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FATUM  作者: 紙仲てとら
第四章

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147話

 エミリアは茫然と目の前の料理を見つめ、

「なぜここまで親切にしてくださるのですか……」

 消え入りそうな声で問う。

 マクドウェルの目に悲哀がよぎった。彼はすこしのあいだ唇を結び顔をうつむかせていたが、やがて言った。

「実は……一昨年、娘を亡くしましてね。あなたを見ているとあの子が戻ってきたようでつい」

「スカーレット様が?そんな――」

 顔の色を失ったエミリアは椅子から立ち上がって、深く頭を垂れる。

「以前お借りしたドレスは形見であったのですね……存じ上げなかったとはいえ、大変失礼いたしました」

「知らなくて当然です。嫁ぎ先で埋葬しましたので……」

 目尻に皺を刻み苦く笑うと、遠い昔を見るように宙に視線を投げ小さく息をつく。

「私と違って娘は非常に信心深い性格でしてね。毎週日曜の礼拝には必ず参加していましたし、いつも聖典を持ち歩き暇さえあれば読んでいるような子どもでした。成人してからは――シスター・エミリア、あなたの奉仕の心に感銘を受けて、救貧院や孤児院で暮らす子どもたちを支援する財団を立ち上げ精力的に活動していたようです。己がために祈るのみだった娘に芽生えた利他の精神は、あなたに育てられたといっていい……彼女がもしここにいたら自分のドレスを貸し、あたたかなベッドと食事を用意して、必ずあなたを助けたでしょう」

 その言葉に、エミリアの胸は焼けるように熱くなる。

 返すべき言葉が見当たらず、目を伏せ祈りの指を組んだ。悲痛な表情を浮かべる彼女の肩口に触れ座るよう促したマクドウェルは、静かに言葉を紡いだ。

「あの子がまだ生きていれば、あなたと同じく27歳……娘をあなたに重ねてしまうことを、どうかお許しください」

 背丈以外の共通点はなく、顔つきもまったく似ていなかったが、弱っている姿を見るとどうしても愛娘スカーレットの晩年を思い出してしまう。

 彼の胸にあるのは娘に対する贖罪の気持ちであった。彼女の病を甘く見ていたことを後悔し、ずっと己を責め続けているのだ。

 決して贖えないと知りながらも、マクドウェルはエミリアに言った。

「私とカールソンがあなたをお守りします。何か困ったことがあればいつでもおっしゃってください」

 激しい雨風と共に、窓の外がひときわまぶしく瞬いた。

 ふたりが同時に窓に目を遣ったそのときだ。ノックする音が雷鳴にまじって室内に響き渡り、続けて使用人の声がした。

「旦那様」

「入れ」

 彼の声と共に扉が開き、老婆が姿を見せる。

「ジョンストン様がお見えです」

「なんだ今更……」

「急用だとおっしゃっておりますが」

「――わかった。すぐに行く」

 彼はエミリアを残し、ゲストルームを出た。

 広間の椅子に座ったジョンストンは、マクドウェルが入ってきたことに気づかなかった。憔悴した顔をうつむけたまま、じっと一点を見つめている。

 そんな彼の様子を不審に思いながらマクドウェルは、わざと大きく足音を立てて彼に近づく。大柄な体が作り出す影を視界に捉えたジョンストンはようやく頭を上げ、威風堂々たる姿を仰ぎ見た。

「突然押しかけてすみません」

 マクドウェルはかぶりを振って、向かいの席の椅子を引く。

「晴天を待たず馬を走らせてくるとは……今この時でなければいけない理由があるようだね」

 いつも通りくだけた口調で問うた。するとジョンストンはテーブルの上に置いた手を固く握りしめ、低めた声で言う。

「その通りです。雨の日は監視の目が緩くなるので……」

 訳知り顔で浅く頷いたマクドウェルが先を促す。ジョンストンは緊張と疲労感に満ちた顔面を強張らせ、意を決したように唇を開いた。

「トマス神父と、亡きグラーツ博士のことで来ました」

 その言葉を聞いただけでマクドウェルは、すべてを悟ったようだった。彼は口の端に微笑を湛え、ジョンストンが切り出すより先に言う。

「メリッサ・カラベの墓を荒らした犯人はやはり君たちだったか」

 その言葉に、ジョンストンはびくりと身を震わせた。怯えたような顔をして黙り込んでいる若者に、マクドウェルは続ける。

「なぜ墓が暴かれたことを知っているのかって?そのあとに俺たちも土を掘り返し、棺のなかの眠り姫と哀しい再会をしたからさ」

 ジョンストンは表情を驚愕に染め、

「あれを見てしまったのですか……」

 全身を小さく震わせながらつぶやく。

「だからなんだというんだ?」

 穏やかな声で応じたマクドウェルは、ゆったりとした動作でテーブルに肘をつく。

「――私は、メリッサ・カラベの秘密を知っています。マクドウェル殿……あなたも、彼女が埋葬時とはまったく違う状態で棺に収まっていた理由をご存じですね?」

 尋ねられた彼は微笑んだまま沈黙している。その反応を見たジョンストンは頬を薄く紅潮させ、硬い声で言った。

「かつて治安官の鑑と言われたあなたが、あの遺体の謎を放置できるわけがない。地道な調査で情報を集め、すでに彼女の正体に辿り着いているはず。違いますか?」

「さて……。かなりの量の情報を手に入れたつもりだが、その中に真実はどれほどあるだろうな」

 曖昧に言葉を返し、鷹揚な態度で腕を組む。

「君と答え合わせをしたいところではあるが……まだあの性悪神父と繋がっているならば、話すことは何もない。すぐに出て行ってくれたまえ」

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