喜んでみた
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アンデッドダンジョンのモンスターハウスを利用しての初級ジョブの狩人・戦士・踊り子のレベル上げがいよいよ終わろうとしていた。
そしてこれで初級ジョブのすべてを終わらせ、中級ジョブのナイト・竜騎士・魔剣士・魔導師・パラディンに挑めるようになっていたが、相変わらず忍者・賢者・バトルマスターはグレー表示のままだった。
「やっぱり忍者は上級ジョブか」
アリサは何気なく溜息をついていた。
モンゾールさんの帰りを待っている間にと思って続けていたジョブレベル上げがここまでできるとは思ってもいなかった。
しかし一度はなってみたかった忍者にはまだ届かないのだと知りちょっとがっかりしてもいた。
だがレベルもかなり上がっていて、これなら高難易度ダンジョンに挑むのも容易いだろうと考えていた。
「まだ帰って来ないのかなモンゾールさん」
アリサがもう一度溜息をつくと、シオンが空を見上げどこか遠くを見る様にした。
一瞬黄昏ているのかと思っていると、ルリがアリサの肩に手を置いて首を横に振るのを見て、アリサの為に探ってくれているのだと察した。
「今日の夕方には戻って来るだろう」
シオンはアリサへと視線を戻しそう教えてくれた。
「ホント!? じゃぁ今日はこれで切り上げて街で待ってようか」
アリサの提案に二人は微笑むだけだったが、賛成してくれるのだと分かるのでアリサ達は街へと戻った。
「心ここにあらずですね」
「ならばモンゾールの店で待たせて貰うとしよう」
街に戻ってもモンゾールさんの帰りが待ち遠しくて、大通りを歩いていても店を覗く気にもなれず、露店の並ぶ広場でウロウロとしていたアリサに二人が声を掛ける。
そしてシオンは既にモンゾールさんの店へと向かって歩き始めていた。
そうして久しぶりにモンゾールさんの店へと出向いたアリサ達は、オッカムさんの接待を受けながらインベントリに溜まったアイテムの買取をして貰い時間を潰していた。
シオンの眷属達にも結構預けたが、アンデッドダンジョンで増えたアイテムもかなりあったのでそこそこ整理させて貰っていた。
そうこうしているうちにシオンの予告より早くモンゾールさんは帰って来た。
「随分とお待たせしてしまい申し訳ありませんでした」
アリサ達の顔を見るなりモンゾールさんは頭を下げ謝る様にしていた。
「いえ、こちらも無理な注文をしましたから」
ルリがモンゾールさんを出迎える様にして言う。
「ご苦労であった」
シオンは何だかとても偉そうだった。
しかしアリサは既に装備の事が気になっていて、そんなやり取りさえもどかしかった。
「それでどんな装備が出来上がりました?」
挨拶もそこそこにアリサが尋ねる。
「今この国で作れる最高傑作と言えましょう、お待たせした甲斐があると言うものです」
そう言って取り出された装備はまさに前の世界で身に付けていた物に似ている感じがした。
ローブとブーツは派手さなどまるで無く、機能性重視の様に見えるのにどことなく品の良さも感じさせるのもアリサの心を擽った。
「ドラゴンの皮の加工には随分と手を焼いた様ですが、職人は自信作だと申しておりました」
ドラゴンの鱗を粉にしてまぶし皮を加工したと言うローブは、分厚さを感じさせず布で作ったかの様にとても軽くそしてしなやかな動きをしていた。
鑑定してみると、その防御力の高さだけでなく、物理攻撃も魔法攻撃も半減させる高性能付きだった。
ブーツは内側を皮で外側を鱗を使って作られたショートブーツの様な作りで、特に靴底が少し厚めになっていてかなり頑丈そうだった。
そしていよいよ期待の鞭は一見どうやって加工したのか分からない程にドラゴン感は無く軽く手に馴染んだ。
「鞭を振るうと鞭の先に仕込まれた牙で作った刃が出るそうです。かなり攻撃力が高くなっていますが、風の刃の追尾攻撃も出るそうです」
風魔法の付加まであるとは考えてもいなかったアリサは、モンゾールさんの説明にすっかり興奮した。
「グリンガムのムチ以上かも」
「喜んでいただけた様で私共も安心しました」
モンゾールさんは胸を撫で下ろしている様だったが、アリサはその性能と威力を確かめたくて早速ウズウズし始めていた。
「こちらもお納めください」
おまけの様にして取り出されたのは、何かの皮を加工して作られた胸当てだった。
「貴重な体験をさせて頂き大変勉強になったと職人も喜んでおりました。せめてものお礼の品として受け取って欲しいとの事です」
鑑定するとベヒーモスの皮で作られていて防御力も結構高い胸当てで、ちょっと赤みがかった色がベージュっぽいほんのりピンク色のローブとも合っている。
(私が女だってバレてないよね?)
何となく一瞬そう思ってしまったくらいに明るいイメージでコーディネートをされた雰囲気につい顔が綻んでしまう。
前の世界の時の様なと言うより、もしかしたらそれ以上の装備を整えられて、やはりモンゾールさんに頼んで良かったとアリサは心からそう思っていた。