35 グースの砦 ②
随分奥に入り込んでいる人がいるな‥‥
召喚獣による昼の広範囲の『探知』をしていた時、やたらと奥まで入り込んでいる人の反応があった。 距離にして9㎞、村から離れていた。
あまり奥に行くなと言ってあったのに‥‥
『探知』を更に続ける、奥まで入り込んだ人が気になるが、他の場所も確認を怠らない、そして『探知』魔法の中継が届くギリギリの10㎞地点、5つの魔物の反応があった。
クジュの村に来て初めての魔物の反応だな、奥まで行っている人と進行方向は逆に進んでいるし、距離もそこそこ離れてはいるが‥‥
暫く召喚獣のポッポを、魔物と奥まで入り込んでいる人の辺りを旋回させ様子を見ていたが、魔物はそれまで進んでいた方向をクルリと変え、人がいる場所にと移動しはじめた。
これはまずい‥‥
俺は椅子立ち上がり、柵の外に飛び出す。ペガサスのコスモに乗って行けたらいいのだが、ポッポを出している以上、コスモは呼び出せない、一度俺の近くでポッポを魔法陣に帰還させなくてはならない、なかには2体以上の召喚、多重召喚も出来る人もいると聞くが俺には出来ない。
ポッポにすぐ戻るよう命令し、緩衝地帯に向けて走り出した。
◆◇
クジュの村に生まれ、家族のために危険な緩衝地帯まで足を踏み入れ、ずっと薬草を取っていた。畑を耕して暮らすことも出来るのだが、薬草を採取して売った方が金になるから続けている
長年の経験で、この場所のことはかなり熟知していると自信があった、あまり奥深くには入らず常に周りに気を配り、少しでも妙な所があればすぐさま村に引き返す、だから毎日無事に家に帰ることが出来た。
家に帰れば父と母、そして妻と子供たちが待っていてくれる、そして今日も何事もなく家に帰れる‥‥はずだった。
「風よ! 切り裂け!」
刀ように鋭利になった風がダイヤウルフを捉える、鋭利になった風はダイヤウルフの前足を切り飛ばした
「ギャウン!!」
前足を失ったダイヤウルフは、顔から地面に突っ込む、これでこの魔物は動くことが出来ない
「風よ! 切り…ぐあっ!!」
しかしダイヤウルフは一匹ではない、目の前にいた他の二匹に魔法を放とうとした時、横から飛び出したダイヤウルフに腕をかまれる、とっさの事に腕を振り回すと、腕に噛みついたダイヤウルフは振るった方向にそのまま飛ばされていった。
そして自分の腕からは、噛みつかれた部分の肉を持ってかれ、力を入れることの出来なくなった手からは、持っていた武器が落ちた。
「何匹いるんだよ!」
男は自分の腕に自信があった、村では自分が一番魔物と戦える、『風』と『水』の魔法を契約ができ、刀だって多少は扱える、だから目の前にダイヤウルフ3匹が現れた時、冷静に対処が出来た。自分なら出来ると‥‥
しかし、利き手の右手は血だらけで、刀を持つ力すら入らない。
『10㎞までは魔物がいないのを確認しました、ただ、用心してください』
1週間前ほどに来たグースが、毎日そう言って送り出してくれていた、自分は『探知』魔法が使えないのでこういった情報は助かる、実際に魔物はいなかったし気配すら無い。
『探知の後に魔物が移動する可能性もあるので、奥まで入らないで』
言われなくても分かっている、分かってはいたが‥‥
朝一番で一気に奥まで入り、時間と共に村に近づきながらの採取、そうすれば時間と共に魔物が南下してきたとしても大丈夫、この1週間はそうしていつもよりも珍しく、高く売れる薬草を採取することが出来た。
だから逆に欲が出てしまった
もうちょっとだけ奥に入ろう、もう少しだけ‥‥
そこは宝の山だった、誰も足を踏み入れない場所には、たくさんの薬草が生い茂っていた、男は大興奮したがその結果右手に大きな怪我を負ってしまった。
「風よ! 切り裂け! 切り裂け!」
魔物の動きが速いのに加え、数が何匹いるか分からず、でたらめに魔法を打ちながら逃げる他ない、背中を見せて逃げるのは本来してはいけない行為、しかし腕に怪我をした痛みが恐怖に変わり、何匹いるのか? それすら判別できないことに更に恐怖が増す、だから背中を見せて逃げてしまった。
男が対処出来ない数の魔物に見つかった時点で、男の人生はもうお終いだった。
悲鳴にも似た声を上げ、走り出した男は一度だけ後ろを見る、するとそこには、大きな口を開け、今にも頭に喰いつきそうな距離にダイヤウルフが‥‥
ヒュン! ドン
‥‥吹き飛んだ。
口の中に氷の槍を突き刺され。
吹き飛んだ魔物はそのままピクリとも動かなくなった
「間に合って良かった! 怪我は腕だけですか?」
見たこともない顔の男が問いかけてくる
「ああ、腕だけだ、あんたは?‥‥うっ!」
すぐに分かった、この心臓を締め付けられるような感覚、村に来た仮面のグースが、今は仮面を外して目の前にいた。思わず悲鳴を上げそうになるが飲み込む。
駐留していたグースか? 助かったのか‥‥
「全く、あれほど言ったのに‥‥」
グースはため息をついた後、同時に3本の氷の槍を作り出し、あっけなく魔物を退治してしまった。
・・・・・
「先に帰ってください」
グースの召喚した空飛ぶ召喚獣で、一足先に村へと帰ってこれた。
男が乗っている空飛ぶ生き物の姿を見て、騒いでいる人たちがいる。
「何だあれ? ヒュケイか」
「ありゃ? 違った、クリオのとこの親父だ」
「あの白いのって、グースの召喚獣じゃないか?」
「何であんたが空から来るんだ? あれ! 怪我してるじゃねーか」
「診療所の先生呼んで来い!」
「おい、お前何があった?」
村人にゆっくりと召喚獣から降ろされた男は、正直に今しがた遭ったことを話した
「実は‥‥」
・・・・・・
・・・・
・・
「はい、お疲れさん」
クルッポーと鳴いてポッポは光の粒に戻った。
夕方、一日の最後の『探知』を終え、外に設置してある土で出来た椅子に座り、同じく土製のテーブルで今日の日報を書いていた。
土で出来ていると言っても『硬化』で固めてあるので座っても汚れない、テーブルは一度焼いて、陶器のような手触りにしているが、椅子は焼いていない、焼くとつるつるした座り心地になってイヤだし、駅なんかによくある、プラスチック製の椅子って好きじゃないんだよね、お尻が滑って落ち着かない。
駐留する部隊が毎日書き込む日報は、後から交代で来た部隊の情報源になる、どんな魔物がいたか? 村にまで魔物が入り込んだか? そして魔物による被害など
魔物の数が急に増えたとなれば、近くに魔物の集落が出来たかどうかも判断できるし、村に入り込んだ魔物がいるとなれば、人の味を覚えた魔物がいるかもしれない、そうなるとまた村に来る可能性も十分ある。
日報に今日の事を記入していた時
「あ、あ、あの‥‥」
一人の村人が話しかけてきた、今は既にうさ耳の魔石は外してあるが、通常の『探知』は起きている間は常にしているので、近づいている人の反応は確認していた。だが話しかけられるとは思ってなかったけど。
「なんでしょうか?」
話しかけてきた村人は、どことなく今日助けた人に似ていた、
兄弟かな?
「その‥‥今日は息子を助けていただいて、ありがとうございました」
親でした‥‥
『生命の契約』のがあるおかげで、親子3代、同じような年代の見た目の人達がよくいる、この世界に来てそこそこ経つが、未だにこれには慣れない。
「怪我の具合はどうでしたか?」
「はい、2週間もすれば筋肉も元通りになり、また働くことが出来ると‥‥」
「それは良かった‥‥、ただ、今回はたまたま見つけたから良かったものの、自分のする『探知』は薬草を採取する人たちから見て便利かもしれませんが、本来は魔物の奇襲などを避けるための物です、あまり鵜呑みにしてしまわないようにお願いします。」
「はい、息子もつい欲が出てしまったと言ってましたので‥‥」
その男性はこの後もお礼の言葉を言ってきて、最後にもう一度
「今日は本当にありがとうございました」
と言って帰って行った。最後にはかなり脂汗を額に浮かべていたので、かなり我慢していたのだろう、走って帰って行ったし
・・・・・
次の日
ポッポを使っての朝の『探知』をしている時、なにやら話しかけられているなと感じ、そちらを見てみると、そこに男の子が立っていた、生まれたばかりの小鹿の用に足をプルプルさせ、泣きそうな顔でこっちを見ていた
「何かな?」
「あ、あの‥‥‥‥、昨日はお父さんを助けてくれて、ありがとうございました!」
そう言って男の子は‥‥
逃げて行った、もう全力疾走だ、壁の所を曲がった所に別の子供が二人いた、怖いから友達と一緒に来たんだろう
「‥‥‥‥朝食にしよう」




