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目覚めたら荒野に仁王立ち、FullTinで

Tin───錫の英名。典型元素の中の炭素族元素に分類される金属で、原子番号50の元素である。元素記号はSn。

◆◇◆◇◆


 目覚めると空が見えた。雲は穏やかに流れ、どこからか鳥のさえずりが聞こえてくる


「…」


 風が心地よい。痛みはなく、意識はハッキリとしている。周りを見渡すと山や森、草原が広がり、どこかド田舎の風景といった感じだった


「(ここはどこだ?)」


 そんなことを考えている内にある違和感が全身を撫でる。下の半身に搭載されている2個1の玉と棒がやたらと風に靡いているのだ


「(寒)」


 気がつけば人の見当たらない田舎の草原に俺はフルチンマッパで両腕を組み、足を肩幅に広げた状態で手にはスマホを持って立っていた


「いや、死ぬ」



 全身全霊で世界に存在を誇示する中、下のアレも縮みこむ寒さに身体が根を上げた


「いやいや、無理無理、寒い寒い」


 訳が分からず、しゃがみ込み改めて周囲を見渡す。右見ればクソ緑、左見ればクソ緑と完全に詰み状況です。GGです


 どうもありがとうございました


「(いや、ガチで死ぬ)」


 冗談はさておき、震える体で一先ず歩き出す


「(そういや)」


 凍死なんて洒落にならんと思いスマホに目をやるも〈電波マーク〉が電波なし(圏外)していた。クソがお前はなんのためにいるんだよ



「(よっしゃ道路

 さて、どっちに向かうか)」


 歩き出して数分。震えながらも道路を発見した。珍しくアスファルトやコンクリートではないそれに一抹の不安を覚えつつも直感頼りに歩き出した



「?」


 手の中のスマホが急に鳴りだすと画面には『神様』の文字が映し出されていた


「(拒否っと…あ、しまった!)」


 藁にも縋りたいところながら登録した覚えのない名前に反射で拒否を選択してしまった。もっとマシな名前あるだろ


「(てか、この状況

 昔のテレビ番組思い出すな)」


 体温を奪われる一方で気を引き締め直すと途端に寒さを自覚してしまう。てか自分がターゲットになるなんて思いもしなかった


 そんなことを考えていると再び着信を知らせるバイブレーターが起動したので"すかさず"『応答』した


「もしもし?」

『おお、繋がった、繋がった

 無事着いたようじゃな』


 耳に当てるとしわがれた年配を思わせる声が聞こえてきた。記憶のどこにも聞き覚えのない声にテレビ番組かも知れない。そんな面倒くささが一気に押し寄せてきた


「仕掛け人さん?タネ割れてるから

 家に帰してくんない?」

『説明したと思うがお主を元の世界に

 戻すことはできぬのじゃ』


「いや、そう言うのいいから」

『ふむ、記憶が混濁しておるようじゃ』


 のらりくらりと言葉が躱わされる、クソみたいな完全勝ち確後出しジャンケンで聞く耳を持ってくれないのでこちらが折れる事にした。脚本家がしっかりしてるな畜生


『言い忘れとったが君のスマホな、 

 マップとか方位とかもそっちの世界仕様に

 変えてある。活用してくれ』

「そうなんですか?いやまあ助かりました

 ちょうど道に迷っていたもので」


『やっぱりか。君を送るのに

 町中にしてもよかったんじゃが

 急に人が現れると騒ぎになるし

 町から出るのに苦労すると思ってな』

「ええ、まあ」


 今絶賛苦労してるっての、なんか妙に癪に障るな電話口のこいつ


『マップで確認しながら進めば

 問題なく町に着くじゃろう

 では頑張ってな』

「はい。失礼します」


 頭を下げながら電話を切った



 クソが頑張ってんだよこっちは


「(あぁ、やめやめ

 苛立っててもしゃあない

 切り替えていけ)」


 電話口で応対してきたしわがれた声の主が言っていたとおり、マップのアプリを起動に成功した


「は?ど田舎ってか」


 思わず声が出た。自分を中心にして表示された地図は傍らに伸びる道と遥か先に『リフレット』と言う名前の町がポツンと表示されているだけだった


「(巧妙な嫌がらせだな。クソッタレ)」


 従うのは癪だが、このまま死ぬのは馬鹿馬鹿しい、仕方ないと歩き出した



「(こう言う番組の収録には

 ディレクターが居るから大丈夫だろうけど)」


 身体の震えが限界を極め始めていた。歯がなり始め、腕で覆えていない箇所の感覚がぼんやりとし始めてきた


「(ヤバい、死ぬ)」


 熱病に侵されたような感覚に道に座り込んでしまう。しばらく歩いたものの、まず着いたところで金がない。町に着いたとして、それからどうする


 普通に考えて番組に無様晒して終わりだよ。クソが


「(放送中止を晒しやがれクソッタレ)」


 ぼんやりとしてきた意識の最後にそんなことを考えながら歩いているとなにやら後ろから音がしてきた


 振り返ると遠くからこちらに向かってくる何かが見える。あれは馬車か。馬車を見るなんて海外旅行した時以来だ


「モザイクばっかで視聴者が飽きるってか?」


 おそらく親切な誰かぎ乗っているんだろう。中世をコンセプトにしているのか。そんなことを考えつつも流石に番組側の匙加減で死にかねないため、馬車を止める決意をする



 馬車が近づくにつれ、その馬車が豪勢な装飾品で彩られていることに気がつき、躊躇いが生まれた。目に見えて金ピカなら狙いすましているのが丸わかりだが───丁寧な細工と、黒を基調とした美しいシルエット、重厚な作りは見た目だけではなく機能性にも優れていることが丸わかりだった


 間違いなくあれは一級品。技術者の端くれでも分かる程の職人技があしらわれていた


 しかし、背に腹はかえられぬ。そもそも今死にそうだっての、今死ぬか、後で死ぬかなら天秤にかけるまでもなかった


"ガラガラ"と土煙を上げながら迫る馬車の前に立った。運が悪ければ馬車を引いている馬に蹴られてお陀仏。運が良ければ絞首刑だなんだとし始めて家に帰れる


「『聞きなれない言語』」


 そんなことを考えていると"バタン"と馬車の扉を開けて出て来た白髪と立派な髭をたくわえた紳士が駆け寄ってきた



 ご都合主義万歳、快適な移動方法と服を貰った


「『聞きなれない言語』」


 俺を助けてくれた人は洒落たスカーフとマントを着込み、胸には薔薇のブローチが輝やかせていた。この番組金掛けてんな。そんなことを考えていたものの、最悪な事に言語の壁が立ちはだかった


「なんでしょう…?」


 こちらの言葉も通じないとあり、困惑の表情を浮かべる紳士。ヤバいな凄い申し訳ない


「あ、そうだ」


 俺はスマホを取り出し【翻訳アプリ】を起動する。紳士はそれを眺めていた


「助けてくれてありがとうございます」


【アプリ】を通して会話を試みた。するとガシッと腕を掴まれ、紳士が興味深そうにスマホを眺めていた。ヤバイ状況か?



『こっ、この魔法道具(マジックアイテム)

 どこで手に入れたのですか」

「えっと」


『見たことのない形をしている

 それはとても興味深いです』

「…」


『是非譲って貰いたいです』

「(それは無理だなぁ)」


 命の恩人ながら生命線になり得るスマホを手放す気は一切なく、断りを入れると困った様子で『すみません、取り乱しました』と紳士は謝罪してくれた


 そんな対応に逆にこちらが申し訳なくなった


『もしかしてイーシェンの方ですか?』

「イーシェン?」


『ここから東に向かって海を渡った先にある

 島の集まった国のことです』

「私は日本という場所から来ました」


『やっぱり、イーシェンから来た方ですね』


 どうにも日本と言うのはイーシェンと呼び換えられている様でこの番組の中での俺の出身はイーシェンと言う事になった



 そのまま馬車に乗せてもらい、色々話すとリフレットの町まで三時間ほど揺られた。あの時馬車を見過ごしていたらと思うと背筋が凍った


 番組の内容的には死なないかも知れないものの、その間を髭の紳士こと。ザナックさんは俺の語る話に興味を示してくれ、3時間はあっという間だった



『気が向いたら私のお店に来てください

 それとこれを』


 そう言ってザナックさんは俺に金色に輝く硬貨を数枚握らせてきた。その見た目から金銭であることは確実だった


「お金、頂けません!」


 俺が慌てて断りの翻訳をしようとするのを見通してか、その手を止められ続けてこう言われた


『楽しい時間の御礼です』

「御礼って」


 その言葉に嘘偽りは感じられなかった。楽しかったのはこちらも同じだった


『またお話しをしましょう

 楽しみに待っていますフジノミヤさん』

「私もです、ザナックさん」


 テレビ番組だったとしてもザナックさんとの話は確かに楽しく本物だった。離れていく馬車に頭を下げつつ、忙しくなった周辺環境を前に気を引き締めた


「取り敢えず検索するか」


 兎にも角にもスマホを取り出し、メモにやることを書き留め、検索を始めた

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