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24品目

「メビウス、いるか? 相変わらず、盛況だな」

「あ? 珍しいな」


 騎士達が竜の焔亭から逃げ帰って3日が過ぎた頃、大きな荷物を持ったブロムが店のドアを開けた。

 本日はセフィーリアが顔を出していないにも関わらず、店は常連客達がバカ騒ぎをしている。その様子にブロムは苦笑いを浮かべると厨房の前の席に座った。

 彼が竜の焔亭に顔を出すのは珍しい事であり、メビウスは少し驚いたような表情をするとお冷を置く。


「この間、頼まれた物が出来たんだ」

「そうか……この弓は何だ?」

「この間は良い材料を貰ったからな。その礼だ」


 ブロムは荷物を開けると煉獄鳥の羽根を矢羽にした矢となぜか弓が出てくる。

 メビウスが依頼したのはあくまでも矢だけであり、弓が出てきた事に彼は首を傾げてしまう。

 弓は先日、多くの魔物の身体の1部を貰った事の礼だと言い、メビウスはそうかと頷くと弓を手に取って弦を引く。


「どうだ?」

「良くわからない」

「……そうか。力の入れがいがないな」

「そんな事を言ったってな。俺は別に武器に詳しいわけでもないからな」


 ブロムにとっては会心の作品だったようでメビウスに感想を聞くのだが、あまり武器に興味がない彼は首を傾げるだけである。

 メビウスの様子にため息を吐くブロムにメビウスは少しムッとした様子で言うとその弓を置く。

 常連客達の中には武器を扱う者も多く、彼らは置かれた弓を手に取ると弦を引くなどして、弓の出来を確かめる。

 武器を扱う者達から見ればその弓は素晴らしい物であるようで声を上げているのだが、メビウスはまったく理解できないようで首を傾げている。


「だとしても、少しは考えろよ。良い武器を持っていれば狩りも楽になるし、生き残る可能性だって上がるだろ」

「そんな事を言われてもな。それより、良いのか? 高いんじゃないのか?」

「良いんだよ。元々、誰も価値がわからなくて売れ残っていた弓にお前が持ってきていた魔物の毛を結って弦にしただけだからな」

「……それは邪魔なものを俺に押し付けようとしているだけじゃないのか?」


 ブロムはもう少し武器に対して考えてくれと肩を落とした。

 少しバツが悪かったようで頭をかくと本当に貰っても良い物かと聞き返す。

 気にするなと言ったブロムだがメビウスはその言葉に何かが引っかかったようで眉間にしわを寄せる。


「そう言うわけじゃない。それに良い物なんだぞ。弦を張り替えてあまりの出来に店頭に並べてみたらな。若い騎士共が騒ぎ立てて、偉そうに売れと言うからな。買い手は決まっているから、そいつを納得させてこいと言ったんだ」

「……ブロム、お前のせいかよ」

「聞いたぞ。予想よりも面白い事になったな。俺も一緒にこの店に来たら良かったと激しく後悔したぞ」


 先日、騎士達が竜の焔亭に顔を出したのはブロムのせいであり、メビウスは大きく肩を落とした。

 疲れた表情を見せるメビウスとは対照的にブロムは楽しそうに笑い、先日の騒ぎの時に竜の焔亭にいなかった者達は同意するように大きく頷き、店にいた者達は自慢するように胸を張っている。


「何がそんなに楽しいんだよ……言っておくけど、褒めてないぞ」

「気にするな。それより、この間、一緒だったお嬢ちゃんはどこだ?」

「用があるなら、騎士隊の詰め所にでも行けよ」


 メビウスは自分の周りにはどうして他人の不幸を喜ぶような人間ばかりなのかと頭を抱えるのだが常連客達はなぜか照れた様子で頭をかいている。

 その様子にメビウスは眉間に深いしわを寄せるとブロムはこの話はここまでにしようと行った後、店内を見回してから首を捻った。

 彼の言うお嬢ちゃんはセフィーリアの事を言っているのだと気が付くが別に彼女はこの店の従業員でもないため、興味なさそうに言う。


「何だよ。その言い方は? メビウス、お嬢ちゃんはお前の良い人なんじゃないのか?」

「違う。それにあいつは婚約者がいるみたいだぞ」

「そうなのか? ……そうだとしても他の言い方があるんじゃないのか?」


 先日の様子からブロムはセフィーリアがメビウスに好意を抱いていると思っているため、彼の素気ない反応にため息を吐いた。

 メビウスはこの間の騒ぎの時には聞こえていないふりをしていたがしっかりと聞こえていたようでおかしな勘違いはするなと言う。

 彼の返事にブロムが眉間にしわを寄せてセフィーリアが可哀そうだと忠告すると常連客はその言葉に同意するように声を上げる。


「……言い方も何もないだろ。あいつには婚約者がいる。それだけの話だろ」

「それだけの話じゃねえ。フィーちゃんがいなかったら、俺達の美味い飯はどうなるんだ? メビウスのくそ不味い料理なんていつも食えねえぞ」

「あ?」

「確かにメビウスの料理はくそ不味い。フィーちゃんの料理は美味い。そこは誰もが認める事だ。だけどな。問題はそこじゃねえ。この間、ここに来たフィーちゃんの婚約者らしきバカ騎士は俺達のフィーちゃんに相応しくはねえ。あんなバカ騎士のせいで俺達はメビウスのくそ不味い料理をこれからも食わないといけないなんて間違っている!!」


 ここでぎゃあぎゃあ騒ぐなと言いきってしまうメビウスに常連客の1人が不満を露わにする。

 メビウスはその言葉に不機嫌そうに彼を睨みつけるのだが他の客がメビウスの料理が不味いのは一先ず、置いておこうと声をあげた。

 その声に常連客達は同意の声を上げるのだが自分の料理をバカにされているメビウスは面白いわけもなく、彼の額には青筋が浮かび上がりぴくぴくと動き始める。

 しかし、熱くなっている常連客達はメビウスの様子に気が付く事無く、声をあげてセフィーリアの婚約をどのようにぶち壊すか計画を練り出す。


「……お前ら、いい加減にしろよ?」

「メビウス、落ち着け。あいつらの話を聞けばあの嬢ちゃんが婚約を受けているのはわけがありそう何だろ。恋愛感情とかはこの際、無視して友人として彼女が納得していないならぶち壊すべきじゃないか?」

「ブロム、お前、面白がっているだろ?」

「そりゃな。この間のお祭り騒ぎに乗り遅れたからな」


 低い声で常連客に向けて殺気を放つメビウスにブロムは苦笑いを浮かべながら声をかける。

 ただ、彼の様子にメビウスはあまり良い事を考えていない事は想像が付き、眉間にしわを寄せるとブロムは悪びれる事無く楽しそうに口元を緩ませた。


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