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日輪の勇者

港を離れ、王宮の応接広間へ入ると、エリカは正式にアンジェラとダグを空へ紹介した。


空はまずアンジェラに視線を向け、ためらいなくその美貌を讃えた。

その言葉はまるで詩のように滑らかで、飾り立てた賛辞ではなく、相手の魅力をそのまま掬い上げるような、不思議な説得力を持っていた。


警戒心を抱いていたアンジェラでさえ、あまりに自然に褒められたせいで、それ以上あからさまな敵意を向けることができなくなる。


一方、ダグに対しては、ティムが幼い頃から何度もモス公国を訪れていたこと、そこで見せた言動や些細な失敗談などを挙げ、まるで古くから子どもの成長を見守ってきた親族のように語った。

ダグはすぐに話へ引き込まれ、気がつけばティムの幼い頃の話題に夢中になっていた。


その様子を見て、エリカは思わず小さく笑う。



「そうだ。こちらは我が国の聖騎士団長よ。かつてレインと共に、魔霊眼の生存者に関する記録を探してくれた、もう一人の騎士でもあるわ」


「その節は、本当に助かりました。あの記録は、私の後見人にとってとても大きな助けになったのです。あとでティムと、その妻からも改めて礼を言わせましょう」


黒髪の聖騎士は、わずかに視線を上げただけだった。

「……お気遣いなく」


声は低く、抑えられている。

礼を述べられたこと自体を拒んでいるわけではない。

だが、受け入れることもまた拒んでいるような、奇妙に硬い返答だった。


エリカはそのわずかな棘に気づきながらも、表情には出さなかった。


「アイリンは元気かしら。私が贈った結婚祝い、気に入ってくれたといいのだけれど」


「とても喜んでいました。あれだけ貴重な植物の種を、よくあそこまで集められたと感謝していましたよ」


「それならよかった。ディマン王国との関係をきちんと断ち切って、ふさわしい伴侶も見つけられたようで安心したわ。確か、お相手の名前はタヌキだったわね?」


「ええ。最初は本当にやっていけるのか心配でしたが、幸いレインが良い教師でした。狸も覚えが早く、今ではアイリンの視察や仕事にもきちんと付き添えています」


「それはよかったわ。ティムも最初に領主の役目を担い始めた頃はずいぶん心配したものだけれど、今ではすっかり為政者らしくなったものね」


エリカは空と穏やかに言葉を交わしながら、侍女たちに視線で指示を送る。

ジェイソンを一時的に留めている地下の魔法空間を整え、これから行う浄化と祈祷の儀式に備えさせるためだ。



もっとも、実際には大して準備するものなどない。

必要なのは、外にいる者たちに「それらしく」見せることだけだった。


今のジェイソンは、ただ床の上で辛うじて息を繋いでいる肉塊に過ぎない。


エリカは「元国王の最後の尊厳を守るため」として、侍従も魔導士もすべて部屋の外へ下がらせた。

中へ入ることを許されたのは、彼女自身と、アンジェラ、ダグ、空、そして聖騎士団長だけ。



扉を開けると、すでにティムとレイがそこで待っていた。


ティムは金色の獣の傍らに腰を下ろし、代わる代わる声を発する二つの人の形をしたレイと、楽しげに言葉を交わしている。


空はその光景を目にしても、顔色ひとつ変えなかった。

ただ静かに一歩進み出ると、レイへ向かって深く一礼する。


「こうして再びお目にかかれることを光栄に思います、誉れ高き黄金の姫君」


以前、クリスティーナの肉体に異変が起きた際、レイはエリカを通じて空に助けを求めたことがある。

その時の加護と治療により、クリスティーナは激しい頭痛を和らげ、精神もいくらか安定した。もはや以前のように、苦痛を紛らわせるためだけに大量の生き物を喰らい続ける必要はない。


空はすでに、レイの特異な身体に慣れていた。

驚くことも、怖れることもない。


「そんなふうにしないで。あなたは私の叔母の眷属で、それに母を救ってくれた恩人でもあるの。礼を言うのは本来、こちらの方よ」


二つの人の形をしたレイは、慌てたように空の身体を起こした。



「久しぶりだね、空叔父さん。それに団長も」


ティムが嬉しそうに声をかける。

「俺たちはこのあと子どもたちのところへ戻るから、ここは任せてもいいよね?」


レイの視線が、聖騎士団長の上をさっとなぞった。

好奇と、わずかな警戒。

何かを測るような目だったが、それも一瞬で消える。


やがて彼女はティムの手を取り、転移魔法で部屋を去った。



その一瞬、部屋の空気がわずかに軋んだように感じられ、黒髪の聖騎士は眉をわずかに寄せる。


空はその反応を横目で確認しながら、あえて何も言わなかった。

「エリカ。君が手紙で心配していた、“安全に物理的接触を伴う攻撃をどう行うか”という件だけど、こちらで最適な代役を連れてきた」


空はそう言って、後方の聖騎士団長を示した。


ジェイソンを床へ縫い留めた後、エリカはアンジェラやダグに、あらゆる手段で報復しても構わないと告げていた。

せめて最後に、かつて彼に苦しめられた空にも何発か殴らせてやれれば、と半ば冗談めかして口にしたことすらあった。


だが、すぐに現実的な問題が生じた。


今のジェイソンの身体は、クリスティーナの断片によって深く汚染されている。

魔力の強いダグならまだしも、身体も魔力も繊細なアンジェラが直接触れた場合、何らかの影響を受ける可能性がある。


その懸念を、エリカは定期的な書簡の中で空へ伝えていた。

もし危険すぎると判断されるなら、ジェイソンはこのまま処分するしかない、と。


「代役?」


アンジェラが首を傾げる。


空は軽く肩をすくめた。


「僕たちの元いた世界ではね、昔の貴族が決闘する時、自分の代わりに戦う腕の立つ者を立てることがあったんだ。うっかり本人が死なないようにするために」


そして、聖騎士団長の肩を軽く叩く。


「この人は体質が特殊でね。ジェイソンにどれだけ触れても、まず問題は起きないはずだ」


エリカが無言でその男を見る。


空はわざとらしいほど軽い口調で振り向いた。


「ねえ、そろそろ自己紹介くらいしてくれない? ……団長殿」


問いかけというより、命令だった。



黒髪の聖騎士は、露骨ではないが明らかに面倒そうな空気を滲ませた。

それでも逆らわず、長い黒髪を右肩へ払う。


露わになった左の首筋には、大きな傷痕が走っていた。

ほとんど致命傷だったと分かる、深く古い傷。



「……木下陽太だ」


短く名乗り、それから一呼吸置く。


「十三年前、ディマン国王の随行護衛として、こちらの国を訪れていた」


その言葉を聞いた瞬間、エリカの目が大きく見開かれた。

いくら平静を装っていても、その驚きは隠しきれない。


「あなた……まさか」


陽太は答えない。

だが、その沈黙自体が何より雄弁だった。


エリカは彼を見つめたまま、ゆっくりとその名を口にする。


「……“日輪の勇者”なの?」


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