王都side
・
次のエリアには川幅がそこそこに広く流れが緩やかに見える川があった。
そしてその水場に集まるかのように、サーベルの様な2本の角を持つ牛の様な鹿の様な魔物が群れを成していたり、明らかにネコ科だと思われる魔物が居たりハゲタカの様な鳥が飛んでいた。
「見るからに魔物のレベルが上がった気がするね」
「私も手伝いましょう」
「魔法ばかり使ってたせいか盗賊のジョブレベルがなかなか上がらないんだよね、だから少し短剣で頑張ってみるから危ない時はお願いします」
「それでは上空の敵はお任せ下さい」
辺りの魔物を確認して、軽くルリと作戦を立てる。
どのみちシオンが暫く別行動をするつもりなら、私は盗賊のジョブをカンストさせるまでこのダンジョンに籠り粘る気でいた。
武器はバアラニックダンジョンでエリアボスの宝箱ドロップで一通りは揃っていたので困る事は無かった。
しかしインベントリにあるアイテムを確認しながら、少し整理しようかと考えてもいた。
※
現在のこの国の王は政にはまったく興味が無く、その地位に胡坐をかき贅の限りを尽くし我儘放題の16歳と言う年の若い王だった。
前王は自分にも他人にも厳しい武芸に長けた王だったが、現王が5歳と言うまだ幼い頃に急病で亡くなった。
その後第一王子が幼いながら王位を継ぎ、王妃の実家であった公爵家が後ろ盾となった事でこの国は少しづつ狂い始めたのだった。
代々王に使える宰相が居なければこの国はもうとうに終わっていたと言っても過言ではなかった。
しかしその宰相も王が成人してからはその地位も危うくなりつつあった。
そう言う現状でありながらも宰相は今の国の状況を憂い思い悩んでいた。
そんな宰相の元に緊急の面会の要請がモンゾールから届く。
モンゾールとは以前仕事の関係でこちらが大分迷惑を掛けたが、その時の誠実な態度と人柄を気に入りその後も内密に取引をしていた事もあり親しくしていた。
それも大抵の場合こちらから一方的に連絡し無理を言った事しか無かったのに、そのモンゾールから緊急の面会と聞き、ただ事ではないと判断し早急にそれに応じていた。
「こ、これは」
目の前に出されたドラゴン素材を前に宰相は絶句していた。
「こちらはすべてとある方から預かっている物なのですが、かなりの数をお持ちの様でできればそのすべてを売り捌きたいと頼まれました。私共としましてはこのうちの一つを王に献上し、その他をこの王都で売り捌こうと考えているのですが、どこにお願いするのが良いのか助言を頂きたいのです。それともう一つ、この素材で武器と防具の作成も頼まれまして、それが可能な職人もお世話して頂けないかと思いましてこうしてお願いに上がった次第です」
モンゾールは宰相の屋敷の一室である応接室のソファーに座り、まるで悪事の密談でもしているかのように背中を丸め声を潜めて話していた。
対面に座っていた宰相は絶句した後しばらく目を瞑り組んだ腕の片方の人差し指と親指を顎に当て考え込んでいた。
「下手に王に一つばかりを献上し、その後王都にこれらが出回った事を知ったらあの王の事だ、何故そのすべてを献上しなかったかと問題にされ処罰されかねない。ここは出品者を隠しオークションにかけるのが賢明と考える。それもこの国だけでなくできれば他国のオークションにも出品する事で出所を明確にさせない事も必要であろう。そうする事で、欲しければオークションで手に入れられると思わせれば余計な争いも少なくなるであろう。オークションへの出品に関しては私の信用できる伝手を紹介しよう。職人に関しても今紹介状を書くので少し待っていてくれ」
宰相はそう言うと部屋をを出て行った。
そんな密会がされているとはつゆ知らず、シオンは王都でもマジックバックとドラゴンの肉を餌に都内を歩き回っていた。
実は先にピスリッツの街を出た筈のモンゾールより早くシオンは王都に辿り着いていたのだった。
なのでモンゾールが宰相に紹介状を書いて貰った次の日にはもう既にドラゴンの肉の噂はかなり広まっていた。
「ドラゴンの肉は極上だと聞く、この我でさえ食した事が無いと言うのに忌々しい。我に献上せんと売り払おうなどとはけしからん。早急にそやつを見つけ出して来い」
宰相が朝登城すると王城は既に大騒ぎになっていた。
そんな中にピスリッツより黒龍が現れたと言う急使が届き、城内はさらに騒然となったのだった。