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 パソコンの画面を見ながら、表示される依頼情報に目を通す。

 だいたいは、猟友会では手がまわっていない害獣駆除だったり、畑の手伝いだったり、あるいは工場などの人員補充のための求人だったりする。

 中には、様々な理由で車を手放してしまった田舎に住む老人達からのもので、病院への送迎、なんてものもあったりする。

 討伐依頼は、手が回りきっていないというのもあるが、役所が中々動かないというのも大きい。

 というのも、熊や狼などならともかく、街中ではまず見かけないアンデッドなどのあやふやな目撃証言、これらの調査などは確証、あるいは実害がなければまず役所は動いてくれない。

 役所に行って、調査依頼を出す。

 とりあえず、役所側は精査するといって一旦預かる。

 そして、数日後。

 依頼情報を精査したけれど、現状被害が出ていないので調査員は派遣しません、できませんと返事をする。

 田舎はこうして、行政から見捨てられていくのである。

 そうして、困った依頼人はとりあえず不安だけでも取り除きたくて、無けなしの金でギルドへと依頼を出すが、大抵は見向きもされない。

 なぜなら、登録している殆どの者の目的が高額報酬と売名が目的だからだ。

 安い報酬の依頼など、まず受けない。

 さらに山奥や廃村ならともかく、まだ住民のいる田舎の村にアンデッドが出た、という現代では眉唾どころか到底信じてもらえない情報付きとなれば、経費を差っ引いたとしても赤字は確実である。


 だから、誰も受けない。

 利益にならないから。

 清貧は素晴らしいといいながら、大概の人間にとってはやはり金が大切なのだ。

 職種を選ばなければと言いながら、見た目だけなら簡単に出来てそこそこお金のもらえそうな事務職を選ぶのと似ているだろうか。

 そして、安い報酬=遠い田舎、それも農村の依頼が多い、という図式が成り立ってしまう。

 では都市部からの依頼はどうなんだ? となる。

 単純に都市部では物価が高いので、その分報酬が高くなる。

 なら、少しでも高い都市部の依頼を受けるようになるのは必然だった。

 案の定と言うべきか、ギルドの建物内のあちこちで今日も田舎からの依頼を確認するだけして、嘲笑する声が聴こえてきた。


 「嘘くせぇのがあるぞ」


 「え、なにこれ、アンデッドの調査依頼?

 あはは、ウケるー」


 「被害出てないなら余計な依頼出すなよなぁ」


 「これ、あれだろ?

 受けたが最後、調査して何もなかったら報酬渋られるか踏み倒されるやつだろ」


 誰が受けるかっつーの、せめて死人が出てから出直せ、とやはりあちこちから声が上がる。

 中にはハモっているグループ、つまりはパーティもあるくらいだ。

 そんな中、一組パーティが建物内にあるカフェコーナーで、プリントアウトした、さんざんバカにされているその依頼書を見ながら、同じように話題にしていた。

 ただ、そのパーティに他の者たちのような嘲笑はない。


 「どう思う?」


 そう仲間達に問いかけたのは、そのパーティのリーダーである青年だ。

 彼にとっては最初の仲間であり、ずっと彼に付き従い、そして彼のことを憎からず想ってきた少女が口を開いた。


 「煙のないところになんとやら、じゃないかな?」


 古い職業で言うところの、魔法使いの少女である。

 その魔法使いに負けじと、今度は神官服に身を包んだ少女が口を開いた。


 「でも、現代においていくら田舎といえど民家の近くにアンデッドが出た、なんて今どき未就学児でも信じないと思いますよ?」


 神官服でわかる通り、これまた昔の呼称で言うところの僧侶である。

 その言葉遣いはとても丁寧であるが、魔法使いに対してはとてもトゲがあった。

 魔法使いが笑顔を浮かべて、それに答える。


 「えぇ、そうね。

 たしかに貴女の言う通り、普通だったらアンデッドなんて出ないでしょう。

 実害も出てないし?

 でも、それは、()()出てないだけじゃないかなぁ?

 それと、もしアンデッドが本当に出てるとしたら?

 それだけ強力なアンデッドということになる。

 と、なると、そこらにいる普通の僧侶なんかじゃ相手に出来ないと思うんだよねぇ」


 普通の僧侶、という所でとても楽しげに魔法使いが仲間の僧侶を見た。

 僧侶も笑顔でなんてことないように、その言葉を受け止めている。

 それを呆れた顔で見ているのは、眼鏡をかけた、いかにも頭が良さそうな少女だった。

 このパーティの参謀であり、蓄えている知識も豊富。

 古い(以下略)、賢者である。


 その賢者へ、リーダーが話しかけた。


 「お前はどう思う?」


 しばらく考える素振りをして、賢者が口を開いた。


 「そうですね。

 現代では、まず街中にアンデッドが出た、ということはありません。

 しかし、その可能性が無いとも限らない。

 まず、なぜ街中にアンデッドが出ないのか知っていますか?」


 その初歩すぎる問いに、リーダーが返す。


 「昔ならいざ知らず、今はどこの街にも結界が張られてるからな。

 魔法での乱闘を防ぐ目的もあるし、魔物を寄せ付けない目的もある。

 だから、基本的に現代で民家のある場所で魔物とは遭遇しない」


 「その通り。

 そして、現代でいうアンデッドはゾンビやスケルトン等の死体がなんらかの理由で動き出した魔物のことを言う。

 昔はヴァンパイアもアンデッドとされていたけれど、今ではエルフと同じ長命種族、つまりは亜人扱いになっている。

 じゃあ、この、アンデッドが動き出す理由についてだけれど、諸説ある。

 有名なのは、ネクロマンサーが操っている場合。

 あとは、死んでも死にきれないくらい強い念、まぁ所謂恨み、怨念が死後遺体を魔物へと変化させる場合。

 主に、このふたつ。

 でも後者は考えにくい。

 なぜなら弔われる時に、神殿の祭司、もしくは教会の神父が浄化の儀式を行うから。

 これは、私より貴方が詳しいんじゃない?」


 賢者はそう言って、僧侶の少女を見た。

 僧侶はこくん、と頷いた。


 「その通りです。死んだ者の恨みや心残りをリセットする作業。

 それが浄化です」


 僧侶の言葉に、賢者が満足そうに頷く。


 「つまり、可能性があるとすれば死霊術者(ネクロマンサー)の関与が高いということ。

 その場所の住民たちに被害が出ていないことも、証明になってる。

 死霊術者(ネクロマンサー)が、目撃されたスケルトンを完全に支配していて、目的は不明だけれど、どういうわけかうろつかせているということ、が現在推測できる」


 賢者の断言にリーダーの顔色が変わった。


 「つまり、その術者を見つけてとっ捕まえれば」


 「報酬を出し渋られることはないと思う」


 「さすが!賢者の職業(ジョブ)は伊達じゃないな!!

 いやぁ、お前が仲間で本当によかった!!」


 リーダーに大絶賛され、賢者も満更ではない。

 それをどこか冷めた目で、魔法使いと僧侶が見つめていた。

 と、その視線に気づいた賢者が勝ち誇った顔を向ける。

 すると、その二人は営業スマイルを貼り付けた。

 笑い合う三人の少女。

 その腹のうちを知らないリーダーだけが、純粋な笑顔を浮かべていた。

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