フミスケ外伝⑧シルト編1
あの頃の海は…
光は海底の深くまで差し込み、水は澄んでいた。
争いの音よりも、波の流れる音の方が大きかった。
海に選ばれる為に、
世界の海を知るために、
亀【シルト】は旅をしていました。
後に、シルトはリヴァイアサン海神の眷族となり海の管理者となる。
そしてミミの父親となる…
これはミミが生まれる前…
マミに出会うよりさらに昔の物語…
♢♢♢どこかの海♢♢♢
広い海の中を
二つの影が並んで泳いでいました。
若きシャチ【スピア】は、
勢いよく水を切って泳いでいきます。
その横に、亀シルトが並行して泳いでいました。
亀シルト「スピア、急ぎすぎだ」
シャチスピア「シルトっ、止まってたら、奪われるからなっ!今から攻めに行くんだよっ」
シルトは微笑みながら、首を傾ける。
シルト「守るなら、急ぐ必要はない」
スピアは笑いました。
スピア「ぷっやっぱりお前、変わってるな」
シルト「そうか?」
スピア「そうだよっでもお前はそれでいいっ」
2人はよく並んで泳ぎました。
荒れた海域のサメ同士の争いを止める時も、弱い生き物を守った時も…どんな時も力はシャチスピアの役目。
流れを読むのは亀シルトの役目。
完璧な役割分担でした。
スピア「いたぞっ!またサメがシャチの国に入ってきてる!」
シルト「数が多いな」
スピア「俺が前に出る」
シルト「なら、俺は後ろを見る」
「行くぞぉぉぉぉ!!」
その言葉に疑いはありませんでした。
♢♢♢シャチの国♢♢♢
ある日、
シャチの群れ同士で派閥争いが起きました。
同胞達は2つに分かれて戦争を始めました。
始まって1週間もかからず争いは終わりました。
そしてたくさんのシャチが死にました。
スピアとシルトは第三勢力として争いの間に立ちましたが、止めることができませんでした。
血で赤くなる海や逃げ惑う弱者、
沈んでいく知人をたくさん見てきました。
スピアは牙を剥いて叫びました。
スピア「何故だ…なんのために俺達は戦うんだっ…あっという間に死んだ…みんな」
シルト「…」
スピア「なぜ止めれない!なぜだっ!」
シルト「なぜ始まった…じゃないのか?」
スピア「争いは知らない間に勝手に始まるっ止める力が必要なんだよっ!止める力が!」
シルト「落ち着けっ!もっと前に止めることができたはずだ」
スピア「勝った方はもう止まらない、負けた奴らは1人も残らない」
シルト「…」
スピア「止めるには…支配だ…恐怖だ…恐怖を見せれば…二度と争わない」
シルトは静かに言いました。
シルト「恐怖はいつか裏切るぞ」
スピア「なら…裏切りをさせなければいい…」
この時から二人の進む道は、
わずかにズレれ大きく道を違うことになりました。
➖数ヶ月後➖
スピアは、大いなる力を知りました。
キィィン……キィィン
それはシャチの特殊能力
【超音波】
超音波を当てられた敵は逃げ、争いは止まりました。
スピア「シルトっ見ただろう。これが秩序だ」
シルトは、海の震えを感じ取ります。
シルト「……海が痛がっている」
スピア「痛みは、必要な代償だ。
これでっ…これで平和になるぞっ」
シルトは、その言葉を否定しませんでした。
いろんな所で戦争が続くなか、
敵と共に魚の小さな群れが、超音波に巻き込まれました。
意図しない犠牲
動かなくなった影が静かに沈んでいきました。
スピア「…仕方ない。みんなを守るためだ。」
シルト「……お前は、いつから数で語るようになった」
スピア「おれは…守る数が増えた」
シルト「だから、切り捨てる数も増えたのか?」
スピア「……」
その言葉は、なにより重かった。
➖数日後➖
静かな深海の狭間。
光と闇の境目に2人はいました。
スピアは言いました。
スピア「俺は、海を統一してまとめる」
シルトは答えました。
シルト「そうか…俺は海に選ばせる」
短い沈黙。
スピア「…一緒には行けないな」
シルト「……ああ」
それでも、2人は敵ではありませんでした。
スピア「お前は、いつか俺を止めに来るか…」
シルト「…必要なら」
スピア「…フッお前は変わらないな」
スピアは笑いました。
スピア「…それでいい」
別れ際、スピアは振り返り言いました。
スピア「…シルトっ」
シルト「なんだ」
スピア「もし俺が間違ったら…」
一瞬、言葉が詰まります。
スピア「…止めろっ」
シルトは深く頷きました。
シルト「約束だっ」
2人は振り返ることなく海に消えて行きました。
まだ「帝国」も「支配」も存在しない時代の話。




