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終わりを告げる女神の夢

「もし突然、三本だけ映画を観る機会が与えられたとしたら、君はどれを選ぶ?」


空がふいに陽太へ問いかけた。


二人は公館の水の庭園に腰を下ろし、午後の柔らかな陽光を浴びながら静かな時間を過ごしていた。はるか昔、空とその追随者たちがこの地を占拠した際、彼らはかつての領主の邸宅をそのまま公館として利用した。当時は大規模な改修など行われず、ただ人が住める程度に整えられただけだった。


その後、ディマン王国の秘密実験を知った陽太は、密かに公国へと身を寄せた。彼の転向が政治問題と見なされることを恐れた空は、必要な戦闘を除けば、陽太をほとんど公館の中に留め置いた。陽太はその静かな日々の中で、まだ幼く、母を失ったばかりのアイリンの世話を担うこととなる。


そして、彼女と共にこの中庭の水の庭園を造り上げたのだった。


地面には水辺に生い茂る豊かな植物が植えられ、鮮やかな紫の花が風に揺れている。空によれば、それは生前ナオミが最も愛した花だったという。浅く張られた水の中では、小さな魚やオタマジャクシが泳ぎ、幼い頃のアイリンはここで小さな命を観察するのが好きで、気がつけば午後のすべてを費やしていた。


今、空と陽太が座る場所からほど近いところでは、白い花に囲まれ、水が静かに集まる小さな泉のそばから、アイリンとタヌキの笑い声が聞こえてくる。


陽太は、あの二人を見ていると、まるでツイッターに投稿される可愛らしい動物のイラストを思い出してしまう。アイリンは聡明でしなやかなハイエナのように凛としており、タヌキはその名の通り、愛らしく実直なタヌキのように、どこまでも彼女の後を追いかけている。


時折、彼は思うのだ。

空とエリカが共にいた頃も――きっと、今のアイリンとタヌキのように見えたのではないか、と。


「俺なら――『エイリアン』、『ストレンジ・デイズ』、それから『にじゅうはちにちご』かな。」


空が先に答えた。


陽太はその選択を静かに吟味した。その三本の映画には、明確な共通点がある。だが、それはおそらく、空自身でさえ気づいていない偏りだった。


二人きりのとき、空は時折、元の世界の話を口にした。そうした記憶は、彼にとってささやかな慰めであり、心を和ませる宝物のようなものだった。だから陽太は、失われた世界の断片を懸命に思い起こし、空の興味を引くための話題として胸に留め続けていた。


事実、空とは違い、陽太はそれほど元の世界を恋しく思ってはいなかった。


幼い頃から、彼は常に多くの人々に囲まれていた。教師や同級生は、「聡明だ」「端正だ」といった浅薄な賛辞で彼を称えた。友人と名乗る者たちは彼の周囲に集まり、華やかに見える集団を形作っていたが、その実態は自惚れた者たちの寄せ集めに過ぎなかった。


陽太は、自分が人々の呼ぶような天才ではないことを知っていた。


父は著名な研究者で、日々書斎に籠もり、複雑な数式に没頭していた。

母は優秀な企業幹部であり、女性に厳しい社会の中で高い地位に登り詰めた。

兄は飛び級で学び、海外の宇宙研究機関で働いている。

姉は将来を嘱望される小説家で、その作品は映画化され、各国で翻訳出版されていた。


家族と比べれば、陽太は決して特別な存在ではなかった。外から見れば万能の天才と呼ばれる彼も、その評価を得るためには、誰よりも真剣に勉学に励み、何度も練習を重ねなければならなかった。


家族が彼を愛していなかったわけではない。忙しい日々の中でも時間を作り、共に過ごし、旅行を計画してくれた。


それでも――。


彼は、ただ願っていた。

自分が、もう少し特別な存在であれたなら、と。


空は、まったく異なる存在だった。


陽太は何度も空の家を訪れたことがある。そこには、まるでテレビドラマから抜け出したかのように平凡で温かな両親と、典型的なスポーツ漫画の主人公のような弟がいた。彼らは毎晩、絵に描いたように食卓を囲み、その日に起きた出来事を語り合っていた。


空の部屋は、小さな城のようだった。壁には彼が集めたホラー映画のポスターや写真が貼られ、棚には家族旅行の記念品や恐怖小説、漫画が並べられていた。ベッドの上には、水族館で購入したサメのぬいぐるみが置かれ、どこか愛らしい雰囲気を漂わせていた。


あの部屋で、空の隣にいるときだけ。


陽太は、自分自身でいられた。


奇妙な殺人鬼や怪物が登場する映画を共に観ていれば、空は見返りのように、陽太が本当に観たい映画や漫画にも付き合ってくれた。彼が選んだ作品を批判することは一度もなかった。


空は物思いに沈む陽太を見つめ、軽く咳払いをした。


陽太は回想から我に返り、慌てて答えた。


「俺なら……『ハートブルー』、『ファイト・クラブ』、それから『ウォーリー』だ。」


「確かに、どれも君がよく話していた作品だな。『ウォーリー』は特に好きだったようだ。」


「そうだな。君と違って、俺は何度も同じ作品を観るのが好きなんだ。」


空は小さく笑った。


「それは仕方ないさ。ホラー映画にはいつも新しい怪物や新しい恐怖、そして新しい美しい女優が登場するからね。どうしても観続けてしまうんだ。」


陽太は肩をすくめ、穏やかな声で応じた。


「情勢がもう少し安定したら、この世界でも映画を作ってみるのもいいかもしれない。録音と映像の魔法を改良すれば、きっと実現できるはずだ。」


空は興味深そうに頷いた。


「それは面白そうだな。」


庭園には、午後の光が静かに降り注いでいた。


ここは、彼らが辿り着いた新たな故郷。

遠い世界を離れた先で築き上げた――新しい家だった。


「それにしても、まだ『ハートブルー』の結末は好きになれないのか?」


空がふと思い出したように尋ねた。


「……ああ。」


陽太は静かに頷いた。


「サーファーがあれほど待ち続けた“世紀の大波”に呑まれて死ぬのは、どうしても悲しすぎる。それに、刑事の方も理解はできるが……彼を止めず、海へと消えていくのを見送るしかなかった結末は、どうしても受け入れられない。」


彼は言葉を切り、視線を水面へと落とした。


「理解はできる。だが――納得はできない。」


空は静かに陽太を見つめ、わずかに微笑んだ。


「君らしいな。」


しかし、その一言を聞いた瞬間、陽太の胸に微かな違和感が走った。


――なぜ、今この話を?


かつてこの映画について語り合ったとき、空の解釈は違っていたはずだ。「あれは必然の結末だ」と。最高の波を求め、その中で死ぬことこそがサーファーの宿命であり、たとえ刑事が彼の親友となろうと、あるいは弟子のような存在となろうと、最後の結末を止めることはできない――そう断言していた。


何度も交わした議論の記憶が、陽太の脳裏に鮮明に蘇る。


そして、その瞬間――彼は理解した。


この一連の会話の裏に潜む、真の意味を。


「……お前、もうすぐ死ぬのか?」


声はかすれていた。


「女神から与えられた時間が、尽きようとしているのか?」


空は静かに頷いた。


「数日前、夢を見たんだ。女神が告げた。――私に残された時間は、もう長くないと。」


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