12品目
「……ずいぶんと大きな魔物だったようですね」
「運びきれなかった物もあるけどな……しかし、馬車があると大量に運べて良いな。今回、それなりに収入があるし、買う事も考えてみるか?」
セフィーリア達が目を覚ました後、メビウス達は何度かにわたって解体した肉を騎士達の野営地に運び込んだ。
討伐依頼の魔物以外にもメビウスは何種類かの魔物を仕留めたようでホクホク顔ではあるが解体された魔物とともにこれから王都に戻らないといけない騎士達の多くの顔は青ざめている。
「メビウスさん、あのこれって大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「この魔物、毒液を吐いていましたよね? ……食べるんですか?」
「毒液? メビウスさん、最初の情報と違いませんか?」
そんな中、メビウスと巨大蛇の戦闘を見ていたセフィーリアは毒液をまき散らしていた蛇の肉が本当に食用なのか疑っているようである。
同行した2人の騎士も同じ事を思っていたようで無言で頷いているとロイックは彼女の言葉が気になったようでメビウスに説明を求めた。
毒液と聞き、騎士達は不安そうな表情に変わり始めており、メビウスは面倒だと言いたげに頭をかく。
「違うって言っても、蛇が毒蛇に変わったくらいだ。だいたい、お前は店で調理した事もあるだろ」
「そうなんですか……何のお肉かわからない物もあるから、その中にあったんでしょうか?」
「……もう少し、詳しくお願いします。私も報告書を上げないといけませんし」
「そうか? とりあえず、夕飯を食いながらにしないか?」
簡単すぎる説明にロイックは同行した騎士の隊長として困るとため息を吐くのだが、メビウスは先に食事の準備をしようと調理器具の準備を始め出す。
今回、同行している騎士達はメビウスの料理の腕を聞いた事があるようで騎士達の表情からは血の気が引いて行き、隊長であるロイックに助けを求める視線が集中する。
ロイックは矢面に立たされた事に大きく肩を落とすのだが、ここに居る騎士達全員でメビウスを押さえつけようとしても彼は1人で魔物を倒す男であり、実力ではかないそうもない。
そのため、何とか説得をしようとするのだが説得できる気がしないようでその表情は暗い。
「あ、あの。メビウスさん、毒蛇と言っていましたが食べられるんですか?」
「毒は血で薄めて血抜きと一緒に抜いたから生で食わなければ問題ない。生で食う方法もあるけど手間がかかるぞ」
「そ、そうですか……セフィーリア、どうにか出来ませんか?」
先ほど取ってきた毒蛇を材料にしようと決めたメビウスは人数分の肉を切り分けだす。
毒蛇を食べるのは抵抗があると言う事で一先ず、料理を止めさせようと考えたロイックではあるがメビウスは調理の手を止めようとしない。
どうして良いかわからないメビウスは彼の店で料理の手伝いをしているセフィーリアにどうにか出来ないかと言う。
「メ、メビウスさん、あのですね」
「何だ?」
「メビウスさんは魔物討伐で疲れているでしょうから、私が料理します。メビウスさんは隊長に報告をお願いします」
セフィーリアは魔物討伐の功績があるメビウスを休ませたいと言う理由をつけて彼の手を休ませようとする。
彼女の言葉に騎士達は大きく頷き、賛同の意志を見せた。その様子にメビウスは鋭い視線で原因を作った彼女を睨み付けた。
睨み付けられてセフィーリアは身体を震わせはするが自分も死にたくないためか目をそらす事はない。
「そうですね。メビウスさん、料理はセフィーリアに任せましょう。メビウスさんは報告をお願いします」
「……わかったよ。さっきも言った通り、生では食えないからな」
「は、はい。わかっています……」
ロイックはこの隊を預かる者として指示を出し、メビウスは一応、彼の指示で動く事を約束したため、言いたい事はありそうではあるが頷いた。
その言葉に安心したようで騎士達は胸をなで下ろすがメビウスに睨まれて慌てて姿勢を正す。
騎士達の態度にメビウスは舌打ちをした後、セフィーリアに食材の注意点を再説明するのだが彼女は巨大毒蛇を倒すその時を見ていたためか、顔を青くしている。
「……おい。本当に大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫です。いつもやっているんですから、問題ないです」
「……無理そうだ」
彼女の様子にメビウスは心配しているのか声をかける。
セフィーリアは出来ないと言ってメビウスに料理をさせては大惨事になるため、顔を青くしながらも頷く。
ただ、彼女の体調は見るからに悪く、メビウスは眉間に深いしわを寄せる。それは騎士達も同様なのだが料理などやった事が無いのか代わりを買って出る事はできない。
「……どうする? やっぱり、俺が作ろうか?」
「……宿場町に戻るのはさすがに時間がかかりすぎますし、どうしたら良いでしょう?」
「そんなに俺に料理をさせたくないか?」
「……申し訳ありません。私も部下の命を預かっている身ですから、メビウスさんに調理をしていただくのは今回は避けたいと思います」
やはり、自分が料理するしかないと言うメビウスだがロイックは故意的にその話をそらそうとする。
彼の態度にメビウスは頬を引きつらせながら本音を聞き出そうとするとロイックは目をそらしながら、彼に料理をさせたくないと言う。
当然、メビウスは不機嫌そうな表情をするのだが店の常連客からいつも罵倒交じりの文句を言われているためかロイックに当たり散らす事はない。
「おい」
「は、はい!? 大丈夫です。私がやります」
「無理するな。とりあえず、下準備は俺がする。味つけは任せるぞ」
「……申し訳ありません。お願いします」
不機嫌そうな表情のまま、メビウスはセフィーリアに声をかけると彼女は慌てて返事をするのだが顔は青ざめたままで回復しそうにはない。
メビウスはセフィーリアから包丁を取り上げると調理を始める。
彼が料理を始めた事に、ただ、メビウスの料理が不味いと聞いている騎士達は不安そうな表情をするがセフィーリアは普段からメビウスが下準備をしている物を調理しているせいか申し訳なさそうに頷く。




