23品目
「で、結局、あいつらは何しに来たんだ?」
「知らない。どうせ、手柄を自分達の物にしたんだから、魔物の肉も自分達の物だって難癖付けにきたんでしょ」
「あ? いくらバカでもそんな事はしないだろ……いや、そうとも言えなくて頭が痛いな」
メビウスの料理は目を覚ましたばかりの騎士の口に再び入れられて騎士達は何度か意識が刈り取られる事を繰り返された。
それを繰り返す事で騎士達にトラウマをすり込む事ができたようで無駄に高かった自信は完璧に折られ、最後には彼は泣きながら命乞いをメビウスの料理を第7、第8騎士隊以外の騎士達にも必ず食べさせる事を交換条件に出された。
騎士達は渡された料理を捨ててしまえば済むと考えたようだが、ターニアの『嘘を吐いた場合はわかっているわよね』の一言で約束を守らなかった場合に自分達に起こるであろう悲劇について容易に想像が付いたようで大きく頷くと逃げるように竜の焔亭を出て行ってしまった。
料理を作っていただけのメビウスは騎士達が何のためにこの店を訪れたかわからないため、首を傾げるのだが騎士達をいじめて楽しんでいたターニア本人はあまり興味がないようで幸せそうに酒を飲んでいる。
「……申し訳ありません」
「別にフィーちゃんが謝る事でもないでしょ」
「用件が同じなら普通は一緒にくるだろうからな……それより、お前らもさっさと帰れよ」
騎士達の頭の悪さが想像を超えていると肩を落としたメビウスにセフィーリアは申し訳なさそうに頭を下げた。
彼らが竜の焔亭に迷惑をかけたのはセフィーリアには関係ないとメビウスもターニアも思っており、彼女を責めるような事はしない。
2人の様子に彼女は小さく頭を下げるのだが、次のメビウスの口から出てくる言葉は冷たい物である。
「どうしてですか?」
「どうしても何もないだろ。元々、あのバカどもとは別件で来たとしても、その件を俺が話す筋合いなんてないんだ。この間だって言っただろ。自分達で魔物を狩るって言うなら、他人に頼らずに自分達で情報を集めろよ」
拒絶の言葉にロイックは理由がわからないと聞き返す。
その言葉にメビウスはため息を吐くのだが彼にとってはたとえ実力が不足していようとロイックとセフィーリアも飯の種を奪いにきたのは変わらない。
相手をする気などないと追い払うように手を払うとメビウスは移動されたテーブルとイスを戻し始める。
「ふーん。煉獄鳥の事を聞きに来たんだ。何々? ロイック君は騎士を止めて同業者になるつもり?」
「そう言うわけではありませんが……」
「今、メビウスよりは美味しい料理を作れそうだと思ったでしょ」
ターニアは2人が店を訪れたのは騎士を止めて魔物討伐をするつもりなのかと聞く。
そんなつもりはないと首を振る彼だが、その中で1つだけ頭をよぎった事があったようで言葉を飲み込んでしまう。
彼の飲み込んだ言葉は容易に想像する事が出来たようでターニアはわざとらしく大きく肩を落とした。
考えが読まれてしまった事に気まずそうに視線をそらすロイックだがどうやらメビウスの耳には届いていなかったようで片づけを続けているメビウスを見て、安心したように胸をなで下ろす。
「実際はそんなに上手くはいかないけどね。魔物は美味しく食べられるようにするのには正しい手順や魔物の知識がいるからね」
「そうなんですか」
「そうよ。フィーちゃんが魔物を美味しく調理できるのはメビウスが正しい手順で下処理しているからだし。下手な倒し方をすると被害をまき散らす事もあるからね」
魔物の調理は簡単に行える物ではないようでターニアは簡単に考えてはいけないと言う。
セフィーリアは普段からこのお店で調理している事もあり、不思議に思ったようで首を傾げる。
それだけ、メビウスの魔物の知識が豊富だと言う事であり、騎士として国民を守る立場に居ながらも魔物の知識の無さにロイックとセフィーリアは口をつぐんでしまう。
特にセフィーリアはメビウスがヒュプノパイソンを倒した時に同行していた事もあり、彼が食材として使うために正しい手順で毒抜きをしていたのを見ている。
自分がもし騎士としてヒュプノパイソンに向かい合った時にメビウスと同様な事を出来るかと考えたようだがその姿を想像する事が出来なかったようで肩を落としてしまう。
「フィーちゃんはここでご飯を食べている事もあるし、その性格を直せば弱い魔物となら対等に戦えるかも知れないわね。ただ、倒せるとは限らないけどね。理解出来た?」
「……はい」
「それも今回は煉獄鳥でしょ。数だけそろえても足手まといでしょ。その辺に出てくる魔物なら、メビウスだって下準備なんかしないわよ」
「そうかも知れませんね……」
2人の落ち込みようにターニアはセフィーリアの実力は底上げされているとは思いながらも現状ではただの足手まといだと言う。
そこまで言われてセフィーリアは小さな声で返事をするとターニアは彼女を励まそうとしたようで同行するには危険すぎると優しい言葉をかける。
それでも頭では納得は出来ているようだが心が納得する事を拒否しているのか彼女はメビウスへと視線を向けた。
彼はそんな視線に気が付く事無くホールの後片付けをしている。
「言いたい事があるなら自分で動かないとダメよ。メビウスはフィーちゃんがどんな境遇にいるかなんてわかっていないんだから」
「言いたい事なんてありません……言ってはいけないんですから」
「そう。相変わらず、貴族を名乗る方達の生活は堅苦しそうね」
セフィーリアはメビウスに言っておきたい事があるようだが伝える覚悟が決まらないようで彼の下に歩いて行く事は出来ない。
それは彼女の感情だけではなく、オーミット家に関わる事である事は容易に想像できたようでターニアは苦笑いを浮かべた。
「そうかも知れません」
「そう思うなら、捨てちゃえば良いのよ。無駄なしがらみなんてね」
「……そう言うわけにもいきませんから」
今の生き方を窮屈に思っていても投げ出す事は出来ないようでセフィーリアは無理した笑顔を作って笑う。
彼女の表情にこれ以上は言うべきではないと思ったターニアは小さく頷くとカップへと口を付けた。




