自覚なき愚行 それも大罪が如き
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あの瞬間から俺の情報はなくなった。ラウル医師を疑っているのは紛れもない事実ながら証拠不十分により俺は已む無く見逃す決断をしていた時のことだった
伯爵を除く祝賀会に呼ばれていた貴族達が帰り、一件落着といった様子となった広間の中でただひとり、未だ消えぬ憤怒をたぎらせる者がいた
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『では、これで…』
『国王陛下、いえ伯父上』
毒殺未遂事件の犯人が捕まり、皆が安堵のため息をつく中、スゥ嬢だけは静かに言った。その表情には怒りと我慢の入り混じったものが伺えた
『かの者は実行犯でございます
あとは事件の黒幕、真犯人を
どう追い詰めるかでしょう』
スゥ嬢は真犯人を指さすとその名を口にした
『のぉ、ラウル殿?
遂にやらかし腐りおったな!』
会場の皆がどよめきを隠せず口々に憶測を飛び交わせ始めた。ラウル医師はその様子を動揺による挙動不審で見回していた
『め、め、滅相もございません
私が黒幕などと…』
『スゥ、どう言うことだ』
慌てふためくラウル医師の前に国王が立ち、スゥからの糾弾の盾となった
『不躾にすみません伯父上
ですが母に引き続き、伯父上も危険に晒した
この者をこれ以上見過ごすわけには行きませぬ』
スゥ嬢は国王に対しても怯むことなく前に出た
『この者が真犯人出ないにしろ
此度の件で自らの役割を全うできぬことが
証明されたではありませぬか』
スゥ嬢がいつもの柔らかな年相応の雰囲気から公爵令嬢然とした佇まいと物言いを続ける
『これは先の襲撃を受けた日取りに
調べ物をしていた際に偶然目にした物じゃ
レイム、読み上げよ』
『はい、直ちに』
レイムさんに対してもこの態度、怒り心頭に発すると言った様子だ
『水薬を含む併用厳禁のお達し』
レイムさんの口から語られたのは紛れもない薬物相互作用に関する論文の要約だった
飲み合わせや食べ合わせで起こる意図しない作用───効果が過剰化、もしくは減衰。はたまた相殺や失効が起きること。ごく一般的なもので言えば酒と薬だ
「(まさか…)解毒の減りが早かったのって」
『ワイン、眠剤、此度の毒、3種の吸収を
阻害したのじゃ、効果は申し分なかったぞ』
スゥ嬢が瞬きの間、笑顔を見せたがまた、ラウルさんを睨みつけた
『ラウル殿、この論文は3年も前に出たものじゃ
目を通されたか?』
『そ、それは』
スゥ嬢は止まることなく、続き取り出した羊皮紙をレイムさんに読み上げさせた。それはカルテであり、国王陛下への処方箋と俺が掻き出した腹の内容物の分析結果が記されていた。仕事が早過ぎる
『多忙故に疲れ癒えぬ国王へ睡眠薬を入れたことは
無論責めるべくもない。しかし、しかしじゃ
先に述べた通り、睡眠薬と酒は
永遠の眠りに誘いかねぬとあるだろう!』
『面目次第もございません』
ラウル医師は誤魔化す訳でも言い訳をするでもなく、深々と頭を下げ続けていた
『何故じゃ、いつからじゃ』
スゥ嬢は続き突きつけようとしていたであろう様々な情報の入った羊皮紙を地面に落とした。これが伯爵の様な『確固たる意志を持った愚者』であればどれ程簡単な話だったか
『ラウル、貴様の目が見えなくなったのは…』
『それは言えませぬ』
俺の目の前でアルフレッド公爵がスゥ嬢を抱き抱えた───この雰囲気、そうか
「(5年前だな)」
『何故じゃ父上!何故其奴を庇う!』
大人の苦しいところだ
『なんで…なんで…』
涙ながらに訴えるスゥ嬢に俺ができることはなかった。たったひとつ、救いにすらならない真実の確認を残すばかりで
◆
スゥ嬢が別室へと連れて行かれ、静まり返った広間の中で気を落とすラウル医師に俺は近づいた
「ラウルさん」
『これはフジノミヤ様、お見苦しいところを』
「お聞きしたいことが」
『えぇ、私の答えられることであれば是非』
「その目は5年前ですか」
『スゥ様の友人もまた、知の富んだ方が多い様で』
俺の問いにラウル医師はうなづき、答えた。この人もまた難儀な人だ。救わなければいけない命の数に対して、使える手はたったのふたつ
懸命に救った結果、自らも病を受け、その目を失った。患者は数多誰ともつかぬ者からの貰い病とあってはどうすることもできない
『スゥ様には本当に申し訳ないことをした』
こうして、スゥ嬢の心にシコリを残す形でその国王陛下毒殺未遂事件自体は終わった




