038 反撃の狼煙
今の俺の攻撃力ならザックスに大ダメージを与えられる!
ザックスの背後にはヒナとドワーフが迫っている。
「ザックス、やっと見つけたぞッ! よくもうちのボスをやってくれたなぁ!」
ドワーフが怒鳴りながらザックスに斬りつける。
ザックスは舌打ちすると振り返って、ドワーフの振り下ろした剣を刀で弾き返した。
そしてドワーフの脇をすり抜けるようにしてヒナが前に出る。
「《エレメンタルソード・シルフ》!」
「《四ノ太刀・朱雀》!」
ヒナのスキルをザックスが相殺する。
「面白ぇ! 面白ぇぞ! いいねぇ、この緊張感が堪らねぇぜ!」
ザックスはドワーフの攻撃を躱してアイテムストレージからアイテムを取り出した。
左手に握られていたのは【魔神茸】だった。
「使わせないわ! 《エレメンタルソード・サラマンダー》!」
山賊との戦いでドワーフが使った【魔神茸】。その効果は身を以て体験している。
【魔神茸】の効果は三十秒間STR50%アップだ。ザックスが使えばまさに鬼に金棒。絶対使わせてはならない。
アイテム使用を阻止すべく、ヒナとドワーフが攻撃を繰り出した。
ザックスは避けるでも防ぐでもなく、一旦退くことを選択した。バックステップを踏んで、後方へと跳んだのだ。
俺の目の前に、ザックスの広い背中が迫った。予想外の動きに避けることもできず、俺は体当たりを受けた形になる。
「うおっ……!」
俺は地面に倒れた。
その上にはザックスがいる。ザックスは俺の胸に手をついてすぐに起き上がる。その際、チラリと横目で俺を見た。
俺はザックスの横顔を見て、しまったと思った。
ザックスは【魔神茸】を口に咥えていたのだ。しかも、半分以上は嚥下してしまっていた。
次の瞬間、残った半分を左手で口の中に押しやると、ザックスはドワーフに向かって刀を振るった。
「強化完了ッ! 死ねやぁぁッ! 《二ノ太刀・青竜》!」
「うっ……ぐはっ!」
ドワーフの胸が斬り裂かれて血飛沫が舞った。ザックスはその返り血を浴び、その後ろで起き上がったばかりの俺も血塗れになる。
ドワーフのHPバーが一気に0まで到達した。
「まだたっぷり時間はあるぜぇ! 次はどいつだッ!」
地面に伏したドワーフは半透明、死亡状態となっていた。
ザックスは近くにいた俺とヒナを交互に見る。
俺とヒナ、どっちに来る!?
HPの残り少ない俺を狙うのか?
それとも、【魔神茸】でSTRが強化されているうちに、高レベルで防御力の高いヒナを狙うのか?
俺の背後からはシマンが走ってくる音が聞こえている。ザックスにも見えているだろう。
そのシマンを攻撃するのか?
ザックスは――
――俺を選択した。
「まずは兄ちゃん、おまえだッ!」
ザックスは刀を振り上げる。だが刀はスキル発動の輝きを伴っていない。
通常攻撃かっ……!
残りSPを考慮してか、HPの少ない俺に対して通常攻撃で仕留めるつもりだ。
俺はきたる攻撃に備えて、剣の柄を両手で握りしめる。
確実に剣で受けなければならない。失敗すれば俺のHPは間違いなく0になるだろう。
「えっ……!?」
しかしザックスは体を反転させて俺に背を向けた。
刀は一周回って光を灯す。
まさか……!?
刀の軌道は向かってくるヒナを狙っていた。
「オラァァァッ! 《断骨斬》ッ!」
「……!? 《エレメンタルソ――」
ヒナのスキルは間に合わないっ!
ザックスの《断骨斬》がヒナを襲う!
「ヒナァァァァッ!」
俺の叫びも虚しく、鮮血が飛び散る。
斬られた右手首から血が噴き出し、ヒナは剣を落としてしまった。
「ちっ、上手く直撃は避けやがったかッ! だが、これで終わりだッ!」
ザックスは好機とばかりに追撃を試みる。
武器を失ったヒナは体を地面に伏せてやり過ごすと、転がるようにザックスから遠ざかった。
なおもザックスはヒナを追う。
ザックスも【魔神茸】の効果があるうちにヒナを仕留めたいはずだ。
今のザックスの攻撃力は脅威だ。ヒナだって何度も受けることはできない。
俺の位置からじゃスキル《庇う》は届かない。だけど俺はザックスに追走していた。少しでもザックスの気を逸らすことができたらと考えたからだ。
しかしザックスは俺など気にしない。ここでヒナを確実に仕留めるつもりだ。雑魚の俺なんかに構っている暇はないのだろう。
それにザックスはさっき【剣豪】のスキルではなく、【侍】のスキル《断骨斬》を使った。ダメージなら《断骨斬》より【剣豪】のスキルを使ったほうが上だ。なのに、《断骨斬》を使った。
もしかして、ザックスも残りSPが少ない……?
多分、そうだろう。ザックスもギリギリなのだ。そりゃそうだろう、ヒナとシマンと俺、死亡してしまったがドワーフの四人をたった一人で相手にしているんだから。
「ザックス! おまえも苦しいんだろ! 余裕ぶっているけど、ギリギリなはずだ!」
俺の言葉に苛ついたのかザックスが足を止めずに舌打ちする。
「あぁ? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! 俺様がどんだけ修羅場くぐってると思ってんだッ! あとでぶっ殺してやるから、おまえは黙ってろッ!」
追いついた!
今なら俺の攻撃が届く!
俺は剣を握る右手に力を込めた。
「《ヘヴィクラッシュ》ッ!」
俺の《ヘヴィクラッシュ》がザックスを斬り裂いた!
ザックスのHPバーが大きく減少する!
ザックスは足を止め、俺に振り返り目を見開いている。
効いてる!
だが、さすがザックスと言うべきか、まだHPは残っている!
俺は一気に畳みかける!
「な、なんだと……?」
初めてザックスが驚いたような声を上げた。
俺はその隙を逃さず、続けてスキルを放った。
「うおおおおおおっ!」
「くそがッ……!」
「――《ヘヴィクラッシュ》ッ!」




