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ダンジョン~渇望~

 ソドムとレウルーラは青空の下、甲板に設置してある炉端でワイン片手に焼き肉を楽しんでいたが、百識の来訪によって突如ブチ壊される。


「二人だけで魔神討伐に!?」百識よりもたらされたシュラ達の暴挙にレウルーラは驚いた。突然、虫である百識が胸に停まったのにも驚いたが。


 ソドムも驚きはしたが、冷静に魔神の情報を聞き出し、


「二人ともかなりの手練れとなった。引き際くらいわかるだろう」という結論を出した。


「でも・・・、何があるかわからないのがダンジョンでしょ。心配だわ」レウルーラは直情的な二人を心配して溜息をついた。


「大丈夫だって。いざという時には・・・」


「いざという時には?」


「金カブが何とかするだろ。もしくは、今のように報せてくれるか、だ」そう言って、「頼んだぞ」という意味でポンポンと百識を小突いた。


『戯《たわ》け!余を何と心得る。小娘共など助ける義理も義務もないわ』と、全てを丸投げされた百識は抗議する。


「ふふ、どうかな?察するに、魔神を良くは思ってはいないだろう。だから、魔神に対抗しうる俺たちに助言したりしているのではないのか?・・・という推察はさておき、危機を救ってくれたならば、今まで以上の敬意と食事を約束いたそう」そういうと、ソドムは両手で宙にハチミツ壺の形を描いてみせた。


『ふん、邪神め。小娘どもの命を軽んじおって。だが、余もかつての力を取り戻しつつある。魔神の足止めくらいはできるだろう。敬意と・・・誠意、忘れるなよ』心話《い》うなり、百識は飛び立った。



 二人は百識の背を見送り、再び焼き肉を再開する。


「それで・・・、陛下が魔神を敵視しているって、どういうことなの?」と、焼きおにぎり担当になったレウルーラが、甘味噌を塗りながらソドムに訊ねた。そして、醤油漬けした青菜を巻いて、焼き網に乗せた。大和帝国の郷土料理で弁慶飯と言うらしい。


「ん、ああ・・・。デマカセさ」


 真剣な眼差しで、肉の焼け具合を見極めるソドム。牛肉に汗をかいたように肉汁が湧いてきたタイミングで裏返し始める。あとは、また肉汁が出てきたくらいで引き揚げればミディアムの焼き加減になる。せっかくの食材だ、最大限に美味しく食べるのがソドムの流儀。


「え、そうなの。でも、謎めいた陛下のことが少し分った気がする。自分から話すことは少ないし、語りたがらない。かといって、質問攻めにしたら去ってしまいそうで探れなかったのよね」


「そうだな。スタグに聞いたが、アレと同じ個体はいないそうだ。となると、よほど古い種族なのか魔物・・・もしくは、本当に神的存在なのかもしれん。・・・というのは、大げさか、ハッハハ」


「アハハ、神にしては・・・ね」


「だな、器が・・・な」完全な悪口は避ける二人。どこで聞かれているか分からないし、世の中どう転ぶかもわからない・・・敵を作らないようにする二人の無意識な処世術であった。


「よし、焼けた。食べようか」


「こっちは、もうちょいかな。隅に寄せて〆に食べましょ」と、穏やかな食事に入る二人だが、さすがに呼ばれた時の段取りを考えながら・・・ではあった。



「そうそう、このガーターベルトなんだけどさ、やっぱり脱いでいいかな?ちょっと邪魔だし、冷気耐性あるから生足部分多くても平気なのよね」と、衣装にクレームをつけるレウルーラ。


「お、それは歓迎するよ。あくまでも、冴子殿の趣味だったからな。それに、あの二人でガーターズっていうのも、しっくりくると思う」


「それいい。黒が基調のシュラちゃんと、白い聖印徒ルゼッタの美少女コンビ・ガーターズ・・・いいんじゃないかしら」


「だな。彼女らの活躍に期待しようか」と、ソドムは笑顔で肉を頬張った。

(そう、言うなれば俺らは鵜飼《うか》い。鵜であるシュラ達を川に放ち、あとは船で待つ・・・、彼女らが戻ったならば、稼ぎ出した金を吐き出させる。何とも旨い生活ではないか!しかも、本人たちは喜んで難敵に向かって行く。考え付いた俺、天才かよ!)


「ええ、無事に帰ることを祈りましょ」

(なんだか、鵜飼いみたい・・・。けれど、本当の鵜飼いは労せず財宝の一割を徴収する冒険者ギルド。いや、最初に出資をして仕組みを造り、ギルドの上前をはねるだけの金主が真の鵜飼いということになるのかな。どのような人物なのか、一度は会ってみたいものね)

 バジリスクのダンジョン入り口は、地中から這い出て間もないため、ただの巣穴のような外観であった。周囲は乾燥と毒気で荒れ地となっており、見晴らしは良い。それは逆に隠れる場所が少ないことを意味している。


 昼過ぎにギルドを発ったシュラとルゼッタのガーターズは夕方に到着し、枯れ木・枯草を持ってジリジリとダンジョンに近づいて偵察をしていた。魔界陣の影響下に入ったので、空気が乾燥し咳込みそうな二人。皮袋の水をチビチビ飲みながら、なんとか喉の潤いを保っていた。


 シュラはダンジョン近くの大きな岩を見て、

「あれは地竜、確か・・・アレキサンドリア!!」と、ガッカリしながら先客がいることを伝えた。


「アレキサンドリア、兄の竜車ですか!?方法は分かりませんが、タイタンズに先を越されたみたいですね。スウィートから出立した冒険者は天沼矛探しに向かうと思っていましたが、独自に網を張ってたのでしょうか」ルゼッタは腕時計を見て、ギルドの定める戦闘時間《ハッスルタイム》が近いことを確認した。

(この時間に鉢合わせたら、共闘ではなく・・・)


「そうかも。前にあたしらを狙った時も、派閥の斥候を使ってたから、方々に配置してるのかもね。参ったなぁ、竜とは戦いたくないのよね」魔人の弱点である炎は、危険度が高すぎ、ソドムに交戦を禁じられていた。体得した防壁で防げなくもないが、どこまで耐えられるか分からない。


「もう少し接近して、派閥の旗がなければ、聖印徒がいない以上 互いに交戦することはできないので、竜車は素通りできますよ」

(恐らく竜車には誰も残らず、ダンジョン攻略に向かったはず。兄と近衛騎士に聖印徒の五名を相手に戦う事になる。私が壁になり、シュラさんが乱戦に持ち込めばあるいは・・・勝てる)


「そうなんだ。てか、やる気?アイツら、魔神より手ごわいかもよ?まあ、あたしは負ける気しないけどサ」どっちでもいいよ、という雰囲気を出しているが、シュラは頑張って笑いをかみ殺していた。

(よっしゃー!!超お宝の【改心の王杓】ゲットできるじゃん。それに勝てば竜車を貰えるし。ウシシ、こりゃツイてるわぁ!当然、留守番のソドム達の取り分は少なくしないとね~)

 

 そんなシュラの心内など若いルゼッタにはわからず、重要な決断を迫られていると捉え、身が引き締まる思いで竜へとにじり寄る。

(あっ、旗がない!私と同じく、槍に括り付けて探索しているのは確定です)


「一戦しましょう!兄ジオルドは正義の為と称し、敵対する者には容赦ないので、評判が良くありません。過激な思想の高司祭ミディア様の影響とはいえ、闇の神を信仰する者・悪事を働いた者の親族・亜人の子供までも邪悪であるとして処刑しているのは許しがたい」と、秘めた感情を爆発させる。


「わかった、戦《や》ろう!親族代表のあたし等でお灸をすえてやらないとね!」よく言った、という意味でシュラは彼女の頭を撫でた。


「はい!ありがとうございます。絶対、勝ちましょう!と言っても、あくまでも戦闘時間《ハッスルタイム》に出くわしたらですけど。もし戦うとして、作戦は・・・?」と、年長者のシュラに策を仰ぐルゼッタ。


「そうだなぁ。あたしがダーっと突っ込むから、ルゼッタはバシバシって感じでヨロシク!」と、作戦を伝えた。


「は、はい。了解しました」ソドムと違って、何でもよく返事したわけではなく、共に模擬戦をしてきたから、ルゼッタには作戦の真意が伝わっていた、たぶん。


「タイタンズは私たちが来ることを知りませんので、松明《たいまつ》の煙など何らかの痕跡を残すはず。もし分岐があれば、わざわざ戦わず違う道を選んでみては?」

(いけない、一大痛棒を食らわすことばかり考えて、冒険者の本分を忘れてしまいそうでした)


「お、それいい。先に魔神を見つけてサクッと倒して逃げたら、アイツら悔しがるだろうなぁ。殴り倒されるより、精神にきそうだし」意地の悪い笑みを浮かべるシュラ。

(タイタンズを狩るチャンスはいくらでもあるから、魔神狙いが正解かも)


「結局は出たとこ勝負ですけどね」

(そうか~、悔しがらせるという手もあるんですね。やっとたどり着いた先で、討伐済みだったら・・・兄上はどんな顔するだろう。フフフ)


「じゃあ、行こう。堂々と地竜に挨拶しながら」と言うと、用済みになった枯れ木をポイッと捨てて、二人はダンジョンへ向かった。

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