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下積みなんてやってられない!いきなり最強の主人公になる。  作者: らいと


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1/12

スキルの名は主演

前世の俺は、売れない役者だった。


何年も下積みを続け、ようやく舞台の主演に抜擢された。もっとも、主演予定の役者が怪我をしたため、背格好の似ている俺に代役が回ってきただけなのだが。


それでも、初めて掴んだ主役の座だった。


――だが、初主演の舞台に立つことは叶わなかった。


本番に向けた稽古は順調だった。ヒロイン役の女優とも打ち解け、舞台の仲間たちとも息が合うようになっていた。


そして、いよいよ明日が公演初日。


劇場には出演者全員が集まり、最後のリハーサルが始まった。

俺がヒロインを抱き上げ、くるりと回転するシーン。

何度も練習した場面だ。


ヒロインを抱き上げ、ゆっくりと身体を回転させる。スポットライトの光が二人を照らしていた。


そのときだった。


ヒロインの肩越しに、天井から吊り下げられた大きなスポットライトが目に入った。

スポットライトが、ぐらぐらと揺れている。

次の瞬間、天井から何かが外れる音が響いた。


「危ないっ!」


俺は叫ぶと同時に、ヒロインを抱えたまま床へ倒れ込み、その身体に覆いかぶさった。

まるで、物語の主人公がヒロインを守るように。


――ガシャーン!


頭に凄まじい衝撃が走った。

最後に聞こえたのは、ガラスが砕け散る音だった。


*


どうやら俺は、ヒロインを助けた代わりに、落下したスポットライトが頭を直撃して死んだらしい。


せっかく掴んだ主演の座を失ったのは、正直悔しい。


何年も待ち続けた、たった一度のチャンスだったのだから。


だが、ヒロインが無事だったと神様から聞かされたとき、不思議と後悔はなかった。


舞台に立つことはできなかった。


それでも、あの瞬間だけは――


俺も、誰かを守る主人公になれた気がした。


観客の前では主役になれなかったが、あの子の人生では、少しくらい格好いい主人公を演じられたのかもしれない。


そんな俺に、神さまは言った。


「せっかく主演選ばれたというのに、死んでしまうとはな。だが、人ひとりの命を救ったお前に、もう一度チャンスをやろう。今度こそ主演になれる世界へ転生させてやる」


俺の願いは、ずっと変わらない。


誰かの代役じゃない。今度こそ、自分自身が主役になることだ。


この新たな世界が俺の舞台。


そして、この世界に存在するすべてが俺の観客だ。


目指すは――世界を股にかける、最強の主人公だ。


*


目を覚ますと、見知らぬ天井があった。


身体を起こそうとした時、ベッドの縁に顔を埋めるようにして、一人の女性が眠っているのに気づいた。


誰だ、この人。


そう思った瞬間だった。


自分のものではない記憶が、頭の中へ一気に流れ込んできた。


二十歳で生涯を終えた、カールという男の記憶。


断片的とはいえ、台本数十冊分はありそうな人生が、強制的に頭の中へ叩き込まれてくる。


「う、ああっ……!」


耐えきれず、両手で頭を抱えた。


「カール! 大丈夫!? 三日も目を覚まさなかったのよ!」


女性が飛び起き、涙を浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。


流れ込んだ記憶によれば、カールは冒険者だった。ダンジョンで魔物の毒を受け、何とか自宅まで戻ったものの、そのまま力尽きたらしい。


そして俺は、死んだカールの身体に転生した。


目の前の女性は――セルフィ。カールの幼馴染だ。


(……まずは怪しまれないようにしないとな)


前世では売れなかったとはいえ、何年も役者をやってきた。


カールの記憶から、彼女と話す時の表情、声の高さ、喋り方の癖を拾い集める。病み上がりの掠れ声を作り、幼馴染に向ける柔らかい笑顔を浮かべた。


「……もう大丈夫だ、セルフィ」


そっと彼女の手を握り返す。


「俺、ずっと寝込んでたんだな。看病してくれてありがとう。助かったよ」


声のトーンも、間の取り方も、記憶の中のカールと寸分違わないはずだ。


セルフィはしばらく俺を見つめていたが、やがて安堵したように息を吐いた。


「……よかった。本当に、よかった……」


そのまま俺の手を握り、ベッドの縁へ顔を伏せる。ほどなくして、小さな寝息が聞こえてきた。


よほど長い間、付き添ってくれていたらしい。


まさか異世界に来てまで、芝居が役に立つとはな。


俺はセルフィを起こさないように立ち上がり、そっと肩に毛布をかけた。


部屋を出て、玄関の扉を開ける。


その向こうは、陽の光がこちらに微笑むように照らしていた。中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並みが広がっていた。


石畳の道を行き交う人々。軒を連ねる建物。どこを見ても、日本とはまるで違う。


俺は大きく息を吸った。


「よし! 今度こそ、俺が主役になってやる!」


俺には、神さまから与えられた『主演』というスキルがある。


発動している間は、その場面の主人公として振る舞えるらしい。もっとも、具体的に何ができるのかは、まだよく分かっていない。


この世界にはダンジョンも、魔物も、強者もいる。試す機会はいくらでもあるだろう。


俺は石畳の街へ一歩踏み出した。


「さあ――第二幕の始まりだ」


*


街を歩くうちに、カールの記憶も少しずつ整理されてきた。


翔太としての記憶と、カールとしての記憶。最初は入り混じっていた二人分の人生が、今では別々に思い出せる。


「さて、カール。お前のことをもう少し教えてもらうか」


カールは二十歳の冒険者。


父親も冒険者だったが、数年前から行方不明。遺体は見つかっておらず、周囲からは亡くなったものと思われている。


母親は病気になり、薬代と生活費を稼ぐためにカールは冒険者になった。だが、その母親も数年前に亡くなっていた。


そして三日前、ダンジョンの六階で魔物の毒を受けた。


「……苦労してきたんだな」


次はセルフィ。


十九歳。実家のパン屋で働いている。カールとは幼馴染で、カールは彼女に想いを寄せていたらしい。ただ、収入が乏しく、なかなか気持ちを伝えられずにいたようだ。


この街には冒険者ギルドがあり、冒険者にはE、D、C、B、A、S、SSというランクがある。


そしてカールは――Eランク。


俺は思わず苦笑した。


「売れない役者に、万年Eランクの冒険者か。お互い、下積みが長かったみたいだな」


境遇は違うのに、何となく他人とは思えない。


「安心しろ、カール。お前の仇も討ってやる。ダンジョンだって制覇してやるよ」


今度はこいつの人生ごと、一気に駆け上がってやる。


「まずは冒険者ギルドだな。クエストでも見繕うか」


それにしても、一つの頭に二人分の人生が入っているとは。


「転生者って便利なもんだな」


*


冒険者ギルドに入ると、まず中にいる人間をそれとなく観察した。


受付を除けば、冒険者は五人。そのうち三人はパーティーを組んでいるのか、テーブルを囲んでダンジョン内での動きを打ち合わせていた。


クエストはどこに張り出してあったっけな。カールの記憶をたぐる。


「掲示板っと……あった、あれだ」


掲示板には、数種類の依頼書が張り出されていた。


【ランクB ヴァンロードの討伐】


【ランクC スカルイーターが落とす魔石、五個】


「いきなりBランクは無理だな。もっと簡単なのは……」


そして、ようやく見つけた。


【ランクE ぷにぷにゼリーが落とす鉱石、三個】


「おっ、これならいけそうだ」


報酬は五千ギール。三日分の食費にはなるらしい。


依頼書を剥がし、受付へ向かう。


さて、カールの口調は……こんな感じだったか。


「すいません、ちょっといいですか?」


受付嬢は俺を見ると、少し驚いた顔をした。


「あら、カール。しばらく見なかったから、死んじゃったかと思ってたわ。Eランクさん」


後ろから笑い声が聞こえた。


「死んだらもうセルフィに会えないぞ。いっそ生活を見てもらえって。いまだにEランクじゃ、セルフィにも愛想を尽かされるぞ」


受付嬢まで笑いながら口を挟む。


「そのとおりだわ。危ない思いをするくらいなら、そうしたらどう?」


その瞬間だった。


受付嬢の横に、突然文字が浮かび上がった。同時に、まるで舞台のようにスポットライトが彼女を照らす。


俺が死んだ原因がスキルに使われているのか?これを、乗り越えて行けってことか、神さま。


【マーシャ】


【性格の悪い受付嬢】



何だこれ。


(まさか、スキル『主演』か?)


まあ、いい。まずはカールを演じきろう。記憶にあるカールなら、ここで怒鳴り返したりはしない。

泣きそう顔をしながら、マーシャの目を見つめる。

「ははは、マーシャさんにまで言われるとは。まあ、慣れてますから。いくらでも言ってください。いまだにEランクですから、俺」

そして、上目遣いで、マーシャをチラッとみる。


カールだけじゃない。俺自身、こういうのには慣れている。


――才能もないのに、いつまでこの世界にいるの?


前世じゃ、何度言われたことか。


(……共感するぜ、カールよ)


ダンッ!


突然、マーシャがカウンターを叩いた。


「カールは一生懸命にやってるのよ! 両親を早くに亡くして、それでも冒険者になって頑張ってるんだから、笑われるようなことなんかしてないわ!」


「……え?」


さっきまで一緒になって笑っていたマーシャが、突然俺を庇い始めた。何より驚いたのは、俺自身だった。


冒険者たちも困惑した顔でマーシャを見つめていたが、やがてばつが悪そうにギルドを出ていった。


「カール、クエストの受注は完了したわ。気をつけてね。それと……これは私から」


マーシャが差し出したのは、一本の回復薬だった。


「ライフエールよ。高級な回復薬だから、大事に使いなさい」


「えっ、いいのか? ありがとう、マーシャ」


もう一度彼女を見ると、名前とスポットライトは消えていた。


マーシャは俺の手元に視線を落としている。先ほどまでの勢いはどこへやら、困惑した表情で、ライフエールを名残惜しそうに見つめていた。

俺がギルドを出ようとすると、彼女は何か言いかけたが、結局何も言わずに目を逸らした。


ギルドを出たところで、俺は足を止めた。


(……今のは何だったんだ?)


俺は何もしていない。ただ、カールならどうするか考えて振る舞っただけだ。


なのに、あのマーシャが俺を庇い、高級な回復薬までくれた。しかも、スポットライトが消えた後の様子は明らかにおかしかった。


「……主人公補正ってやつか?」


いや、まだ分からない。とりあえず、もう少し試してみるしかないな。


*


しばらく歩くと、大きな看板が見えてきた。


【ウォールダンジョン ダンジョンレベル2】


【※十五歳未満侵入禁止】


「なんかテーマパークみたいな看板だな」


カールが命を落としたのも、このダンジョンだ。六階で魔物の毒を受けている。


だったら、油断はできない。


「今日は一階だけだ。主人公がいきなり死んだら笑えねえ」


俺は入口をくぐった。


石造りの階段を降りると、迷路のようにいくつもの分かれ道が続いていた。ウォールダンジョンの名の通り、天井も壁も床も石造りだ。


カールが持っていたブロンズソードを抜き、慎重に進んでいく。


「よっしゃ。世界の主人公への第一歩だな」


しばらくすると、通路の奥で水色のゼリーのような魔物が動いているのが見えた。カールの記憶によれば、ぷにぷにゼリーで間違いない。


「よし、初実戦だ。やってやるか」


舞台で剣を握ったことならある。もちろん、本物じゃない。殺陣の稽古だって何度もやってきた。

イミテーションとは違い、手にズッシリと重みが感じられた。

剣を両手に構える。生きるか死ねかの戦い。額には、既に汗が滲んでいる。

「転生最初の戦闘、やってやる!」


俺は勢いよく踏み込み、剣を頭上に掲げ、ぷにぷにゼリーめがけて一気に振り下ろした。


だが――。


スルッ。


剣がぷにぷにゼリーの柔らかい身体を滑り、そのまま石造りの床を叩いた。


ガキィン!


「いってぇ!」


力いっぱい振り下ろした反動で、剣が手から弾き飛ばされた。


「やばい! こんなところで!」


ぷにぷにゼリーが身体を縮めた。


(反撃する気か!? どうすれば……)


次の瞬間、勢いよく飛びかかってきた。


「うおっ!」


咄嗟に両腕を交差させ、体当たりを受け止める。


「ぐっ……! これなら!」


何とか押し返し、急いで剣を拾い上げた。


痺れる手で柄を握り直す。


「そう簡単にはいかないってか!」


(大振りは危険だな。だったら……!)


俺はぷにぷにゼリーに向かって、剣を真っすぐ突き出した。


ブスリッ!


「よし、刺さった!」


だが、ぷにぷにゼリーは止まらなかった。


剣に突き刺さったまま、柔らかい身体を伸ばし、刃を伝ってこちらへ迫ってくる。


「うわっ! 何だこいつ!」


このままじゃ、また体当たりを食らう!


「だったら、これでどうだ!」


俺は剣を突き出したまま、ぷにぷにゼリーを壁に向かって押し込んだ。


「うおりゃああっ!」


ドンッ!


ぷにぷにゼリーが壁に叩きつけられ、ぐにゃりと潰れた。


そのまま床に落ち、ふらふらと揺れている。


「はぁ、はぁ……」


しばらく様子を見ていると、ぷにぷにゼリーの身体がゆっくりと消えていった。


「……何とか倒せたな。カール、見直したぜ」


やがて身体がゆっくりと消え、その跡に小さな鉱石が一つ残った。


「おっ、これがクエストの鉱石か」


鉱石を腰袋へ入れ、剣を見つめる。


「世界最強を目指して、最初の敵に苦戦か……」


まあ、生まれた時から最強の主人公なんていないか。


「とりあえずは、『主演』を自分のものにしてからだな」


*


さらにダンジョンを進んでいると、通路の先から声が聞こえてきた。


「お姉ちゃん、怖いよー。まだ先なの?」


「何言ってんの。まだまだ先よ。下の階に行かないと。だから来なくていいって言ったじゃん」


「だって、心配なんだもん」


(……子供の声?)


「まさか、入り込んだのか?」


声のする方へ小走りで向かうと、二人の子供がいた。


「おい、二人とも。ここは危険だ。二人とも十五歳未満だろ。入口の看板にも書いてあったはずだぞ」


その瞬間――。


男の子の横に名前が浮かんだ。


【グレン】


【姉思いの男の子】


そして、もう一人。


【アーシュ】


【勝ち気な口調だが、裏では健気な女の子】


「……まただ」


マーシャの時と同じ。二人にスポットライトが当たっている。


姉思いの男の子と、勝ち気だが健気な女の子。


(この二人も、物語の登場人物ってことか?)


「あんた何? 関係ないでしょ。私たちのことは放っておいてよ」


「姉ちゃん、助けてもらおうよ」


「嫌よ。こんな知らない男に助けてもらうなんて。それに私は十五歳よ。失礼じゃない」


「アーシュは十五歳か。悪かったな。でも、弟のグレンはまだ子供だろ」


アーシュの目が細くなった。


「あんた……何で私たちの名前を知ってるの?」


「え?」


「怪しいわね。まさか、あの人……叔父さんから言われて来たの?」


(しまった。名前が見えているのは俺だけだった!)


どうする?


舞台なら、台詞を飛ばした役者がいたって芝居は止められない。こういう時は――アドリブだ。


「叔父さんのことは知らないが、アーシュとグレンが呼び合ってるのが遠くから聞こえてきたんだ」


(……我ながらナイスアドリブ)


「……まあ、いいわ。さあ、行くわよ、グレン」


アーシュは嫌がるグレンの手を引き、奥へ進もうとした。


その時だった。


通路の奥から、ぷにぷにゼリーが次々と現れた。


一匹、二匹――五匹。


「もう! あんたが話しかけてくるから出てきちゃったじゃない!」


「それは俺のせいじゃないだろ!」


俺は二人の前へ出た。


「下がってろ!」


一度戦って、コツは掴んでいる。五匹相手に通用するかは分からないが、子供たちを見捨てるわけにはいかない。


その瞬間、目の前に文字が浮かび上がった。


【『主演』戦闘スキル発動】


【主人公補正:各ステータス上昇】


【スキル『スラッシュ』使用可能】


「……おおっ!?」


気づけば、俺自身もスポットライトに照らされていた。


(今度は俺が主役ってことか!)


全身の感覚が研ぎ澄まされていく。まるで舞台上でスポットライトを一身に浴びているようだった。


身体が自然に動く。何度も稽古を重ねてきた殺陣のように、次にどう動けばいいのかが分かる。


「そこだ!」


ブスリッ!


正確に中心を貫き、一匹目を倒す。そのまま剣を引き抜き、返す刃で二匹目も仕留めた。


「おっ、いい感じじゃないか!」


三匹目へ踏み込もうとした、その時。


「火の精霊よ、いでよ! ファイヤーアロー!」


俺の横を炎の矢が駆け抜け、二匹のぷにぷにゼリーをまとめて吹き飛ばした。


「おお……アーシュ、やるじゃないか!」


「このくらい当然よ!」


残る一匹が身体を縮め、勢いよく飛びかかってきた。


さっきの俺なら、まともに食らっていただろう。だが、今度は違う。


半歩身体をずらし、飛び込んできたぷにぷにゼリーをかわす。


(……そうだ。さっき表示されたスキル、使ってみるか!)


「これで終わりだ! 必殺のスラッシュ!」


剣を振り抜いた瞬間、斬撃が飛び、ぷにぷにゼリーを切り裂いた。


「おおっ! すげえ!」


五匹のぷにぷにゼリーは次々と消え、その跡には鉱石が二つ残った。


同時に、俺を照らしていたスポットライトも消えていった。


(……あれ? もう終わりか?)


「あんたもやるわね。少しは見直したわ」


グレンがアーシュの袖を引っ張った。


「お姉ちゃん、この人に名前を聞こうよ」


「……仕方ないわね。あんた、名前は何ていうの?」


「俺はカール。Eランク冒険者だ」


「そう。ランクなんか関係ないわ。カール、私たちは地下五階に行くところなの」


「五階? 何しに行くんだ?」


「友達の両親が病気なの。五階の魔物が落とすライフジュールを集めて、ライフエールを作るつもり」


「ライフエール……?」


俺は腰袋に手を入れ、マーシャにもらった回復薬を取り出した。


「これか?」


アーシュが目を見開いた。


「それ! それよ!」


俺は手の中のライフエールを見つめた。


マーシャから、たまたまもらった回復薬。その直後に、たまたまその薬を必要としている姉弟と出会った。


しかも、二人にも名前が表示された。


(……待てよ)


出来すぎている。まるで映画やゲームの主人公じゃないか。


「……これが『主演』?」


だとしたら、このスキルは単純に強くなる能力じゃない。


俺を――物語の主人公にする能力?


「一つでいいのか?」


「一つでいいわ。でも、かなり高価な薬よ。なかなか出回らないから」


俺はライフエールを見る。


持っていた方がいいに決まっている。カールはこのダンジョンで死んだんだ。今度は俺が同じ目に遭うかもしれない。


でも――。


物語の主演、主人公は俺だ。


グレンを見る。怖くて仕方ないくせに、友達のためにここまで来たのか。


俺は小さく息を吐いた。


「アーシュ、一つ提案がある」


「何よ?」


「俺はぷにぷにゼリーが落とす鉱石を集めてる。さっきお前が倒したやつから鉱石が出ただろ?」


「だから?」


俺はライフエールを差し出した。


「交換だ」


アーシュが目を丸くする。


「あんた、本気で言ってるの? こんな鉱石、簡単に手に入るわよ。それとライフエールじゃ全然釣り合わない」


「俺には必要な鉱石だ。それでいい」


「でも……」


「貸し借りなし。それなら受け取れるだろ?」


アーシュは黙った。しばらくライフエールを見つめ、やがて両手で受け取った。


「……ありがとう、カール」


「だから交換だって」


俺は足元の鉱石を二つ拾い、腰袋へ入れた。


これで三個。クエスト達成だ。


アーシュが俺をじっと見つめている。


「カール……あんた、何者なの?」


「さっきも言っただろ」


俺は腰のブロンズソードを軽く叩いた。


「ただのEランク冒険者だよ」


今のところは、だけどな。


「よし。全員目的は達成したし、帰るぞ」


「はい!」


グレンが嬉しそうに答えた。アーシュもライフエールを大事そうに抱えている。


だが、二人の名前とスポットライトは、まだ消えていなかった。


(……おかしいな。マーシャの時は消えたのに)


目的は達成したはずだ。


(まだ、この二人の出番は終わっていないってことか?)


「帰りましょう。早くこれを持っていかないと」


俺たちは来た道を引き返した。


マーシャ、アーシュ、グレン。


『主演』が発動した時だけ見える名前。そして、まるで最初から用意されていたように繋がっていく出来事。


少しだけ、分かってきた気がする。


名前が見えた人間が勝手に俺の物語へ入ってくるんじゃない。俺が主人公として関わることで、物語が動き出す。


――これが、スキル『主演』なのか。


まだ、名前が見える条件も、このスキルがどこまで俺の人生に関わってくるのかも分からない。


それでも、一つだけは確信していた。


俺はこの世界で――脇役じゃない。


主人公だ。


眩しい陽射しに目を細めながら、ダンジョンの外へ出る。


初クエスト終了。


これで、主演としての第一歩は――。


「いたぞ!」


突然、男の声が響いた。


「え?」


顔を上げる。


ダンジョンの入口に、三人の兵士が立っていた。


三人とも、こちらを見ている。


いや――俺じゃない。


アーシュを見ている。


隣で、アーシュの顔から笑顔が消えた。


「……見つかった」

読んでいただき、ありがとうございます。


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