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21品目

「こ、このような事をして無事に済むと思っているのか!!」


 騎士達を縛り付けた常連客達はなれた手つきでテーブルとイスを端に下げて騎士達をホールの中央に転がした。

 転がされた騎士達はしばらく気を失っていたのだが、そのうちの1人が目を覚ますと自分の置かれた状況に気が付き、自分達を酒の肴にしている常連客を怒鳴りつける。

 ただ、この国での騎士達の評判は悪い事や竜の焔亭は騎士達が2度も逃げ出した魔物を簡単に狩ってしまうメビウスが店主の店である。

 そして、彼が店主をしているこの店は狩ってきた魔物を食材にする店であり、食材としての魔物は食べた者の様々な能力を上昇させる効果がある。

 彼らを囲っている者達はそんな店の常連客達なのだ。騎士としての職務も果たさず、ただ権威を振りかざしている者達相手に怯むような者達は1人もいない。

 騎士達がいくら声を張り上げようと彼らに差し伸べられる手など存在しない。


「ロ、ロイック=フォートロン、セフィーリア=オーミット、何をしている。さっさと私達を助けろ!!」


 騎士達が1人、また1人と目を覚ますと騎士達は自分達が縛られているにも関わらず、高圧的な態度で声を張り上げるが常連客達が彼らの言う事など聞く理由はない。

 そのため、矛先は同じ騎士であるセフィーリアとロイックに向けられる。2人は立場上、動かなければいけない事は理解してはいるのだが酒を飲みながら笑っている常連客達の様子に違和感を覚えているようですぐに動く事はできない。


「セフィーリア!!」

「は、はい!?」

「フィーちゃん、言っておくよ。この店の中で権力を盾にするバカは最底辺扱いなんだ」


 動かない2人を見て、先ほどセフィーリアを婚約者と言った騎士が彼女を怒鳴りつける。

 その声に彼女はびくっと身体を震わせて返事をすると常連客の1人が彼女に向かいにっこりと笑って声をかける。

 言葉には逆らう事は許さないと言う強さがあり、セフィーリアが怯んでしまうと騎士からは更なる怒号が響く。


「で、ですけど」

「フィーちゃんも立場があるからね。それならフィーちゃんもそっちの騎士も緩めに縛り付けておくか?」

「……フィーちゃんを縛り付ける? 亀甲縛りか?」


 完全に挟まれたセフィーリアだが彼女には騎士の言葉に従わないといけない何かがあるようで顔を青くしながらゆっくりとホールの中央に進み始める。

 彼女の様子に客の1人は頭をかいた後、どこからともなく縄を取り出して笑った。

 客達の多くは男性であり、若い女性であるセフィーリアの縛り方は1つしかないと考え付くと店内で歓声が上がり始めるのだが、セフィーリアは客達がなぜ盛り上がっているかまったく理解していないようで顔を青くしたまま小さく首を捻る。


「あ、あの、亀甲縛りって」

「気にするな。もう良いからさっさと連れて行け。後、2度とこの店の中に入れるな」

「何、この状況? お姉さんを仲間はずれにしてお楽しみ中?」


 店内の盛り上がりようにセフィーリアはこれから自分が何をされるか理解できないため、すがり付くような視線をメビウスへと向けた。

 騎士達を殴りつけて彼の頭に上っていた血は下がったようでバカな事に付き合う必要などないと言いたげに肩を落とすともう興味などないから騎士達を追い払おうとした時、酒瓶を抱えたターニアが店の中に入ってきてしまう。

 入ってくるなり、言い放った彼女の言葉にメビウスは眉間に深いしわを寄せるのだがターニアは中央に転がされている騎士達を見た後、楽しそうに笑った。

 その笑みは先ほどのキレていた時のメビウスを彷彿させる物があるのだが先ほどのメビウスの時とは異なり、騒ぎ立てていた騎士達までも静かになってしまう。


「……バカな事を言わないでくれますか。お姉様」

「はいはい。メビウス、お姉さんね。今日は気分が良いから、この子達にご飯をごちそうしちゃおうかな?」


 ターニアの笑顔に威圧されなかったのはメビウスただ1人であり、彼はまた面倒な事が起こるのではないかと嫌味を込めて大袈裟にため息を吐いて見せた。

 甥っ子のその態度にターニアは何か言うわけでもなく、ただ何か良からぬ事を考えたのかメニューに手を伸ばして笑う。


「さすが、ターニアの姉さん、やる事がえげつない」

「……」


 彼女の一言に常連客とロイックはターニアが何をしたいのか即座に理解してしまった。

 これから騎士達に起こるであろう惨劇が目に浮かんだようで顔を青くするのだが、セフィーリアと料理を指名されたメビウスはこれから騎士達に起こる惨劇を想像できないようである。


「何、料理作りたくないの?」

「作るに決まっているだろ。今日こそは絶対に美味いと言わせてやる!!」

「メ、メビウスさん、落ち着きましょう。考え直してください!! セフィーリア、メビウスさんを止めてください!!」


 首を傾げているメビウスに向かってターニアは挑発するようにくすりと笑った。

 その様子から彼の料理を騎士達に食べさせようとしているのは必然であるのだが自分の料理を毒薬扱いされているとは思っていないメビウスは簡単に挑発にのってしまう。

 厨房内へと向かう彼の様子にロイックは騎士達の命だけは守ろうと考えて声を上げるのだが、すでにターニアの策に多くの常連客が賛同してしまったようで彼の肩をつかむと端の席に彼を拉致してしまう。


「へ? あ、あの、メビウスさん、落ち着いてください。冷静になってください」

「あ? 何を言っているんだ? 俺は今、これ以上もないくらいに冷静だ」


 さらわれてしまったロイックの最後の言葉でセフィーリアは状況をやっと理解したようでメビウスの料理を止めようとするのだが、彼女に厨房を奪われ続けている彼の料理へ向ける情熱は沈静化する事はない。

 メビウスはセフィーリアが何を心配しているかなどまったく理解していないようで落ち着いた声で言い、その目はやる気に満ちている。


「タ、ターニアさん!? メ、メビウスさんを止めてください!!」

「何を言っているの。私はせっかくのお客様なんだから、ごひいきにして貰おうと思って、うちの自慢の店主の料理をごちそうしそうとしているだけ。知っているでしょ。うちの料理は食べた人間の能力を上げる魔物が食材なの。この国を守る若い騎士様のために必要な事じゃない?」


 セフィーリアはメビウスを止めるのはターニアしかいないと思い、慌てて彼女へと視線を向けるが彼女は楽しそうに勝手に新しい酒を出して飲んでいる。


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