期待してみた
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初級ダンジョンの第二エリアは沼地が多くまるで湿地帯の様だった。
出て来る魔物もカエルの様な魔物やイグアナの様な魔物が多く、レベルも少し高くなった気がしていた。
ぬかるんでいる場所も多く足場が安定しないので、折角ジョブを盗賊にしたと言うのに近接戦を挑むには不利があり結局魔法攻撃を繰り返した。
こんな事ならバアラニックダンジョンで無理に魔法の熟練度上げをしなくても良かったようにも思えたが、熟練度を上げていたお陰で威力が高くなっていたらしく初級魔法でも難なく倒せていた。
「やっぱりさ、早く鞭を使いたいって思っちゃうよ」
私は今更ながらにグリンガムのムチの有能性を思い出し愚痴をこぼした。
全範囲攻撃でクリティカルヒットを繰り返した時の気持ち良さを思い出しながら、装備くらい持ち越してくれても良かったのにと神様(?)を少し恨んでいた。
「モンゾールさんならきっと良い武器を作ってくれるでしょう」
「何でそう言い切れるのよ」
「グリンガムとはそもそも見た目がヘビに近いとても貴重なドラゴン種です。その皮から作られた鞭が強力な威力を発するなら、当然ドラゴンの皮から作られる鞭も相当な威力を発揮するはずです」
何故か自信満々に解説してくれるルリの言葉に私は期待せずにはいられなくなる。
でも確か私が当時聞いた話ではグ〇ーンガムがネタになったと言っていたと思ったけど、この世界にはグリンガムと言うドラゴンが居るのか。
「じゃぁ、そのグリンガム討伐して皮を手に入れたらあの鞭も手に入るって事だよね?」
「作れる方がいるのでしたら可能でしょうね」
「ドラゴンの鞭を作った人に頼めば良いでしょう」
「そう言われればそうですね」
何だかモンゾールさんに期待しているのかそうじゃないんだかはっきりしない態度に少しイライラする。
私はそんな事を考えながら深くは追及せずに、ドラゴン装備が出来上がるのを楽しみにした。
※
シオンは朝から素材買取所や肉屋を見つけるとドラゴンの肉の査定をして歩いた。
「それでいくらで買い取ってくれる?」
シオンにしてみれば値段などまったくどうでも良かった。
しかし買い叩かれるのも面白くないが、相手の人間性を計るのには役に立つと思っていた。
そこそこの値段で買い取ってくれる店もあれば、店によっては査定の仕様が無いと断られたり、買い取り切れないと断られたりしていた中で、領主に献上すべきだと高圧的な態度の店を見つけシオンは確信をしていた。
「売る以外の選択は無い。何故献上しなければならない?」
「領主様の後ろ盾が得られればあなたもこの街で優遇される事は間違い無いのですぞ」
「ほぉ、いったいどんな優遇を得られると言うのだね?」
シオンは店主と暫く腹の探り合いをした結果「まぁ考えておこう」そう言ってドラゴン肉を多数持つ事を匂わせて店を出た。
そうしてまた買い取ってくれそうな店を探していると突然警察に囲まれる。
「盗品を売ろうとしていると言うのはおまえか」
シオンは来たかと内心で警戒しながら「覚えがない」と答える。
「そのマジックバックとドラゴンの肉が盗まれたと領主様より届けが出ている」
「ほぉ、その領主はマジックバックもドラゴンの肉もいったい何処から手に入れたんだ?」
「反抗するのはおまえの為にならぬと考えよ」
「ああ、分かった。その前に誰に指示されたのだけ答えてくれ」
「お主ごときに答える義務など無いわ、かかれぇ~」
襲い掛かる警察官を軽く躱し「本人に聞くとしよう」シオンはそう言って領主の館へと向かう。
そして領主館の衛兵も護衛の騎士も軽く戦闘不能にし、領主へと詰め寄る。
「無礼者、ここを何処だと思っておるか」
顔を赤くし怒鳴り散らす領主に対しシオンは自分の持つオーラを全開にさせた。
「おまえこそ私を誰だと思っている。これ以上の悪事は許さぬわ」
シオンにすごまれた領主は、その威圧にすっかり度肝を抜かれその場にへたり込んだ。
その後シオンは領主の生気を抜く様に吸い取り生きる屍状態にすると、自分の身体を神獣の姿へと戻し最大の大きさまでになる。
その威力でかなり大きかった領主の館を忽ちに崩壊させ、そこに現れた黒龍の姿に驚く人々を確認し、シオンを追って来ていた警察に向かい言葉を発する。
「領主とつるんでいた者どもにも天罰を与える、お主ら警察の中にも居る腐敗した者どもを一掃せよ。これ以上この地が無法地帯となるのなら我の守護が無くなると考えよ」
そう言うとみるみるうちに辺りに暗雲が立ち込め、そして眩しい程の稲光と雷音の後先程の領主の手先となっていた店に激しい雷が落ち店を倒壊させた。
その後落雷による地響きは街全体に轟き渡り人々に恐怖を与える。
「自分の犯した罪は自分にそのまま返ると覚悟するが良い」
そう言いながら黒龍が街の上空を悠々と飛び回ると、急に心臓を抑え倒れる者や見えぬ敵にボコボコにされる者に自分の持ち物のすべてを消されるものが相次いだ。
今目の前で起こった事の事実を受け止めきれずただ茫然とする者や、神の怒りが落ちたと騒ぐ者に拝む者、そして後ろ暗さを抱え慌て震える者など街が騒然とする中、黒龍は悠々と王都の方角へと飛び立っていくのだった。