兄弟side
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「分かっていると思うがこの件ばかりは絶対に失敗はできない」
モンゾールは自分の執務室に戻り椅子に腰かけると机に肘を着き組んだ掌で頭を支えた。
「勿論です」
オッカムはモンゾールの執務机の前にあるソファーへと腰を下ろし、モンゾールの方へと顔を向ける。
「貴重なドラゴン素材ばかりでなく、まだ噂でしか確認できていないマジックバックを3つも所持しているなど到底信じられるものではない」
「ええ、ドラゴン素材をまだ100以上も持っていると言っていました。いったいどこでどやって手に入れたのでしょうか」
オッカムはマジックバックの重要性を今一つ理解しきれていない為ドラゴン素材の事に興奮していた。
「それ程の数を手に入れられるドラゴンをいったい何処でどうやって倒したというのだ。ドラゴンと言えば伝説級の魔物だぞ。この国でも過去数例の討伐記録しかない。それも討伐隊が組まれる程の騒ぎだったと聞くそれをあの3人で倒したとは到底考えにくい。それにそれほどの数のドラゴンがいったいどこにいるのか。もしかしたらとてつもない人たちと知り合ったのかもしれない・・・」
モンゾールは最後はため息をつく様に言葉を濁す。
「仰る通りです・・・」
オッカムも一緒になって溜息をつく。
「シオン殿は手持ちのドラゴン素材をすべて売ってしまいたいと言う様な口振りであったな。となれば今は儲けを考えるより信頼を得る方が重要だ。シオン殿の信頼を得、信用できる顧客を増やす今がそのチャンスだ。その為にもまずは王家に一つを献上しあの宰相殿の知恵を借りよう」
「ええ、あの王は信用できませんが宰相殿は最後の知恵と良心と言われる方ですからきっと上手い知恵を授けてくれるでしょう」
「ああ、それに一番の問題はドラゴン素材で装備を作れる鍛冶師の問題だ。そう簡単に手に入らない素材だぞ。国で一番腕の良い鍛冶師でも扱った事があるかどうかも分からないというのに、ローブと鞭と言う指定までされたんだ。私達だけで解決するのはどう考えても難しい・・・・・・」
モンゾールはまたもや大きなため息をつき頭を抱え直した。
「そうでしたか。私は腕の良い鍛冶師達に聞き回れば良いかと考えておりました」
「そんな事をしたら私達がドラゴン素材を持っていると忽ち噂になりここに強盗団が押し寄せるわ。まったくお前は肝心な所でいつも考えが足りない」
「申し訳ありません」
オッカムはおもいきり肩を落とし頭を垂れ下げた。
「あのシオン殿とルリ殿の防具を見たか、凝った飾りなど一つも無いというのにどんな素材で出来ているか判断できなかった。しかし防御力が高そうだと言う事は伝わって来た。そのシオン殿が荷物持ちであろうかの少年の為にと言うのだ。下手に飾り付けドラゴン素材をアピールする様な作りではきっとダメなのだ。性能重視を望んでいるだろう」
モンゾールはアリサの事をその身なりからただの荷物持ちと判断していた。
「それはまた大変難しい注文ですね、考えてもいませんでした。普通はドラゴン素材で作った事をアピールしたがるものですよね。だってドラゴン素材ですよ」
「それ程に普通ではないと言う事だ。もしかしたら彼らは神の使いかも知れんな」
モンゾールは何となくそう呟いた。
「まさかそんな事は」
オッカムはそう呟きながら顔を青くする。
「何にしてもこれは私達に降って沸いた試練でもありチャンスでもある。心して掛からねばならぬ。私は明日から王都に向かい話を進めて来る。その間の留守とシオン殿達への対応はおまえに任せる。分かっていると思うが普段以上に気を引き締め心する様にな」
「分かりましたお兄様。それでシオン殿達への対応と言いますと具体的にどのような」
モンゾールは深い溜息をつきながら考える。
オッカムはその実直さと誠実さで取引先との信頼を得てそつなく商売をこなす事はできるが、先を見越した判断力に少々掛ける所がある。
それ故にと指示を与え過ぎたせいで私が相手だと自分で考えようともしなくなるのはやはり私のせいだろうか。
弟の事を可愛がり仲が良いだけで過ごした若い頃にもう少し突き放し厳しくするべきだったかとモンゾールは今になって少し反省していた。
「こちらからこれ以上別に何もする事は無い。シオン殿達から何か申し出があればいつもの様に誠実な対応を心がけてくれ。くれぐれもご機嫌伺いの様な事だけはするなよ。多分あの方達には逆効果だ」
「お任せください」
ニコリと微笑むオッカムの笑顔に少しばかりの不安を覚えるモンゾールだったが、彼の今までの実績を考えそしてきっと彼の持つであろう強運を信じる事にしたのだった。