-9-
二十脚の椅子が並べられたダイニングテーブルの上座に英雄は座り、その斜め横の椅子には英雄の母・ひふみと妻の志音が向かい合い、客人である瑰と美里と一成は、出入口のドア近くの末席に横並びに並んで座っていた。
それぞれの席のテーブルにスープ皿を置いていた三人の家政婦は、それが家主にとってのステータスなのか、まるで西洋の貴族を思わせるようなお仕着せのメイド服を着ていた。瑰と美里と一成は、訝しげにそれを眺めていた。と言うのも、その三人の家政婦は、志音とさほど歳の変わらぬ年代の中年女性達だったからだ。
執事がやってきて、スープを皿に注いでいった。
「永承の知り合いが、どうしてここにいるの?本人は来ようともせずに」
主の英雄に紹介を促すこともなく、母親のひふみが苛立ったように声を荒げて言った。
「仕事が忙しくて来られなかったのですよ、お母さん」
英雄が、面倒臭そうに素っ気無く返事した。
「あんたが呼び寄せたの?英雄」
「はい」
「逃げるようにこの家を飛び出していった恩知らずを」
「借金の返済は済んだんですから」
「どんな用があると言うの?三年もの間、何の音沙汰もなかった」
「お義母様」
宥めるように志音が声をかけた途端、ひふみがギロリと睨みつけて
「あんたは知ってたの?」
「もうじき、伊織の誕生日ですので」
「誕生日?伊織の?」
「はい。今週の日曜日ですわ」
それを聞いて、強張ったひふみの顔が急に綻ぶ。
「バースディパーティーでもしようかと思ってるんですよ」
「それで招待したの?」
「十数年の間、家族同然に暮してきた子ですから」
「孫はいつ、札幌から戻ってくるの?」
英雄を無視して、ひふみは執事に問い質した。
「土曜日には帰るって、連絡がございました」
片隅に控えるように立っている執事が、それに答えた。
「パーティーの準備はやってるの?」
「はい、大奥様。抜かりのないように」
「英雄」
「はい、何ですか?」
「嫁と二人でコソコソと、ここの主でもある私に隠し立ては、許しませんよ」
「はい、お母さん」
「いいわね?」
「すみませんでした、お義母様(恐縮して俯き)これからは気をつけます」
瑰と美里と一成は、英雄とひふみと志音の会話に聞き耳を立てて、次から次と出される料理を満足そうに舌鼓を打ち、黙々と食べていた。
英雄が、近くに来いと、指を数回折り曲げながら執事に促した。
「酒の用意を。書斎にいるから」
歩み寄ってきた執事に、英雄がそっと囁いた。
「はい、だんな様」
執事は英雄の後を追って、部屋から出て行った英雄を見送り、瑰と美里と一成の席に歩み寄った。
「如何でございましたか?ご満足のいく料理でございましたか?」
「ええ。とても美味しくいただきましたわ」
美里が、ナプキンで口元を拭きながら言った。
「それはなによりでございます」
と言って、執事は腰を曲げ
「書斎へ。ご案内いたしますので」
三人にそっと呟いた。