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幕間 神父の素性

「お兄ちゃん!!」


 地上に出るなり花音が僕に飛びついてきた。

 どうやら僕たちはとある建物の地下室に監禁されていたようで、僕が誘拐されてからなんと一日が過ぎていたそうだ。


 僕ってば状況認識や打開方法考えたりとかで全然空腹とか感じなかったけど、安心した今、くぅーと小さく可愛らしい腹の音がなった。


 相変わらずかわいらしく変貌を遂げてしまわれた我が腹の音にはなれる自信が無い。

 なんというか……すんごく違和感があって気持ち悪い。


「咲夜君、よかった無事で……」


「あ、リーフさんも……心配かけてすいませ……んぐっ!?」


 謝罪しようとして僕の口が彼女の口で塞がれる。

 花音の前だと言うのにご丁寧に舌を中に入れられ、口内が愛撫された。

 好きな人からこんな行為をされて興奮しない男は居ないわけで、もちろん僕の愚息が……って、僕ってば幼女なんだった!!


 いやいや、それよりも……ッ!! リーフさんどうしちゃったんだ!? あの暗黒殺人鬼花音様の前だと言うのにこんなにも積極的な……ッ!!


 いや、僕としては大変うれしいことと言いますかご褒美と言いますか……アレなんですけど……でも、花音の前は……。


 ちらりと未だ抱きついたままの花音に視線をやると、彼女は涙目になって唇をかみしめていた。

 そして一発で分かる怒りの表情。

 でも、決して止めようとはしなかった。


 必死に必死にその怒りを押し殺そうと、必死になっていた。


「――……っぷは。ど、どうしちゃったんだ? 二人とも……んぐっ!?」


 リーフさんから解放されたかと思うと今度は花音だ。

 もう僕の頭はこんがらがってしまった。

 ダメだ、それに二連続のキスは……ただでさえキスは麻薬と同じだと僕は考えているのに、二種類の異なる麻薬何て……頭がおかしくなりゅううううううう!!


「っぷは!! ほんとうにどうしたんだ!?」


 薬物の禁断症状に陥る前に何とか生還し、僕は二人に疑問を投げかける。


 が、花音の方はプイっとそっぽを向いてしまった。

 リーフさんが苦笑を浮かべながらまだ若干火照っている頬を掻く。


「いえ、ただ少しだけ仲良くなれただけですよ」


「仲良くなんかない」


「そんなこと言ってぇー、素直な花音ちゃん私好きですよ?」


「別に好かれたくないもんっ!」


 あ、あれ? 本当に仲良くなってね?

 僕が誘拐されている間に、犬猿の中だったはずの妹と意中の女性が仲良くなっていた。

 わおっ、びっくり仰天もいいところだな。水曜ゴールデンの某仰天なニュースを届ける番組に出てもおかしくないくらいビックリだ。


 でも、仕方ないのかもしれない。

 自分で言うのも恥ずかしいが、彼女たちの争いの原因は僕だ。

 僕が長い時間居なくなったことで自然と僕抜きの会話が増えて仲良くなったのだろう。


 何があったかは知らないが、仲良きことは美しきかな。

 ぴりぴりされているより数千倍良いことには変わりないんだから。


 仲良く言い合いをする二人を微笑ましげに眺めているとぽんっと肩に手を置かれる。

 見て見るとそこには宿屋のおばさんが少し引き気味に笑っていた。


「無事だったのは良いんだけど……女の子同士でキスは……」


 デスヨネー。


「どうしてダメなの? 僕子供だからわかんない」


 僕が中身男で、二人は僕に惚れていると告げてもおばさんは信じないだろう。

 返答に困ったので、ここはコ〇ンくんのまねで行くとしよう。そう、この『子供だから』と言う言葉は何においても最強だ。

 例えば女子風呂を覗いても『子供だから良いよね』となる。


 そして僕は今現在美少女だ。

 つまり最強である。


 その証拠に宿屋のおばさんが困った顔を浮かべて、しまいには溜息をついて諦めたようだ。


「んとね、確か名前は咲夜ちゃんだったわよね?」


「は、はい。――……ちゃんってやっぱり慣れないな」


「何か言った?」


「い、いえ、何も?」


「そう、それで少し話があるの。いい?」


 話し? 一体なんだろう? と言うか、どうして宿屋のおばさんが?


 ハッ! まさか窓をぶち壊しちゃったからその弁償とか!? いやいや、でもあれば僕の性じゃないですしぃ~。

 …………え? しなくていいよね?


「ま、窓割ったことですか? すいません」


「え? いや、そうじゃなくって。と言うより謝るのはこちらだわ。ごめんなさい」


 え? いったいどういう事だろう?


「私と、それと主人って言っていた料理を作ってくれた男の人いるでしょう? 彼は聖女様であるテイル様を匿う為にこの町の宿屋で一般人のふりをしているの」


「そう言えば、テイルちゃんが聖女様ってあの神父も……って、あれ? そう言えば神父さんは?」


 気が付くとテイルちゃんは居るのに黒の服の神父の姿はもうどこにもなかった。


「レヴィアルージュの狂神父――ドラクは先ほど帰りました」


「ドラクさんって言うんですか。今度お礼に行かないといけませんね」


 僕の発言に、しかし、おばさんは渋い顔を浮かべる。


「ドラクとはかかわらない方が良いです。すべて善行の為とはいえ、彼は今までに三千六十五人の人を殺害している大量殺人鬼です」


「三……ッ!?」


 ドラクさんが三千人以上殺しているって!? 確かに僕を助けた時も、さっきも人を殺したし、殺そうとした。躊躇いなく、だ。


「小さな悪事も見逃さない生真面目な性格故に多くの犯罪者を見逃さず殺害してきました。――特に彼は聖女様に相当入れ込んでいます。今回は緊急事態でしたので力を借りましたができるだけ関わらないことをお勧めします」


「そう言えば、どうしてこの場所がわかったんですか? ドラクさんが見つけたんですか?」


 ドラクさんがどうして助けに来てくれたかはわかったが、場所を把握できた理由がわからず僕は尋ねる。


「そうですね。たぶん魔法の類だと思うのだけれど……。ドラクは凄く正確に対象を見つけることが出来るのです」


 なんだ、その魔法。僕のサテライトよりも性能が高いじゃないか。


 いや、もしかしたら対象しか見つけられないのかもしれない。

 僕みたいに無差別に人の反応を示すサテライトと比べると……まぁ、どっちもどっちと言ったところか。


 だが、これでドラクさんが何者なのか。さらに謎が深まってしまった。

 いったい彼は何者なんだろう。


 おそらく僕と同じかそれ以上の圧倒的な強さ。

 僕とほぼ同性能の魔法。

 聖女様への入れ込み具合。

 人を躊躇いなく殺せるようになってしまった過去。


 すべてが未知数で異常で、故に僕は戦慄した。


 異世界に転生してから僕はずっとステータスを見て本能的に『自分は絶対に負けるはずがない。安全だ』と思い込んでいたのだ。

 誘拐されても『いざとなれば力技で何とかなる』程度の認識だった。


 だけど、今はどうだ?

 味方をしてくれるし、慈愛の笑みすら向けてくれたが、自分の身に危険を与えることの出来る存在はあまりにも恐ろしい。

 僕は恐怖していた。


 あの狂神父は……一体、何者なんだ?

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