第31話 “灰の追跡者”再臨 ― サンクチュアリ・モードと創造の双爪!
――ロスウェル防衛都市、深夜。
霧が街を包み、遠くで警鐘が鳴り響いた。
「――魔物襲撃!? 《灰の追跡者》の群体が南門に出た!!」
ギルド本部が一斉に騒然となる。
冒険者たちが装備を整え、夜の石畳を駆け抜けた。
リオナが窓から飛び降り、くるりと一回転して着地し、鋭く耳を立てる。
「やばいにゃ……五十体、いや六十はいるにゃ! 街まで来るなんて、いつもと違うにゃ!」
「……“群体個体”」
アークが低く呟いた。
「通常個体ノ数倍ノ出力。瘴気、急速ニ拡散中」
リュミナスの瞳が淡く輝く。
「……灰の“声”が聞こえる……“創造者を拒む者たち”……」
その言葉に、タイガが一歩前に出た。
「……つまり、また俺たちの出番ってことだな」
拳を握る。橙の魔力が掌から漏れ、夜気を照らす。
「創造魔法・戦闘展開《TIGER DRIVE》――起動」
橙の虎紋が腕に浮かび上がる。
その瞬間、街の外で轟音が響いた。
外壁の上から見下ろすと――
そこには、灰色の瘴気をまとった無数の異形が蠢いていた。
人と獣の混ざったような身体。赤い光が瞳に宿る。
「……うわ、ホラー映画十本分の圧あるんだけど!?」
タイガがツッコミを入れる間もなく、
《灰の追跡者》たちが一斉に跳躍。
「うおおお、来たぁぁぁ!!」
アークが前に出た。
「防御展開――《鉄壁障壁》」
蒼の光壁が瞬時に張られ、第一波の突撃を防ぐ。
だが、二波、三波と重なる突進に壁が軋んだ。
「アーク! 右側の防壁が破られるにゃ!」
「了解。……対応」
アークの掌から金の魔力が閃き、砲撃のような光弾が炸裂。
灰の追跡者を五体ほどまとめて吹き飛ばす。
「アークたん、ナイスにゃ!」
だが、数が多すぎた。
壁の上を飛び越えた個体が、街中へ落下。
逃げ遅れた子供が目の前に――
「危ない!」
リュミナスが駆ける。
光の幕が彼女の前に展開し、灰の腕を受け止めた。
「……聖域最大展開――《祈りの形態》」
その瞬間、夜空が白金に染まる。
背後に現れた巨大な光輪。
彼女の髪が浮かび、瞳がシルバグレーから金へと変わる。
風も音も沈み込むような神聖な静寂――
リュミナスは祈るように呟いた。
「――穢れは赦し、灰は光に還れ」
金の波動が街全体に広がり、灰の追跡者たちが苦悶の声を上げる。
その身体が崩れ、浄化されるように消えていった。
「おおおおおおお!? これ完全に覚醒演出じゃん!? BGM鳴ってる幻聴が聞こえるぅぅぅ!!」
タイガは感動で震えながら、リュミナスの光の中へと駆け出した。
「よし――リュミナス、援護頼む!」
「ええ、タイガ。あなたの“創造”を、この祈りが支えます」
橙と金が交わる。
その瞬間、タイガの身体から二条の光が伸びた。
「《TIGER DRIVE Ver.second――双爪展開!!》」
背中に二本の魔力爪が浮かび、虎の幻影が咆哮する。
爆風が吹き荒れ、街の闇を切り裂いた。
「うおおおおおぉッッ!!!」
疾走する軌跡が閃光を描く。
一撃ごとに灰の追跡者が吹き飛び、爆ぜるように霧散していく。
アークが戦場の中央で支援射撃を続ける。
「主ノ新技――解析完了。効率、一二〇パーセント上昇。……誇ラシイ」
リオナも影のように駆けながら叫んだ。
「お兄にゃん、やっちゃえにゃ!! 全部まとめてぶっ飛ばすにゃー!!」
「いっけぇぇぇ!! 創造魔法・終式――《TIGER BURST!!》」
双爪が十字に重なり、橙の閃光が夜空を貫く。
群体型の灰の追跡者が一斉に光に呑まれ――
沈黙。
風が止み、白い霧だけが残った。
そして、夜明け。
崩れた街の一角で、リュミナスが光を手のひらに残しながら微笑んだ。
「……祈りは、届いた。灰はもう、光に還ったわ」
タイガは肩で息をしながら笑う。
「やっぱ、こういう熱量こそ異世界だよなぁ……!」
「お兄にゃん、灰まみれで格好つけても台無しにゃ!」
「うるせぇ! これは“バトル後のカッコいい疲労ポーズ”だ!」
アークが首を傾げる。
「主、満足度、上昇。……ニコニコ」
「その報告いる!?」
笑い声が朝の光に溶けた。
その頃、遠くロスウェル郊外。
灰の霧の中で、一つの影が嗤う。
「――“創造者の系譜”が、また一人、芽吹いたか」
白い仮面の男が、ゆっくりと空を仰いだ。
「ならば、“原初の灰”を目覚めさせる時が来たな――」
黒き風が吹き抜け、夜明けの空に不穏な影を残していった。




