に責めている訳ではありませんよ、その時の貴方が思っていたことが聞きたいんです、私は戦いの準備をしたり策を練るのが仕事であって、実際に戦いの場に立つことはありません、なので、その場に実際にいた兵達が何を思って行動をしたのかまでは分からない、それを知ることも私には重要な意味があるんです」
知っていた方が人を動かすための参考になりますからね
ベルフ・ラーベはそれから2分ほどゆっくりと考えてからその口を開いた
「‥‥安心、でしょうか」
「安心?」
「ええ、ハヤトが来てくれるまで私は恐怖と不安の中、ソルセリーと二人だけでの撤退を余儀なくされていました、絶対に守らねばならない破壊の一族、そのソルセリーは自身の姉が亡くなった辺りからどこか生きる希望を失っている状態でした。逃げろと言っても手を引いてやらないと逃げようともしない、それに彼女は通常の戦力にはならない、私一人で敵兵や魔物の奇襲を警戒し、夜もまともに休むことさえ出来ない、私達はあの時かなり限界まで追い詰められていました」
普通は報告書には記されない部分ですね、そうです、そういうのが聞きたいんです
「その時にハヤトが空から降りて来たんです、急に頭の上から声を掛けられた時は驚きましたが、姿を見た瞬間『竜騎士だ』って思いましたよ、救援に来たと聞かされた時は涙が出そうになりました」
「彼はそんな言い方もされていましたね」
「ええ、グースでもあるって事すら、すっかり頭の中から抜けてしまってました、竜騎士に憧れて軍に入った様なものですから、あの時は舞い上がってしまいましたよ」
私は椅子から立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出す、それは軍に入る物なら誰もが一度は読んだことのある種類のもの
「私も竜騎士の物語には憧れていましてね」
本棚から抜いた一冊の本を机の上にそっとおいた、それは実際いた竜騎士の一人にスポットを当てた作品
「それは! ドミノ・ハットが書いた本ですね」
彼は少し興奮したように聞いてくる
「ええ、この作者は変に誇張しないで史実に沿った物語を書くので気に入っているんです」
「この作者はヒザ・ヒサーラをよく題材にしていますよね! アルカリの単騎で敵の中に突入する場面何かは‥‥」
ベルフ・ラーベは最初の時の硬さが取れてやっと饒舌に話し出しましたね、正直竜騎士なんて無くなってしまった物に興味はないんですけどね、話のネタに一冊持っているだけなんですけど
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その後もベルフラーベは報告書には書かれていない細かな話の内容など、事細かく話してくれた、その中でタクティアの興味を引くような内容がベルフ・ラーベの口から語られた
「深部で魔物の集団に襲われた時なんか、急に「走れ!」って言うんで逃げるんだと思っていたら、他の場所にいた魔物の群れに突っ込んで行くんですよ、後ろから追ってきているのに更に増やすような事をして、正直ハヤトは正気ではないと思ったんですが、ハヤトは『幻惑』魔法を使って魔物同士で戦わせたりとか、あの時は本当にひやひやしましたよ」
報告書には魔物の種類と大体の数しか書く必要はないので、ベルフ・ラーベのその時に実際に起きた細かな事柄や彼らの話の内容をタクティアは楽しそうに聞いていた。
「ウエタケ・ハヤトは変わった事をするのですね」
変わっているのは彼の召喚獣とグースの力だけと思ってましたが
「何でも『まんが』と呼ばれる兵法書を参考にしているみたいですよ」
‥‥兵法書‥‥
「‥‥兵法書、ですか?」
「はい、彼自身は他の世界から来たと言っていますけど、まぁ、嘘か本当かは別として、その彼のいた世界の書物のようです、ハヤトが言うには『まんが』には軍事の事はもちろん、万物全ての事が記載されているみたいで、捕虜にしたトルリ・シルベが簡単に口を割るのも最初に彼女を発見した時に分かったらしいですよ」
兵法書‥‥別の世界の兵法書
「欲しい‥‥」
「え?」
「あ、ああ、いえ、ウエタケ・ハヤトは元からそういうのに興味があったんですね」
「いえ、どうやらハヤトの兄が興味があったらしく、部屋だけでも何百冊もあるそうです、ハヤトはたまにその本を借りて読んでいたみたいですね」
「‥‥成程、素晴らしい兄をお持ちみたいですね」
「そうですね、その事以外にも‥‥」
・・・・・・
・・・・・・
「魔物に囲まれた時なんか‥‥」
そんな事が‥‥
「魔物が近づく前に‥‥」
そんな事まで‥‥
「夜に野営をする時に‥‥」
本当にそんな事まで?‥‥
・・・・・・
・・・・・・
「では、失礼します」
「今日はありがとうございました、とても参考になりました」
ベルフ・ラーベを見送り、タクティアはドスッと椅子に座る
別の世界の兵法書‥‥欲しいですね、今の会話の中でも私の知らなかったやり方などちょっと聞いただけで参考に成り得る物があった‥‥新しい物事の考え方や知識
実際に会って話を聞きたいが現在ウエタケ・ハヤトはゴルジア首相直属の状態になっている、話をしようにも首相がガードして話すら出来ない、ならどうすれば‥‥
彼の知識などが他の者にも知られる事が来るだろう‥‥
駄目だそれだけは!
タクティアは机の上で頭を抱え込み唸り声を上げる、ひとしきり唸った後椅子にもたれかかり彼は天井を見上げた
コン コン
「独り占めしたいですねぇ‥‥」
その知識を独占するためにはまず首相から引き離さないといけない、引き離す為にはどうするか? それは簡単な事、軍に正式に復帰させればいい、そうすれば話ならいくらでも聞けるだろう、ただ問題が一つ、私が話が出来るなら他の者だってそれは出来る
それに今復帰をしたら必ずどこかの隊に所属することになる、一人で単独行動させるような事にはならないだろう、そうすればその所属した隊から知識が漏れる可能性がある、ならどうすれば‥‥
「どうすれば‥‥うーん、どうすれば‥‥! 一緒に居ればいいのか!」
そうだ、私も同じ隊に入ってしまえばいい、そうすれば直接知識を吸収できる! では所属する隊員はどうする? 出来ればこれ以上は広めたくない‥‥ならばもう彼の事を知っている人達で固めてしまえば‥‥
「タクティア、女の事で悩んでいるのか?」
「はっ?」
「いや、一緒に居たいとか言っていただろう? 相談なら乗るぞ」
ドアの前にはタクティアと仲の良い同僚がドアに寄りかかる様に立っていた
「何で入ってきているんですか?‥‥」
「ノックならしたぞ、でもお前は女の事で悩んでいるみたいだったから気づかなかったんだろう?」
同僚はニヤニヤと表情を崩す
「‥‥ふふふ、そんな事ではないですよ、面白い物が見つかっただけです、それよりも‥‥少し手伝って欲しいことがあるんですが」
明らかに悪だくみをしてそうな顔で‥‥
「ほう? 安くはないぞ」
「もちろん、多少は貴方にも情報を流してもいいですよ」
「「 ふふふふ 」」
仕事は出来るが自身の欲望に忠実なタクティアは、おのれの知識欲のために裏で動くことになる




