堪能してみた
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目に見える範囲には既にドラゴンの姿はまったく無くなっていた。
「絶滅させたんじゃないでしょうね」
「相手はこの世界に設定された魔獣ですよ、そう簡単に絶滅はしません」
そりゃそうかと納得して少しだけ安堵していたが、それよりも二人のはしゃぎ振りの原因が知りたかった。
「こんなに討伐していったいどうするつもりよ」
「人間体になった自分の実力がどう変わるのか少し確認したかったのですよ」
「そうそう、どの位動けるのか試すのには丁度いい相手だったな。最も本気を出す程の相手では無かったのが残念だ」
「そう、十分に確認できたのなら良かったけど、このドロップ品をそのままにしておくと言う選択肢は私には無いわ。二人も当然集めてくれるわよね?」
二人がドラゴンに夢中になった理由は納得できたが、ドロップ品の数々を捨て置くなんて私にはできない。
消えてしまう前に拾い集めるのよと、二人を急かしながらドロップ品のすべてをインベントリに収納した。
(どうせなら二人が倒した魔物のドロップ品も自動的に私のインベントリに収まれば良いのに)
すっかりと疲れはて痛くなった腰を摩りながらそんな事を思っていると「ではこれからはそうしましょうか」とルリがいとも簡単だと言う風に言った。
「できるの?」
「ええ」
「・・・・・・何でドラゴン討伐する前に教えてくれなかったのよ」
「要望がありませんでしたので」
平然としたままの二人の様子に溜息をつきながら、これからはこんな苦労も無くなるのだ良かったじゃないかと前向きに考え自分の気持ちを落ち着けた。
ドラゴンのドロップ品はそれはそれは色んな種類があり、肉は勿論の事、皮・爪・牙・鱗・目・血・臓物等噂に聞く通りの有用なアイテムを多数手に入れる事ができた。
そしてあのマンモスのドロップ品は期待通りと言うか予想通りのマンガ肉と牙と皮だった。
大きな太い大腿骨の様な骨の真ん中にたっぷりの肉がついたあまりにも定番のフォルム。
漫画やアニメでしか見た事が無いと思っていたら似せて作られた肉が売り出され、一度は食べたいと思いながらいまだ食べた事の無いあのマンガ肉。
その憧れのマンガ肉の本物が今目の前にある。
これはもうすぐにでも食べるしか無いよね?
私達はダンジョンの野営ポイントへと戻り、焚火を利用して遠火でじっくりじんわり時間を掛けてマンガ肉を焼いた。
味付けは塩胡椒のみですがなにか?
一応味変様にニンニク醤油を作ってはみたが、マンガ肉にタレが掛かっているのは想像できない。
火が通る程にジュワジュワと肉汁が温まる音と肉の焼ける香ばしい匂いにお腹もグウグウと鳴り響く。
「まだか?」シオンが急かすが「待った分美味しくなるのよ」と自分自身をも宥めながら焼きあがるのを待つ。
ステーキならレアでも良いだろうが、これは子豚の丸焼きも同然なのだ。
ウェルダンと言わないまでもミディアム位には焼き上げないとダメだろう。
それに外はしっかり香ばしく中はジューシーがこういう場合の定番なのよ。
私は自分自身にそう言い聞かせ、肉を忙しく回しながら焼いて行く。
そして肉汁の溢れ出す音が変わった所で焼きあがったのを確信し、その一つをシオンに手渡す。
「もう良いと思うわ」
シオンはそれを受け取るとニカッと笑いそして豪快に齧り付く
「うめぇ~」
私はその反応を確認してからもう一つをルリにも渡す。
「ルリも食べるでしょう?」
「ええ、いただくわ」
そうして残りの一つを手に取り私も豪快に真ん中から齧り付く。
「うまぁ~~~」
もっと肉肉しくて獣臭さなどがあるかとも思っていたが、例えるなら少し高級で上質な大人のマ〇シンハンバーグと言った感じ。
これはきっとアレですね。このマンガ肉を初めて見た昭和の子供達の憧れと想像から出来上がったそのまんまなのでしょうと納得して、私は何処か懐かしさを感じながら堪能した。
そして味変はニンニク醤油より照り焼き風かケチャップソース風味の方が良かったかと思うのだった。