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10.予想の斜め上

 ──リアライズ。それはブレインファンタジアで主人公達のパーティが、戦闘を開始するときに発する台詞である。

 近未来が舞台のブレインファンタジアでは、武器や防具というものは常に持ち歩くものではない、戦いの際に呼び出すものなのだ。

 そして、それを呼び出す掛け声こそ「リアライズ」なのである。

 リアライズと唱えることで次元の狭間に折りたたまれていた武具が音もなく現れ、自らの身体に装着される。

 僕達の体に起こったことは、まるで自分がゲームの登場人物になったかのように思えるほど、ブレインファンタジアのそれと酷似していた。

 そう、音もなく僕達の体は鎧に包まれ、そして手には武器を持っていた。

 先程までの苦しさはもう全く感じない。

「これは……」

 僕の身を包むのは買ったばかりの革靴のような、艶のある皮の鎧。そして手に持った武器は薄い燐光を纏った金属質の剣だった。

 何作前か忘れたが、過去のシリーズのブレインファンタジアにおける初期装備が確かこんな装備だったような気がする。

 また、精神的な力の発露だからだろうか、驚くほどに武具の重さというものを感じない。

 普通に考えれば金属製の剣など、重くて構えることも難しいはずなのに。

 ……だが、僕の持つ剣はまるで竹刀程度の重さしかないようだ。

「あれ、お前……」

 一方カナコだが、どうにもおかしい。何がおかしいのかというと、カナコが身につけた装備は僕とは似ても似つかなかったのだ。

 何かの動物の毛皮を剥ぎ取り、防具に加工したかのような防具。急所を重点的に守るように配置されているのはいいのだが、何故かそれ以外の部位は防御力が低そうな……有り体に言えば、露出が多いデザインになっている。

 学校の制服姿とは違う、細い二の腕やむき出しになっているすらりとしたウエストのラインを見ると、不覚にもドキドキしてしまう。

 そして更に驚くのはカナコが平然と肩に担ぎあげている巨大な剣だ。カナコの身長を余裕で超えているその剣は、刀身が2メートル、幅は30センチ程もあるだろうか、どう考えても人間の使うサイズではない。更に肉厚な刀身、無骨なデザイン、斬るというよりも、叩き斬るという刃。どれをとっても近未来が舞台のブレインファンタジアには登場しそうにない装備だ。

「私、ダイナソーハントの装備みたいだね」

「確かに……」

 カナコが言ったダイナソーハントというのは、行き過ぎた生物学の果てに大量の恐竜を蘇らせてしまった人類が、その蘇った恐竜たちに一度滅ぼされた後の世界が舞台という、恐竜ハンティングゲームである。

 その世界で生き残っている人類は通常の人類と異なり超人的な肉体能力を持ち、自らが狩った恐竜達の素材を加工して、様々な品を作っている。武具もそう、それは現代まで人類が積み上げてきた歴史の中では存在しない、あり得ないほど奇抜かつ豪快なものが多く、こんな武器じゃ戦えねえよというものまで存在する。

 そして今カナコが身に着けている装備は、やはりそのダイナソーシリーズの二作目あたりで主人公が身に着けていた装備に似ていた。

「頭の中に浮かんだのが超巨大恐竜と戦ってるシーンだったからかなあ」

「そりゃそうなるわ……」

 ダイナソーハントの目玉というものが、超巨大恐竜との戦いだ。異常進化を遂げた種として設定されているそれらは、強大凶暴かつ凶悪、もはや生物兵器なんじゃないかというほどの多彩な攻撃手段を誇る、圧倒的な存在だ。

 そんな相手にダイナソーハントの登場人物たちは、自らの身体と武器一本で挑む。まさに男なら燃え上がらずにはいられない戦いなのだ。……まぁ、カナコは女だが。

「どうやら無事に精神力を表に出せたみたいだね」

 お互いの装備を眺めていた僕達に、鍋島さんから声がかかる。

「それこそ君達が心の中で戦うに相応しいと判断した装備だよ、ぼくから見れば二人共少々奇抜な格好ではあるが、まぁ戦うのに問題はないだろう」

 彼女は僕達の姿をまじまじと眺めながら、そう呟く。

「後は実戦を経験してみれば……」

 だがそこで、言葉を続けようとした鍋島さんを遮って、カナコが声をあげる。

「うん?……なんか……?」

「どうした?」

「あっ、こうかな?」

「うおっ」

 カナコが何か気づいた風な声を発すると、突如半透明のウィンドウのようなものがカナコの眼前に現れた。

「なんだこれっ……って、ステータス画面……か?」

「そうみたい」

「体力100,スタミナ100、攻撃力400、防御力200……スキル発動無し。まんまダイナソーじゃねえか」

「そうだねぇ、ここまでゲームみたいだと、なんか調子狂っちゃうかも」

「つか、それどうやって出したんだ?」

「うーん、なんかね、装備の詳細とか見たいなーって思ってたら、こう、頭の中にメニューみたいなのが浮かんできたというか……」

「アバウトな……」

 僕も開けるのか? ステータス画面。

 むむむと集中しながら、心の中でステータスが見たい、見たい、見たいんだと唱え続ける。

 すると額の裏側とでもいうあたりに、確かにメニューのようなものが見えた。

 そこからステータスを選択すると、僕の眼前にもウィンドウが展開される。

「おおっ、出た!」

「なになに……レベル1、HP580、MP200、筋力、素早さ、かしこさ……」

「僕のはまるっきりブレインファンタジアだな……」

「レベルとか、上がるのかな?」

「僕が知るわけねえ」

 っていうか、カナコと僕のステータスは、元となったゲームが違うため、数字あたりの意味も違うような気がする。

 大体ダイナソーハントはアクションゲームなのでレベルとか存在しないし、体力やスタミナも基本的に増えない。ゲーム内で変わるのは装備とそれに付随するスキルだけだ。基礎能力はそのままで、一時的にアイテムなどで増幅出来るというだけである。

 一方ブレインファンタジアはRPGだ、レベルも存在するし、魔法だってある。当然装備も変更可能で、職業もいくつかある。

 ぱっと思いつくだけでこれだけ違うのだ。カナコの体力1と、僕のHP1は間違いなく等価ではない。

 インタフェースが違うというのは、これから戦っていく上で不安材料にしかならないのではないだろうか。そもそも、アイテムを使う以外で体力を回復する手段がないダイナソーハントのキャラクターが、ブレインファンタジアのキャラクターが使う魔法で体力を回復させることが出来るのか、というような疑問もある。

「……君達はまさに規格外だな、こんなものが見えるとは」

 ゲーム同士の差異について考え込んでいた僕に、鍋島さんから驚きの声がかかる。

「自身の体の細かい調子などがわかるという人物なら過去に会ったことがあるが、まさかここまで数値化された情報を見える者がいるとは思わなかった。しかも他人にも見える形で表現出来るとは……君達は、とてつもない才能を持っているのかも知れない。あるいはぼく以上に」

 心から感心する彼女だが、僕としてはまだ本当に戦えるかどうかもわからないのに、そこまで評価されるというのはなんだか面映い。

「いや、たまたまかも知れないですし……」

「たまたまでこんなことは出来ないよ。君達は本当にすごいなあ」

「あー、うーん、あはは……」

 他人からこんなに感心されることなどないので、照れに照れまくる僕。

 そんなちょっと穏やかな空気をぶち壊しにしたのは、やはりカナコである。

「えいっ」

 バキッ

「えっ、バキッ? っておおおおい!! 何してんだ!?」

「あ、どれくらい硬いのかなーって思ったから」

「思ったからどうした!? 何故僕の鎧を壊した!?」

「思ったより柔らかいんだねぇ……」

「その前に謝れよ! まだ戦っても居ないのに鎧が破損したじゃないか!」

「遅いか早いかの違いだよ」

「何わかったような口きいてんだコラァァァ!」

「はいはいごめんね、ちょっとスバル手を貸してねー」

 カナコは大剣を床に置くと、僕の剣も床に置かせて、それから手を握る。

「おざなりに謝ってんじゃねえ、って、なんだよ、何するんだよ」

「えいっ」

「いてててて! 痛い! 痛いって!!」

「スバルもちゃんと握ってよー」

「いやなんだよ説明しろよ! っていうか痛い! 痛いよ!」

「うーん、やっぱりそうなのかな?」

 ようやく離してもらえた手をさすりながら、僕はカナコを睨みつける。

「ずばり、スバルの基礎能力は低い!!」

 ずびしっと指をさして宣言するカナコ。っていうか、基礎能力が低いだと?

「は?」

「はい、腕相撲」

 置いてあったテーブルを持ってきて、肘をつくカナコ。

 僕は対面に無理やり立たされて、カナコと手を組む。

「よーい、どん」

 バタンッ

「ぎゃー!!」

 ほ、骨が! 骨がいかれるかと思った!

 開始して一瞬でテーブルに勢い良く叩きつけたら僕の手は、甲の部分が真っ赤になっている。

「多分、レベルが低いからなんだろうねぇ……」

 もはや疑う余地もない、生身の状態ならカナコに力で負けるわけがないのだ。それがどうだ、手も足も出ないレベルで差がついているじゃないか。

「そ、そんな……」

「君達は面白いねぇ」

「うがー! 面白がってんじゃねえええええ!!!」

 家の中に僕の叫び声が響いた。


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