第12話「国王の裁定と独立特区」
「頭が高い! 控えよ!」
近衛騎士団の声に、蔦に絡まれたままの傭兵たちも、呆然としていたガルドも、慌てて平伏した。
カイもクワを置いて片膝をつく。
タラップから降り立ったフェルディナンド国王は、病み上がりとは思えない力強い足取りでカイの元へと歩み寄った。
その背後には、心配そうに見守るリゼの姿もあった。
「其方が、カイ・アルトか」
「はい、お初にお目にかかります」
「楽にせよ。余は其方に礼を言いに来たのだ」
国王は自らの手でカイを立たせた。
そして、周囲の惨状――蔦に巻かれた兵士、涙目の傭兵、そしてベルの巨体――を見て、感心したように頷いた。
「見事な防衛戦だ。死者を出さず、これだけの数を制圧するとは。そのドラゴンも、実によく躾けられている」
『躾ケテハナイ。パートナーダ』
ベルが横から口を挟むが、国王は動じることなく微笑んだ。
「左様か。無礼を許せ、古の賢竜よ」
度量の広い王だ。
そして国王は、震えるガルドを見下ろした。
「ガルド・アルト。其方の行いは目に余る。私利私欲のために兵を動かし、国の恩人を害そうとした罪、万死に値する」
「へ、陛下! お慈悲を! 私はただ、家のための……!」
「黙れ。領地を枯らし、民を飢えさせた責任も重い。本日をもってアルト辺境伯家を取り潰し、領地は王家の直轄とする」
「そ、そんな……!」
ガルドは白目を剥いて気絶した。
自業自得だ。
カイは兄に対して同情はしなかったが、実家がなくなることに一抹の寂しさは感じた。
だが、それは過去との決別でもある。
「さて、カイ殿」
国王はカイに向き直った。
「其方には、救国の英雄として爵位を与えたい。王都に屋敷を用意し、宮廷魔導師筆頭の地位を用意しよう」
破格の待遇だ。
リゼが期待に満ちた目でカイを見ている。
だが、カイの答えは決まっていた。
「ありがたいお話ですが、辞退させていただきます」
「ほう? なぜだ?」
「俺は農家です。王都の煌びやかな生活より、土の匂いがするここが好きなんです。それに、俺の野菜はこの土地で、俺の手で育てないと意味がない」
宮廷に入れば、政治の道具にされる。
自由な農業ができなくなる。
それはカイにとって死を意味する。
国王はカイの目をじっと見つめ、そしてハハハと笑った。
「欲のない男だ。だが、そこが良い」
国王は宣言した。
「ならば、この一帯を『王立特別農業特区』と認定する。アルト領から独立した、其方の自治領だ。税は免除。その代わり、其方の作った作物を、優先的に王家と取引せよ」
「それなら、喜んで」
カイは笑顔で頷いた。
これ以上ない条件だ。
誰にも邪魔されず、公的に認められた自分だけの城。
「リゼ、引き続き流通は頼むぞ」
「はい! 任せてください、特区の管理人としてバリバリ稼ぎますから!」
リゼがガッツポーズをする。
こうして、死の荒野を巡る争いは幕を閉じた。
悪は去り、正義(と美味しい野菜)が勝ったのだ。




