12.実戦
ミノリさんと出会った翌日から、僕達の生活は一変した。
始まりはまたも登下校中だった。
朝、カナコと一緒に学校へ向かっていたら、突然背筋に悪寒が走ったのだ。
その感覚は初めて異界に紛れ込んだ時と同じで、今回はそれに加えて世界が変わっていくような違和感を覚えた。
僕達は即座に装備──勝手にリアライズ化と呼んでいる──を呼び出し、魔物の襲撃に備えた。
しかし数分待っても何も動きがない、もしかしたら、魔物の狙いは僕達じゃないのかも知れないと思いあたった時にはもう駆け出していた。
周辺を手分けして探しまわること数十秒、ようやく民家の敷地内にいる魔物を発見した。
そして、何故かその姿は、以前のような妖怪じみたものではなく、大きな爬虫類の形をしていた。
そう、まるでダイナソーハントに出てくる、恐竜のように──
「そっちに行くぞ!」
「任せて!」
僕は敵の攻撃を引きつけて、そのまま大剣を構えているカナコの元へと向かう。
引きつけて、と表現しているが、実態はへっぴり腰で走っているだけである。
そして僕を追ってきている敵は、最古の恐竜エオラプトルだった。
二足歩行で軽やかに走るエオラプトルだが、体長は1メートル程しかない。しかし、鋭い歯と鉤爪を持ち、その攻撃力は侮れない。
ダイナソーハントではファンタジー世界で言うところのゴブリンやスライムに相当する、まぁいわゆる雑魚キャラという位置づけになっている。
僕もカナコも、ゲームの中では苦戦することなどあり得ない敵ではあるが、実際に自分が戦うとなれば訳が違う。
はっきり言って怖い。
恐竜映画の登場人物はこんな心境だったのかと思うと、勇気ある行動など取れそうにもない。
この僕よりも小さなエオラプトルですらそうなのだ、大型の恐竜が出てきたらどうなってしまうのか。ちびってしまいそうだ。
「どりゃああああ!」
カナコの元へ辿り着いた僕は、身をかがめてスライディングするように、カナコの脇を通り抜ける。
その直後、カナコは威勢よく声を上げながら、肩越しに構えていた大剣を斜めに振り下ろし、見事エオラプトルへと直撃させた。
勢い良くぶち当たった大剣は、エオラプトルを斜めに両断して、そのまま地面に轟音を立ててめり込む。
両断されたエオラプトルはすぐにその存在を霧散させ、少し待つと異界化も解除されていく。
それを見届けて、僕はようやく一息つくことが出来た。
「お、終わったか……」
大したことはやっていないのだが、僕は緊張で全身にじっとりと汗をかいていた。
「スバル、ナイス囮!」
グッと親指を立てて、僕を褒めるカナコ。いや、それは褒めてねぇ。
「お前、よくあんなのと戦えるな……」
正直僕は逃げまわるだけで精一杯だった。
「ん? ゲームみたいなものじゃない? 今のところは」
客観的に見たらそうかもしれないが、当事者としてはそんな簡単な話ではない。
カナコは緊張の糸がだぼだぼなんじゃないだろうか。
あるいは適応力が異常に高いのか。
「お前ってすごいな……」
とても僕には真似できない。
「スバルに褒められちゃったー」
勝手に喜んでるが、別に褒めたつもりはねえ。
「それより、なんでエオラプトルなんだ?」
「さあ?」
昨日はろくろ首だったじゃないか。統一感がなさすぎる。
僕達が発生する魔物にも、何か影響を与えているというのだろうか。
魔物を倒せたと喜ぶ、ダイナソーハントに出てくるような装備をしたカナコ。そしてダイナソーハントでは雑魚キャラとして出てくるエオラプトル。
ここに関連性が全くないとは思えない。
僕達が原因で異界が活性化し、魔物が発生しているという裏付けにもなるようなそれに、暗い気分になってしまう。
そんなことを考えていた僕に、カナコが声をかけてくる。
「私ねー、ティラノの牙が欲しい」
「ん? なんだ、ダイナソーの話か?」
「ううん、異界の話」
「……えっ?」
「エオラプトル倒したら、なんか素材が手に入ったみたいなんだよね」
「素材?」
「うん、集めれば装備作れるみたい」
「どうやって」
「いや、こう、メニューから」
「だって鍛冶屋とかないじゃん」
ゲーム内では住んでいる村にある鍛冶屋を訪れて、装備の作成や強化を行なっていた。当然、異界にそんなものはない。
「だからなのかなぁ、メニューに装備作成って項目が……」
「嘘だろ?」
「ううん、ほんと」
「マジでどんだけゲームなんだ……」
その内容に先程までの恐怖も忘れて、呆れてしまう。
もしかして、僕もそうなのか?
そう思ってメニューを確認してみると、所持金という項目、更にショップという項目が確かにあった。
「なんか、所持金増えてるんだけど……あ、そういや経験値もちょっとだけ上がってる……」
逃げまわってるだけなのに、どっちも増えたのか?
ひょっとして、カナコとパーティを組んでいる状態なのだろうか。
「だからねー、ティラノの牙が欲しいの」
「ティラノ牙っていうと……大剣の強化か」
「うん、これって要は初期装備でしょ? ティラノ牙で強化すれば、当面は武器については問題ないかなーって」
「お前、そんな簡単に言うけどな、今の状態でティラノに勝てるわけ無いだろ」
「でもでも、私達なら初期装備でもティラノに勝てると思うの」
「いや、それはゲーム内の話であってだな……そもそも僕はブレインファンタジアがベースの能力であって、ダイナソーでは……」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃねえよ死ぬわ!」
「いい逃げっぷりだったよっ」
「お前それ褒めてねえだろ!」
ちょっと気にしてるんだから、わざわざ言うんじゃねえ!
「とにかく! 願ったからってすぐに出てくるもんでもないだろう。大体次もダイナソー準拠の敵が出てくるとは限らない」
魔物が出てくること自体は忌むべきことであるし、出てきたとしても速やかに排除する必要がある。
僕としてはそう重く捉えているのに、カナコはどうしてこうも楽観的なのか。
その考えに救われることもあるが、どうにも調子が狂わされる。時折真剣な表情を見せることもあるのだが、それは一時的に過ぎない。全く、これがいずれ重大なミスを引き起こさないか心配だ。
僕はゲーム感覚で魔物と戦えるカナコが憎らしくもあり、また羨ましくもあるのだった。




