異世界の沙汰も金次第
王都、フェーブル。西洋風の壮観な街並みは一目でここがこの国の中心であることを感じさせる。活気のある商業区、往来の激しい道、その王都にも鼠は潜んでいる。
「待ちやがれーっ!! ガキ!!」
一人の子どもを追う複数の警備兵。
重厚な銀の鎧に包まれた警備兵と貧相―――身軽な格好の少女では、足が違った。それに、路地裏でなんとか生き凌いでいた勘の良さと、身のこなしで、少女にとっては警備兵一人を撒くなど、造作もないことだった。
「へへっ、久しぶりの肉ね」
少女は自分のねぐらに戻ると今日の獲物であるチキンを頬張った。いつもは良くても盗むのが簡単なパンや果物、大抵は残飯を漁っている。それが今日はチキンという大漁だ。
少女は荒々しく肉を貪り、遥か先に見える王都を眺めていた。
~
【カイ傭兵事務所】。
フェーブルの路地の少し奥に、その事務所はある。傭兵とは特定の主を持たず、その場その場で雇い主を変えながら報酬を得る所謂、何でも屋だ。とりわけ、このカイというのは傭兵としては一流だが、依頼するには大金が必要という異質さを持っている。そのため、実力の割には客は少ない。
少し寂れた扉を誰かが開いた。久しぶりの客である。
「……ご依頼でぇ?」
ソファで寝転がっていた青年―――カイがダルそうに体を起こす。
扉を開いたのは銀の鎧に身を包んだ、警備兵であった。
「あぁ。この女を探してほしい」
声は女性であった。なかなか珍しいが、居ないわけでもない。それよりも気になるのが、その装い自体であった。
「それは、国としての依頼? それとも個人的な依頼?」
鎧の女は少し考えて「個人的な依頼だ」と言った。
「俺に依頼するなら、着手金として500万マル。成功報酬1500万マルの合計2000万マルが最低価格ですが?」
マルというのは、この国の通貨であり、少女の盗んだチキンが980マルである。
カイは侮ったような口振りで言葉を続けた。
「たかだか、一般兵に用意できる額とは思えま―――」
鎧の女はなにも言わずに机の上に小切手を置いた。
「好きな額を書きなさい」
「話を聞こう。どうぞ、お掛けになってください。モネさ~ん! お客様です!」
カイは小切手を握り締めていた。
奥からはお茶と菓子を持った少女が現れた。モネと言うらしい。
「どうぞ」
出されたお茶は高級な茶葉を使ったものが香りから分かる。が、鎧を着ているため味を楽しむことはできない。
「お脱ぎになられては?」
「いえ、結構」
「いいならいいんですが……で、ご依頼とは?」
鎧の女の依頼は簡単だった。
「この女を探してほしい」
「……この子は?」
「最近、王都で盗みを繰り返しているガキだ」
写真には、残飯を漁る少女の姿が写っていた。
「そんなに重い鎧を着ているから逃げられるんです。それで? この子を捕まえるだけですか」
「あぁ」
「……それはおかしい。ウチの率直な評判を聞かせてあげてくださいモネさん」
横に座っていたモネが口を開く。
「金次第でどんな悪事も厭わない最低最悪の傭兵事務所です」
「どんなに難しい仕事も達成する最高最優の高級傭兵事務所です」
すかさずカイが口を開いた。
「人探し……しかも子ども一人。そんな簡単な仕事にここを選ぶはずがないんですよ、なにか裏があるに決まっている」
「裏などない」
「どうでしょうか? まぁ、報酬さえ頂ければ構いませんが」
「では、依頼を一つ追加しよう」
鎧の女は一段、声色を低くして言った。
「決して詮索するな」
「きな臭い話ですが、金さえ頂ければ文句はありませんからね。契約成立です」
男は鎧の女と握手をした。
「痛い痛い痛い痛~い!! モネさん、手の皮膚に鎧の隙間が食い込んだようです、今すぐ治癒魔法を」
「はいはい……」
鎧の女は一抹の不安を覚えた。




