55 大陸深部 ①
底なし沼のように足が取られ、思うように動くことすら出来ない、自分の思い道りに動けない事と、どこから出てくるのか分からないこの状況がさらに恐怖を増す。
緊張からか額には汗が噴き出しており、その汗が地面に落ち、音が出ないか不安になる
この状況で音を出すことは死を意味する、誰も動けず時間だけが過ぎていく、足元には人間一人を丸呑みできるほどの魔物がうごめく。
地中をうごめくその魔物は音を聞きつけ、地面の中から一気に上昇し土ごと獲物を食らう、魔物の口にはのこぎりのような鋭利な歯が付いており、軽く触れただけでも肉が切れるほど鋭利なしろもの
ズルリ‥‥ズルリ
地中の中を進む魔物の振動が4人の足の裏に伝わる
◇◆◇◆◇
「深部に来たことってある? 俺初めて来たんだけど」
「私も初めてですね、空からチラリと覗けることがあっても、自分の足で歩くのは初の試みですよ」
俄然やる気のある竜翼機の乗組員オット。
「最初は陸戦部隊に入りたくて軍に入ったんですがね、必要な魔法の数が足りなくて仕方なく竜翼機に乗ってるんですよ」
肩の傷がかなり良くなったみたいで、言葉の数が多くなってきた、そもそも骨、血管などに異常はなく破片が深く刺さっただけで済んだみたいで、回復はかなり早かった。
マシェルモビアに待ち伏せ、尚且つ進路を塞がれ仕方なしに大陸西へと進んだ。
大きく迂回し、大陸東部から深部を通り、大陸中央からハルツールに帰還する予定だが、大陸深部と呼ばれる場所には遠い昔、グラースオルグが通ったと言われる場所になる。
グラースオルグと名の付いた都市で誕生し、以降、その誕生した場所の名をそのまま取り、グラースオルグと呼ばれたソレは、大陸西から大陸を東に分断するように横断した。
グラースオルグが通過した場所からは、人が入ることが出来ないほどの危険な魔物が常に生れ落ち、そこで魔物同士、生存を掛けた争いをしている。
あまりにも過酷で危険なその場所は大陸深部と言われ、人が立ち入ることを今まで拒否してきた。
「陸から深部に入ることは最近ではなくなりましたからね、調査だって今ではやってないはず」
目の前に見える景色は、木が殆ど無く、地面は耕された畑のように柔らかい、所々穴が開いておりまるでモグラでに穴を掘られたようになっている、あまりにも柔らかい地面に足を取られ、思うように進むことが出来ないでいる。
「深部東側から深部中央辺りまでは、虫の様な魔物が多いらしいですよ、甲殻を持った魔物とか、あとは‥‥たしかワームですねここら一体の主らしいです」
ワームって何だったっけな? ワムゥなら知ってるけどねあの石化の人の
‥‥‥ワームって何だったけな? 学校では習った気が‥名前は聞き覚えがあるけれど‥‥
陸で働くことを希望していた竜翼機の乗組員オットは、仮とはいえその夢をかなえた状況におり、かなりの興奮状態にある。
俺としては、いくら強い魔物と言っても魔物は魔物、違いは特にない、生来の楽天的な性格もあり普段と変わらない。
しかし後の二人、ベルフとソルセリーの怯え具合は尋常ではなく、常に自分の武器を手に持ち、せわしなく視界を確認し辺りに注意を払っている
「オットは詳しいんだね」
「いまだに陸への憧れがあって、時間があると資料なんかを読みふけってますよ、それで頭の中で、この魔物と出会った場合どう対処するかを妄想するのが楽しくて」
戦力で劣るオットには、俺が万が一のために持っていた銃を手渡していた『収納』が使える彼に俺が持っている弾を全部預けている、たまに渡した銃を構えたりして嬉しそうにしている、それと、先のマシェルモビアとの戦いで結局使わなかった、『重力』を付与した魔石も渡す。
ふと、目の前に緑色の物体が横たわっているのが見えた、その物体の表面は太陽の光でキラキラと光っている
「あれなんだろうね?」
「あの色は多分カマルドウマですね、顎と後ろ足が異様に発達した魔物ですよ、その体の一部みたいです」
近寄って見ると1メートル程の体のパーツだった
「これは後ろ足ですね」
オットがそう言った物体は、確かに足の形をしているように見えるが、その足の太さは俺の胴回りと同じくらいの太さがあった。
「足を広げると全長3メートル位になるそうです」
詳しいな、昆虫博士みたい
「ん? 光ってると思ったら濡れているな、体液かな?」
「それはスライムですね、獲物の表面に張り付いてゆっくりと溶かし消化するそうです」
「へー‥‥これがスライム」
ただ濡れているようにしか見えないが、よーく見てみるとわずかに上下し動いている
「‥‥貴方たちよくそんなに落ち着いてられるわね」
戦闘能力がほぼ無いソルセリーは、俺が渡したロケットランチャー、正確には小型魔石砲を抱え、誰が見ても怯えている様子でいる。
「大陸深部と言っても、普通より強い魔物が出てくるだけだろう? なら、それなりの考えを最初から持っていれば、ゴブリンなんかと大差ないよ」
「‥‥全く分からないわ」
そう言ったあと、俯き顔をしかめた後
「‥‥‥‥‥‥よーく考えてみたけど、やっぱり全く分からないわ」
もう一回言った
「言った俺もよく分からないけど、同じ魔物だろ? 何とかなると思うよ」
「貴方は‥‥‥‥ハァ‥‥」
呆れたと言わんばかりのため息を吐き、左手で頭を押さえるような仕草をされた、正直コンセの村で変種の魔物と戦った俺としては、いくら深部の魔物が強いからと言って大して怖くはない
「おい! 出たぞ!」
先頭を歩いているベルフが俺達に呼びかける
びょ~ん びょ~んと大きくジャンプしながらコチラに迫る物がいる
ん━━━ バッタだな!
「あれがカマルドウマです、外皮は硬い物で覆われていて、刀が簡単に通らない位強固です、魔法にも耐性がありますから気をつけて下さい!」
先ほどスライムに溶かされていた物と、同じ足を持った魔物がコチラに向かってくる、あの太い足から繰り出される蹴りで、軽く4メートル位はジャンプしているだろうか?
「ハヤト、ソルセリーとオットは任せたぞ、ただ余裕があったら援護を頼む!」
刀を構え攻撃の姿勢を取るベルフ
「分かった」
‥‥確かにバッタは硬い、特に頭から羽を守る為にある殻の様な物、足なんかも硬かった気がするが腹は結構柔らかかったはず、地球にあるバッタとは違うだろうけど、バッタはバッタ、腹さえ狙えれば‥‥
氷の槍を作り出す、先は鋭くどんなものでも貫けるように細く細く‥‥
先端が針と同じくらい細く、長さが3メートルの槍の形に整え
行け‥‥
それを打ち出した
ヒュン
ベルフの横を通り過ぎ目標に迫るが、カマルドウマは丁度ジャンプをするタイミングだったのでそれを難なく躱す‥‥はずだったが
ベルフから教えてもらった方法で氷の槍の軌道を変える
大気に霧散している魔力に働きかけ、槍の上を通過しようとしていたカマルドウマの真下でピタリと止める、クルリと90度回転させ、通過しようとしていたカマルドウマの腹めがけて打ち込んだ
ブスッ!
勢いよく刺さると、カマルドウマはそのまま体制が崩れ半回転する、そのまま氷の槍に働きかけ地面に突き刺す、仰向けになったカマルドウマはまるで昆虫標本のように仰向けに縫い付けられる、暴れるソレに更に2本の氷の槍を作り出し、腹から体内に入り込む角度で打ち出す
放たれた氷の槍は腹に吸い込まれるように入り込み、そしてカマルドウマは動きを止めた。
「「「・・・・・・」」」
前に立っていたベルフが真顔でこちらを振り返る
「‥‥え? 何?」
「いや‥‥随分とあっさりと思ってな‥‥」
「多分腹の部分が柔らかいはずだからさ、そこを狙ったんだよ、ベルフから教えてもらった軌道を変える方法かなり使えるね、教えてもらってなかったらもうちょっと面倒だったと思う」
そう、アレがあったから簡単にやれた、無かったら場所を移動したり、ベルフに当てないように苦労したと思う
「いくら曲げても直角には曲がらないんだけどな‥‥」
倒した魔物を観察するために近づく
「お、おい危ないぞ、まだ死んだとは‥‥」
「大丈夫、もう『探知』に反応が無いよ」
「そうか‥‥」
倒したカマルドウマの両目からは氷の槍が突き出していた
「やりますねぇ、凄い命中率じゃないですか」
「おっ! でしょ!」
オットに褒められ嬉しくなるが、実際はたまたま刺さっただけである、『土』魔法で作った棒に『硬化』を付与し、カマルドウマの腹を突っついてみると、柔らかいという訳ではないが他の部分と比べて柔らかかった、他の部分は土で作った棒で思いっきり叩いてもびくともしない、叩いた俺の手が痺れるほどの硬さだった。
「なっ、結構どうにかなるものでしょ?」
「そうね、何とかなるものね」
さっきまで恐怖で怯えていたソルセリーも、今のを見て安心したようだ、「フッ」と少し笑ったような気がしたけど、気のせいだろうか?
「この魔物は腹が弱点だったから、これからは腹を狙えばいい、他の魔物だって結局は弱点とかあるんだ、そこを狙って行けば無事にハルツールまでたどり着けるよ」
「貴方一人でもなんとか出来そうね」
「俺も必要ないようだな ははっ‥‥」
「最初に言ったでしょ? ゴブリンと大差ないって魔物は結局魔物なんだよ、心構えさえ出来てれば大丈夫だよ」
と、言っていた時期が俺にもありました
・・・・・・
・・・・・・
「心構えさえあれば大丈夫なんじゃなかったの!!」
ヒステリックにソルセリーが叫ぶ
「ハヤトそっちに行ったぞ!」
噛みつこうとした魔物をべフルが切り伏せる
「うわー! うわー!」
オットはもう発狂状態だ
「おっ! ちょ! ちょっと、あぶなっ!」
大量のアリ型の魔物に囲まれピンチに陥っていた




