フラグを立ててみた
地下ダンジョンは大迷宮と言うだけあって部屋や通路が入り組んだ迷路のようになっている。
広さは全体を見渡す事ができないので想像でしかないが、少なくとも黒いままのマップの大きさから察するに地上の王都の三倍は軽くありそうだった。
迷宮内の壁の所々にはウォールランプが設置されていてどういう原理か消える事も無く、少々薄暗いとはいえ視界的に問題はなかった。
「これマップが無かったら大変だったね」
「無くても大変そうだぞ」
表示されている部分だけでも行き止まりになっている場所が何カ所かあり、その全部を確認して歩いたら本当に大変そうだった。
しかしアリサのマップはその点とても便利仕様。マップ全体はまだ開いてはいないが宝箱も魔物も表記されていて、少なくとも全通路全部屋を見て回らなくて済むだけでも少しは攻略は楽そうだった。
「これさぁ、マップ無しじゃ絶対に途中で挫折するよね」
「あっても挫折しそうじゃ無いか」
シオンはアリサの本心を見抜いたかのように相づちを打つ。
出現する魔物は確かに然程強くもなかった。しかし問題なのは虫系の魔物が多く、時には群れて出現するので地味にアリサの神経を削る。
ゲジゲジにムカデにダンゴムシに黒光りするG。その神経を削る虫たちが成犬ほどの大きさで薄暗いなかを蠢くのだ。焼き払おうが切り刻もうがけして気持ちいい訳がなく、知らず知らずのうちに気分は鬱々としていく。
できる事なら踏破を諦めこのままダンジョンを脱出したいと何度考えた事か・・・。
しかしその度に踏破すればルリの役に立つかもしれないと言い聞かせ気分を上げる努力をしていた。
「ああ、もうホント鬱陶しい!」
突進するように飛んでくる黒光りGに悲鳴を上げるより先に攻撃できるほどには馴れたがやはり鬱陶しさは否めない。
「壁を壊す事ができたらまっすぐに進めて攻略も簡単なのに、何でこんなに複雑な迷路なのよーーー!」
アリサは鬱憤を晴らすように叫んでいた。
「壊すか?」
「・・・できるの?」
「ああ。だがそうするとエリアボスがダンジョン内を異動する事になるぞ」
壁を壊せると簡単に言うシオンにも驚きだがダンジョンって復活するよね?
「壊してもすぐに元に戻るんじゃないの? だとしたらエリアボスがダンジョン内を異動するのは無理でしょう?」
「私が壊すんだぞ。元に戻る事はない」
何その自信って言うか理屈? 意味不明なんだけど・・・。
「エリアボスってあのネズミだよね?」
ここへ来るまでに何度か戦った大ネズミ。少し大きな部屋に三匹から五匹で出没し、動きが素早く尻尾を鞭のように使う攻撃が少し厄介ではあった。
もっとも部屋によって色も大きさも違うのでそれなりに強さも変わるのだろうが、勿論アリサの敵ではない。
たとえあの大ネズミがこのダンジョン内をうろつく事になったとしても何の問題もないだろう。
「あれは中ボス扱いじゃないか。この先に体長五メートルはある大ムカデがいるな」
「大ムカデかぁ・・・」
毒を吐いたり噛みつき攻撃は成犬の大きさでもちょっと厄介そうだなと思ったけれどそれが5メートルと聞いてアリサは少し考える。しかしやはり自分の敵にはなり得ないと考え直す。
そしてやはりこの大迷宮もエリアボスを倒さないと次のステージに進めない作りになってるのかとなんとなく納得する。
「かまわないわ。壁を壊して進みましょう。どのみちこのダンジョンは放置されているのも同然で攻略する冒険者もいないみたいだし関係ないよ」
「では壊したい壁を選んで指示を出せ。私はその壁を壊していこう」
「やったー! お願いね」
アリサはこれで踏破はもっと簡単になると心から喜び叫び声を上げていた。
そうして効率を第一に考え壊す壁を選び大迷宮内を変則技を使いサクサク進む。
「こっち・・・、じゃなくてあっちに宝箱があるからここの壁をお願い」
マップとにらめっこしながら進む方角を決めていく。
ドゴーン!
シオンの突きの一撃で壁一面が脆く崩れ落ちる。
「ホント凄いよね。見てると簡単そうなのにシオンにしかできない技だなんて」
試しにアリサも全力を出して壁を攻撃してみたが傷一つ付ける事もできなかった。
「まあこの壁は無理だろうが今のお前ならドラゴンとでも普通に戦えるのではないか」
「そうかな?」
「この件が済んだら行ってみるか?」
「あのドラゴンの巣? ルリとシオンで倒しまくったからまだそんなに増えてないんじゃないの?」
「あそこの他にも似たような場所はある。自信がないならベヒモスやサイコルプスの巣もあるぞ」
「それって違いが分からないよ」
アリサからしたらベヒモスもサイコルプスもドラゴンも大きくて強い敵だ。たいした違いがない。
もしかしてシオンはまた強敵と戦闘がしたいのだろうかとふと考える。
「なんにしてもドラゴンほど高く売れる魔物はいないか」
「もしかしてこれからもっとお金が必要になると考えてるの?」
「そうならなければいいがな」
アリサはシオンが何かのフラグを立てたような気がしていた。