プロローグ
第1話プロローグ
俺の名前は獄寺悪路。三十五歳。
都心のホテルでパティシエ、ドゥミシェフをやっている。
本日もしんどい仕事を終え、中央線青梅線直通の列車で帰宅中だ。
時刻は午後十一時頃。帰宅ラッシュのピークはとっくに過ぎていて、車内は座ろうと思えば座れる程度の混み具合だった。
俺は空いた席には座らず、外の夜景が見やすいドア横をキープマン。
車内の中程では学生が数人固まってキャッキャと盛り上がっている。
声がでかい。どうしても会話の内容が耳に入ってくる。
どうやら文化祭の帰りらしい。
・・・・・・はぁ。青春してるなあ。妬ましい。
友達なし。恋人なし。妻も子供もなし。兄弟も、父も母もいない。
人生が終わり気味の三十五歳中年の俺にとって、あいつらの光景は精神にグサグサと刺さる。
というか純粋に煩いな。別の車両に移動するか。
そんなことを考えながら流れる夜景を眺めていると、突然、窓の外が真っ暗になった。
トンネル?
いや、この辺にそんなものはないはずだ。
「なんか光ってんだけど~?」
「あんたも光ってるって!」
「な、なにこれっ!?」
「うわあぁ!?」
学生どもが騒ぎ始める。見れば、学生だけじゃない。他の乗客も軒並みビカビカと発光していた。
おいおいおい。
なんかの悪戯か?仕込みか?
強烈な光が収まった次の瞬間、車内の乗客が全員、忽然と消えていた。
座席に残されたのは、主のいなくなった鞄や、スマホ、読みかけの文庫本。そういった生活の残滓だけだった。
思考が、停止する。
車窓の外は変わらず真の闇だ。音もない。走行音すら消えている。
電車の中には、俺だけ。
・・・・・・は?
なにこれ。
怪談じゃん。
やめろよ。俺は幽霊とか信じないからな。
ぞくり、と首元に怖気が走った。
『うふふふふふふふ』
脳裏に直接響く、女の声。
誰だ。
車内を見回すが、やはり俺以外に人影はない。
「っ・・・・・・今度はなんだ・・・・・・!?」
足元から黒い靄が湧き出ていた。
それがじわじわと上昇し、俺の身体をゆっくりと覆っていく。
「う・・・・・・ぁ・・・・・・」
逃げようにも身体が動かない。金縛りってヤツか!?
黒い靄が口元まで這い上がってきたところで、俺の意識はぷつりと途切れた。




