21 一泊
「最初の魔法陣に到着だよ」
ミラと一緒に魔法陣巡りの一件目、魔法陣使用の許可はミラが任務中の合間にすべて手配してくれた、許可が取れた魔法陣は8つ、召喚獣モルフト・耐壁・合成・硬化・照明・探知・付与・財布。
『合成』『硬化』は鍛冶などでの使用、『照明』『探知』は前の任務で隊員が使用した魔法、
『付与』は物に魔法の効果を与えることが出来る魔法、一番身近な物で家庭用の魔道具がそうだ、他にも武器や防具、今乗ってきた車のエンジンからサスペンションに当たる物にも、この『付与』が使われている、付与が使える人は仕事には困らないという、どこへ行っても引っ張りだこだそうだ。
『耐壁』はハルツールでしか契約出来ない魔法で、使用者がダメージを受けるような攻撃をされた場合、すぐさま実体化し障壁となり、相手の攻撃を防ぐことが出来る、発動させると一定時間は身を守ってくれるが、時間が経つとその効果は消滅する。
ただし、『付与』魔法を使い物に発動した場合、その効果はその物が壊れるまで続く、それと一度『耐壁』が突破されても、物が壊れていなければ『耐壁』は時間が経てば回復する事が出来る、魔石などに張り付ける事も出来るが、その場合は少々使用が異なる、尚、一つの物に重ね掛けは出来ない。
マシェルモビアの『潜伏・隠蔽』に対する、ハルツールの『耐壁』は、いわばハルツールを象徴する魔法ともいえる
『財布』はっきり言ってしまうと、体の中にある電子マネーだ、これを契約すると給料なども自動的にこの『財布』に加算され、支払いは専用の不思議パネルに触れるだけで払うことが出来る、『財布』は他の魔法と違い、誰でも契約することが出来る、その理由は、女神が与えた魔法陣ではなく、昔実在した一人の天才が発明した人体への『付与』魔法だから。
ただし、例外があり、女神に直接他の魔法を埋め込まれた人間は『財布』すら契約する事が出来ない、そんな人が世界には数人いる。
各地に設置された移転門を通り、9日間かけ契約をして行く、ほとんど日帰りだが場所によっては一泊する必要もある。
「最初は召喚獣『モルフト』だよ」
「しょっぱなから召喚なの?」
「私、美味しい物は最初に食べる方だから」
『モルフト』は軍学校でもおなじみの召喚獣だ、俺以外の召喚者ではほぼ全員持っている。
腕が計6本、右3左3本ずつ、空間からいきなり生えてきているホラー系の召喚獣だ、最初見た時は、
(あっ、この人呪われてる)と思ったが、実際はただの召喚獣だった、接近されると不利な召喚者の最後の切り札となるのがこのモルフト。
6本の手に刀や盾などを持たせ、接近してきた敵と対峙する、まさしく召喚者の「手」になり、召喚者を守る盾でもあるのだ。
この召喚獣はかなり器用な部分もあり弓なども扱える、あとなかなかユーモラスな所もあり、召喚者が命令をせず放置している時なんかは、勝手に腕相撲をしていたり、手を叩きあって遊んでいたりしている。
「今 回 は 普通のが出たらいいね」
ミラが、お前は「おもしろ」なんだからどうせ変なのが出てくるんでしょ? という期待の目で見てきている、こういう言い方をすると、俺がムキになるのを期待しているのだ
『おもしろ召喚者』の名にかけて、ならば応えるしかないじゃないか。
「これと同じ召喚獣は出さないよ」
「えっ!?」
全く予想外の返答に驚くミラ。
「オル・トロスの時に何となくわかったんだけど、結構弄れるっぽいんだよねコレ」
「‥‥今まで偶然じゃなかったの?」
「うん、契約中に余計なことを考えてたんだ、そのせいだね、ま、とりあえず行こうか?」
「そーなんだ…」
施設内中央にはおなじみの黄色い魔法陣、壁にはモルフトの映像が映し出されていた、何の躊躇もなく魔法陣に触れ魔力を流す、するとそれが当たり前のように魔法陣が起動し陣内に煙が充満する。
「わー‥‥」
本人からすると2度目の召喚契約成功を目の当たりにし、感嘆の声を上げるミラ、充満していた煙が消え陣内にいた物は‥‥
「ゴブリン!?」
職業病なのか、魔法陣から出てきたのに少し身構える。
「違うよ、名前は『ノーム』だよ」
モルフトは左右3本ずつの腕だけの召喚獣、ならば、もしそこに体が3体あれば、3体の召喚獣になるという理屈だ。
今回、魔力を通す際に召喚する物を明確にイメージしてみた、それがこのおっさん顔の3体のノーム、1号2号3号と名付けよう、このノーム3体を召喚契約出来たことで、一応決められた型にハマっているなら姿は自由に変えられるこいう自信があった、今回見事に思いどおりに召喚できたことで、今までのはただの偶然ではなかったということが分かった。
モルフトはかなり器用な召喚獣なので、このノームにもその性質はあるだろう、この3体を使って鍛冶なんかもやって見たいし、他にもいろいろやらせてみたいことがある
契約を終了し、ノーム達は光となって魔法陣に消えていく。
「また変わった召喚獣を‥‥言ったら悪いけど、ちょっと気持ち悪い召喚獣ね」
「まぁ、小さいおっさんだし…ね」
「で? これで今日は終わりだけど…ハヤトはこの後どうしたい?」
どうしたい? とはどういうことだろ、どうにか出来ちゃうのか? 期待しちゃうからそんな言い方はやめてほしい。
「ここらへんで何か美味しい物とかあったら食べてみたいな」
「わかった、任せといて!」
この世界の住人は甘党が多い、むしろ甘党しかいない、甘い団子が入った甘いスープに甘い肉料理
最後に飲んだ普通の水はとても美味しかった。
◇
毎日一か所ずつ、日帰りで魔法の契約を取っていき契約をした後はミラと食事をしたり、観光を楽しんだりして回っていた、そして最後の契約魔法『付与』、この場所は移転門からかなり離れていて日帰りでは難しく、一泊することになっていた。
「凄いねー、全部契約出来ちゃうんだ」
「そうみたいね、じゃあ行きますか?」
「うん、でもさー『付与』まで取れたんなら自分でお店開けるんじゃない?」
『付与』魔法は国家資格のようなもの、それというのも契約出来る人が極端に少ない、この魔法と他の別の魔法1つでも覚えていると、まず食いぱぐれる事は無い。『付与』協会に加入の届け出を出せばそれでもう商売が出来る。
「それも考えておこうかな」
あれ?もうこれ軍を辞めてもやっていけるんじゃない? 危ない事をするよりもこっちの方で‥‥
とは思ったけど、学校までタダで入れてもらい、色々良くしてもらっているのにそんな不義理な事は出来ない、受けた恩の分は返そう。
「それじゃあ、明日書店に行って専門書でも買いに行こうか」
「専門書読んだだけで出来るものなの?」
「単純な物は簡単らしいみたいよ、火をつける魔道具だったら魔石に直接貼り付けるだけ、って聞いたことあるけどね」
「そー言われると簡単に出来そうかな?」
「簡単にポンポン契約出来るんだから、魔道具もポンポン出来ちゃうかもよ」
◇
最後の魔法契約を終え、今日止まる宿泊施設に向かう、その前にこの近くにはとてもキレイな滝があるということで、ついでにそこに向かうことになった。
そんなに大きな滝ではなく5メートルほどで、滝の周りにはベンチが少し距離を置く様にして、並んで設置してあった。
「ホントにキレイだね」
「でしょ?」
一見ただの滝だが、滝つぼからは蛍のような光が舞い上がり、暫くフワフワと漂っている、風はないのだが、水の落ちた風圧だろうか、滝つぼから少しずつ離れるように移動している、時折小さな蛍のような光が、パチっ!と、一瞬光るように消える。
線香花火みたいだな、と感じた
「この滝つぼの下に天然の魔石があってね、滝の上から流れる水に入り込んだ魔力とぶつかってこうなるらしいよ」
「へー、詳しいんだねお姉ちゃんは」
そう言うとミラはフフッと笑った
「ハヤトは私の事お姉ちゃんていつも呼んでくれるね」
何をいまさら
「ん? そう言わないと無視されちゃうし」
さっきまでは少し楽しそうな顔をしていたのが、今は少し悩んでいるような寂しそうな顔をする、俺たちの周りのベンチには数組のカップルが滝を見ながらお互いに寄りそい語らっていた、その人たちのささやくような声と滝の水が落ちる音だけが暫くは聞こえていた。
少しの沈黙の後、ミラは俯き目を伏せながら
「本当はね‥‥お姉ちゃんとかそう言う呼び方とかはどうでもよかったの、そう呼んでもらった方が早く近づく事が出来る気がしたから」
ん?
「ハヤトが本当のお姉さんの事で辛い思いをしたのは分かっているの」
本家の姉の事ですか? あれは「辛い」じゃなくて「嫌い」なんです
「竜騎士のような召喚者がカナル隊に入隊するって聞いた時、とっても嬉しかったの、召喚者が来るってだけでもすごいのに、それで竜騎士のように空を飛べるとかね、それでどんな子なんだろうっていつも思ってた」
気になって、憧れていたとか?
「ちょっと憧れていたのかな‥‥」
当たった!?
「でね、実際にコスモに乗せてもらった時の景色がとっても奇麗でね、ハヤトと一緒にいたらずっとこの景色を見ていられるのかな?一緒に見ていたいなーと思ったの、周りの人にも自慢できるしね、ふふふ」
「あ、あぁ‥‥」
これは‥‥もしかして‥‥‥‥
俯いていたミラが少し赤くなった顔を上げ俺の目をじっと見てくる
「最初は、竜騎士のような召喚者として好きだったの、でもね‥‥今は違うよ」
ミラの少し濡れた瞳を見ていると吸い込まれるような感覚になる、それは俺を見ているミラも同じようで、少しずつ‥‥少しずつお互いの距離が近くなり、そのまま俺はミラと口づけを交わした。
◇
「二人部屋お願いします!」
今、気合を入れずにいつ入れる!
今日泊まる予定だった宿泊施設で、二人部屋をフロントにお願いした、これでミラが
「え!冗談でしょ?」
何て言われたら
「冗談ですよお姉ちゃん、HAHAHA」
と言いってごまかそうとおもったが、ミラは俯いたままずっと俺の服を掴んでいた
「209号室ですね、こちらカギです」
「どうも!」
フロントからカギを受け取り部屋へと向かう、部屋までの距離がすごく長く感じる、気づかないうちに足早になってしまう。
だめだ、焦ったらだめだ! 落ち着けぇ!
ミラを横目でチラリと見てみる、やけにピッチリした服装で、出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいる、服の上からでも分かるほどのすばらしさだ。
だめだ!! 辛抱たまらん
「きゃっ!」
俺はミラを抱きかかえた、ミラは少し驚いたが、俺の胸に顔を隠すようにしがみついた。
そしてそのまま走って部屋の中に入っていった。
◇
魔法陣巡りを終え、学校生活に戻り、その後は覚えた魔法の詠唱無しにするための練習から、付与魔法の勉強とそこから魔道具の作成をしていた。
車の動力やサスペンションなどの複雑な物は無理だが、貼り付けるだけの物なら簡単に使用できた、作った物は『硬化』の付いたノーム用の装備、『耐壁』も付けたかったがそれは今の俺にはちょっと無理そうだ、もう少し勉強が必要のようだ。
付与魔法の専門書を買ったついでに、もう一冊別の本を買った「魔法大全集」みたいな本で、この魔法の発展型にはこういうものがあるよ、と紹介している本で、それも参考になった。
・・・・・
・・・
『それでは、先日起きた爆発で新しい情報が入ってきました。警察が調べたところ、複数の魔法による‥‥‥‥』
報道番組では先日騒ぎになった爆発の事を報道している、俺はそれを尻目に目の前の実験に目を向けた。
ゴブリンの巣で火の魔法を使っても酸欠にならなかったことの実験、既に確証はしているが、確認をするための実験だ。
この世界では、太古の昔から女神から頂いたと言われる魔法陣が存在し、人々は苦労をする事が無かった。
地球では火をおこし、水を汲み、畑を耕すそうやって苦労して文明を築きあげてきたが、こっちではそうじゃない。
火をおこしたいなら魔法で、水は魔法で出た物を飲めばいい、畑は耕さずとも魔法で掘り起こせばいい、魔法が使えなかったとしても魔道具がある、それを使えばどうとでもなる。
この世界の人達はそれが最初からそうだった。
公害の出ない車、魔力を動力としたほぼ無尽蔵のエネルギーなど、地球の文明と比べやや進んでいるように見えるが、科学の分野、特に基礎研究の分野が地球と比べ圧倒的に劣っていた。
劣っていたと言っても実際それは、必要なかったからそうなっただけである、全てにおいて1段も2段も飛ばして完成させる事が可能、
その結果として、空気中に含まれる酸素や二酸化炭素なども認知されていない、それではこの世界の文明は劣っているのか? と聞かれたらそうではないだろう、必要ないのだ。
洞窟で使用した『火』の魔法、ここでは燃えるためには酸素を必要とするのではない、燃えるために必要なのは『魔力』。だからあの時息苦しさを感じはしなかった。
この世界は『魔力』が全てであり、『魔力』が無ければ世界は成り立たない場所だった
「よし、やっぱりそうか」
確認をした俺は実験に使った道具を片付ける。
片付けながら俺は思う、この世界の成長は歪だと。




