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最強の傭兵は金次第  作者: 道楽堂
中原逐鹿篇
2/2

ロリコンは罪

 人探しというのはかなり簡単な仕事の部類に入る。相手が子どもとなれば尚更だ。加えて、盗みの常習犯とやらだ。露店やらで話を聞きながら張っていたらすぐに出没する地域は特定できた。

 数日見張っていたら、すぐに尻尾は出てきた。


「見つけた」

「やば……っ」


 少女はすぐに路地裏に逃げたが、カイにとっては、この程度の子どもとの鬼ごっこなど朝飯前だった。

 カイの手が少女の腕を掴もうとしたその時、真上から剣が降った。


「……っ!? 誰だ」

「このような往来で誘拐とはな」


 銀の鎧を纏った兵士だった。声色は男だったので、依頼人ではないようだ。


「人聞き悪ぃな、俺はむしろ治安維持に努めてやったんだぜ、コソ泥とっ捕まえてな」

「言い訳など聞かぬ」


 兵士は地面に刺さった剣を抜いてカイに構えた。少女は訳が分からないながらも助かったのだと思い、颯爽とこの場を去っていった。


「チッ……仕事の邪魔されちゃ困るんだよ」

「少女を拐かすことが仕事とは変態の考えることは分からんな」

「違ぇーよ!!」


 カイは腰に提げていた双剣を抜いた。二刀一対を扱うのはカイくらいのものである。


「その双剣……そうか、お前が」

「変わった戦い方すると、名刺代わりになるついでに、相手の対応も鈍くなる。オススメだぜ」


 兵士がカイに斬りかかるが、右の長剣がそれを受け流す。そして、懐に潜り込み、短剣を鎧の隙間に目掛けて差し込むと、兵士は体を一歩分後退させ、間合いを保った。


「オメー、並の兵士じゃねぇな。どこだ」

「答える義理はない」

「なんで、アイツを庇うような真似してんだ」

「いたいけな少女を誘拐犯から護る。当たり前のことだろう」

「違ぇつってんだろ」


 カイは側にあった木箱を蹴り飛ばし、兵士の視界を防いだ。兵士が目の前の木箱を木っ端微塵に斬ると、カイは既に姿を消していた。


「飛んだか……っ!!」

「逆だ」


 超低姿勢から放たれる不意打ちの一撃は兵士を叩き、吹き飛ばした。


「ぐっ……」

「休んでんじゃ……ねェッ!!」

「がっ!?」


 今度は兵士の顎を蹴り上げた。


「こ、この……俺がっ!!」

「喧嘩売る相手は選ぶんだな」

「……お前は、金次第でなんでも引き受けるそうだな……」

「あぁ」


 カイの傭兵事務所は悪名こそ高いが、金さえ積めば何でもやるというのは、その手の悪人にはこの上ないセールスポイントであった。


「ならば、渡された倍の金をやる。彼女には関わるな」

「傭兵ってのは信頼が大事なんだよ。金次第で何でもやるがな、金で信頼を売る訳にはいかねぇ」


 後ろから足音が聞こえた。それは、やはりただの兵士のそれではない。ただ一つ分かるのは目の前の兵士の味方でも無さそうだということだ。

 冷酷な刃がカイの首筋に当たる。


「手を退けば、命は助けてやる。或いは、私たちに就け」

「……どいつもこいつも薄汚ねぇガキにご執心ってか」

「無駄口を叩くな、選べ」

「お前たちは……っ!! 貴様らにあの()は渡さ―――」


 背後の男はカイに当てていた剣を真っ直ぐと投げ、目の前の兵士の兜ごと眉間を貫いた。


「おぉ、こわ」

「ただの曲芸だ」

「テメーら何(もん)だ」

「……我らは革命者だ」

「デカく出たな」


 革命者と名乗った男は兵士の脳天を突き刺した剣を引き抜いた。この時はじめて、カイは男の姿を見た。赤黒く染まった鎧はそれが血なのか、塗装なのか分からない。顔も兜を被っており、分からない。


「猶予をやろう。三日後の夜。貴様の事務所を訪ねる。選べ」

「なら、きっちり用意しとくんだな、着手金500万マル、成功報酬1500万マルが最低価格だ」

「フン、貴様の命が報酬だ」

「随分と安いじゃねぇーか」


 革命者は音もなく、その場から消えた。


「笑うとこだろーが」


 カイは仕事を切り上げ、事務所に戻った。三日の内に調べる必要があることが出来たからだ。



 三日の間、子どもを捕らえる機会は有りながらも、革命者を始めとした多くの人間に阻止され続けていた。

 それに、あの日から路地裏で兵士の死体が見つかったという報せは無かった。普通はこんなことが起きれば一面を飾る大スクープだが、今朝はそんなことがまるで起きなかったかのように、平和な朝を迎えた。


「カイが見たという革命者とやら……手がかりはまるでありません」

「モネさんでも、掴めなかったんですか?」

「えぇ」


 カイ傭兵事務所でモネは所長兼情報屋をしている。尤もそれは、カイがモネを戦いの場に出したくないからで、彼女も戦えないというわけではない。


「そうですか……」

「ですが、追っている少女については、少し分かったことが……いえ、正しくは不自然な一致が」

「……というと?」


 モネは趣味の風景画を描きながら慎重に答えた。


「王家にしか名乗ることを許されていない、【フェーブル】を名乗っていることです」

「……それが?」

「フェーブル姓は国王が崩御してから、王妃のアート・フェーブル様だけです。そして、国王の子は幼名を生まれ年と母の名を冠して呼ばれます。例えば、フェーブルの08など」

「つまり?」

「王妃、アート・フェーブル様の息女である方にしか許されません。しかし、そんな方はいらっしゃいません。なぜなら、アート・フェーブル様は……子無しの王妃ですから」


 アート・フェーブルは王妃でありながら、国王との間に子を授からなかった。影では【子無し妃】と呼ばれ、嘲笑されている。

 しかし、それでも王妃として強い権力を振るっているのは、国王からの深い寵愛を受け、また自身の才覚も英雄足り得るものだからだ。


「なるほどな」

「国王が崩御されてから、王妃の立場は揺らいでいることでしょう。もし、件の子どもを唆し、実子であると言えば危うい状況も収まる。王妃の欠点は子を産まなかったこと、それだけですから」


 つまり、モネはアート・フェーブル王妃が依頼人であり、黒幕だといいたいわけだ。それなら、あの多額の報酬も納得が行く。


「あり得なくはないかもしれませんね」

「……えぇ」



 夜になり、店じまいをしていたら、件の革命者とやらが事務所に訪れた。


「ご依頼なら明日にしてくれませんかね、もう店じまいなんで」

「案ずるな、依頼ではない」

「冷やかし相手には武力行使で追い払うってのが、ウチの社訓なんですわ」

「……あなたが、革命者……ですか」


 革命者は気にも止めずにソファーへと座り込む。


「お前の雇い主を知っている」

「……へぇ」

「我らを嗅ぎ回っていたこともな」

「依頼するには身元証明書がないと」


 当然、金さえ渡されればそんなものは必要ないのがこの傭兵事務所だが、この男に限ってはそうではない。


「まずは、顔面から見せてもらおうか……っ!!」

「フン」


 カイは革命者の顎を目掛けて蹴り上げたがそれは宙を舞った。


「……見たければ見せてやろう」

「なら、そんな仰々しい(もん)着けるじゃねぇ」


 革命者は兜を脱いだ。

 その顔は王妃派のリーダー格として名高い、トパーズという官僚だった。


「……へぇ、意外な顔だな」

「外では見られるわけにはいかなくてな」

「しかし、繋がりましたね」


 王妃であるアート・フェーブルがあの娘を欲している。そう結論付けられた。


「じゃあ、あの子どもを護ってるのは」

「……」

「なるほどな」


 カイとモネは今の政治局面が難しいらしいことが分かった。あの子どもを手に入れた方が、王妃の立場を握ることが出来る。


「我々は、何より王妃様にご恩がある。決して、あの()に手出しはしない。我々の保護下にあの()を置かねば、あの()は」

「俺たちはもう依頼を受けてる。あの子どもを捕らえるってな」

「……どうしても、手を退かぬつもりか」

「そういうことだ」

「金次第で何でもやる傭兵……か。その噂は間違いではないようだな」

「もちろん」

「ならば、死んでもらわねばならない」


 トパーズが合図を送ると四方八方からぞろぞろと兵士が事務所に押し寄せてきた。


「……殺せ」

「団体客はお断りだ!!」


 カイは迫り来る兵士たちを次々と斬り倒していく、モネもまた薙刀を自在に操り、薙ぎ倒す。


「……火をかけろ」


 トパーズの号令で事務所は火の海と化した。


「テメェ……!! 何しやがんだ!!」


 カイはトパーズ目掛けて剣を振った。

 弾かれたが、それは囮であり、本命は左手に握られた短剣だった。脇腹を突いた短剣は鎧ごと肉を貫いた。


「ぐっ……!! このッ!!」


 トパーズは剣を逆手に持ち替え、カイのいる真下に突き刺そうとするが、その前にトパーズは腹から蹴り飛ばされると同時に短剣が引き抜かれる。


「……ここは一先ず退くぞ、撤収せよ」


 トパーズは配下の兵士数人に連れられ事務所を跡にした。


「……火の手が」

「この日を止める手立てはありません、一度避難しましょう」

「モネさん…………分かりました」


 カイとモネも事務所を跡にし、近くの宿屋で一泊することにした。

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