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悪役令嬢、断罪の席で呪いを食べます。副題:王都厄落とし屋は本日も満席/ざまぁは胃に優しい順で  作者: 妙原奇天


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8/13

第8話 三本目の匙——河岸の見世物に静けさをよそう

 朝。

 看板の横に下げた真鍮小札《御用厄整》が、薄日に薄塩に光る。

 カウンタの上、小匙が二本——“噛む歯をすくう匙”と“朝の一匙”。その間に吊した風輪が静かに回り、ククが白い星を胸に丸くなる。


 扉の下からするりと滑ったのは、光沢紙の折り冊子。

 表紙には銀の箔押しで**《光務代理店エクラ・増補台本》。副題は「見える奇跡で回遊率UP」。

 めくると、香糸と低周波に加え、焚き火の幻灯、香り煙幕、人垣の煽動句まで整然と並ぶ。

 最後の頁の余白に、小さく鉛筆書き。

『今夜、河岸で“光の屋台”。公開の場で見世物**を。——王太子宮・後援』


「皿をひっくり返す気ね」

 私は冊子を封に戻し、帳面へ一行。“河岸見世物/回遊率UP台本”。


 扉の鐘。

 黒狼隊長エリアスが軽装で現れ、真鍮札を見上げてから、私の小匙二本に視線を落とした。

「昨夜は六時間五十五分。朝の一匙、半量で十分だった。……七時間に届く」

「おめでとう。薄塩は続けることがご馳走ですわ」

 彼は口角をわずかに上げ、折り冊子を受け取る。

「河岸か。回遊率は兵の言葉では混雑だ。転倒の危険が上がる」

「なら、三本目を作りましょう。“れつの匙”」


「列の……匙?」

「列を混ぜ返さないための匙。柄を長く、先端に白石。地面を軽く一拍打つと、歩調が揃う。走らない/声量2/触る前に待つの拍を作るの」

 私は作業台に細長い合金柄を置き、白石を銀糸で固めた匙頭を差し込む。

「名付けて——“列匙れつさじ”。映えないが、胃にやさしい」


 ククが椅子の影からくると鳴いた。星が一瞬、濃く灯る。

「眠り番の承認が出ましたわ」



 昼過ぎ、《ルクス工房》から若い職人が一人、汗を光らせて駆け込んだ。名はミリエル。

 掌には、細い銀の棒と紙やすり、小さな試料片。

「……工房長は謝罪を良しとしません。でも、匙の共同設計はしたい。——“軽さの品位”で勝ちたいんです」

 私は椅子を勧め、灰小鉢と試薬の蓋をずらした。

「工房が外から足す回路をやめるなら、台所に迎え入れるわ。匙は武器じゃない。よそう道具よ」

 ミリエルは真剣な眼で頷く。「列匙、私に一つ作らせてください。白石の音に、鈴の微音を混ぜたい」

「混ぜるのは薄塩で。重ねないで」

 針のようなやりとりの末、工房試作型 列匙・壱番が生まれた。白石頭の裏に極小の鈴玉。

 地に一拍打てば、風のようなちりという微音が、走り出す足の舌を引っ込める。


「パン二斤は工房で持ちます」

「受け取りは明日。——今晚は河岸よ」



 河岸広場・夕刻。

 エクラの屋台群が光を撒き、香糸が橋を渡り、低周波が地の底でぶうと鳴る。

 紙飾りに踊る文字——「映える奇跡!回遊率UP!」

 ——胃もたれの予感。


 私とエリアスは、対岸に**“静けさスタンド”を立てた。

 数字板、白石矢印、灰小鉢、薄薔薇、そして三本の匙**。

 1. 噛む歯をすくう匙

 2. 朝の一匙

 3. 列匙(白石頭+鈴微音)


 黒狼隊が白線を引き、列を二本に。

 合言葉は看板に固定。


走らない/声量2/触る前に待つ


 私は列匙の柄を立て、地にとんと一拍。

 ちり。

 前の靴が半歩だけ細くなる。走りが消える。

 もう一拍。

 ちり。

 歓声が声量2に丸まる。

 数字板の騒音が一目盛、下がる。


 対岸のエクラは香糸を橋の欄干に隠し、幻灯で焚き火を映し、低周波で胸を煽る。

 こちらは灰を吸わせ、白石矢印で風を作り、列匙で拍を取る。

 見せないのに、人は集まる。吐き気のしない方へ。


 肩カメラの男がレンズをこちらへ向けた。

「数字なんて退屈。奇跡は光だよ」

 私は列匙を一拍。ちり。

「奇跡は眠れる夜」

 数字板に青い折れ線。

 呼吸が朝の白湯みたいに丸く、騒音が夕餉の温度になる。



 運用ログ(河岸)


18:05 エクラ屋台点灯/低周波48.2Hz検出。衛兵→音源提示→一台停止。

18:10 静けさスタンド開設。白石矢印設置/数字板稼働。

18:12 列匙一拍→走り低下(目視)/騒音−7%。

18:20 香糸橋欄干より検出→琥珀試薬曇り→灰で吸収→返金=辞退札を結ぶ。

18:35 見物回遊がこちらへ移動。滞在+11%。

19:00 偽焚き火幻灯に人垣集中→列匙三拍+薄薔薇霧微量→呼吸−12%/転倒0。

19:30 王太子宮の旗を掲げた演説台出現→黒狼隊が白線内で歩調整え、声量2へ誘導。

20:05 全体:呼吸−18%/滞在+14%/騒音−16%(当方周域)。エクラ周域(目視):咳・頭痛訴え散見。

20:20 雨粒——香幕が湿気で落ち、代理店撤収開始。

20:40 転倒事故0/救護0/返金札三件(香糸撤去費として)


 ざまぁは拍で起こす。怒号ではなく、三本の匙で。



 片付けに入ったとき、王太子の使いが河岸に現れた。

 旗は風に頼りない。

「公表してはどうだ。王冠の**“改善”とやらを。光は市民のものだ」

「眠りも市民のもの。映さない勇気は公共財ですわ」

 私は朱で札を書き、使いの手に小匙の柄で挟ませた。

『受領不可/返金=辞退。人→祈り→光。数字でどうぞ』

 エリアスが列匙を一拍。ちり。

 使いの靴が半歩**、引いた。



 店に戻ると、ミリエルが待っていた。

 掌に二番。

「工房で揉めました。“映える匙”を作れと。……でも、私は映えない匙が好き。列匙の二番、鈴を薄く改良しました」

 私は試作を握り、地に一拍。

 ちり。

 店の空気が一度、丸くなる。

「採用。パン二斤は三斤に上乗せを」

 ミリエルは笑って、泣きそうな顔になった。

「軽さの品位で勝ちます」



 遅い夜、小匙は三本になった。

 1. 噛む歯をすくう匙(こじれを救う)

 2. 朝の一匙(後悔を薄める)

3. 列匙(歩調をそろえる)


 エリアスが扉口で立ち止まり、短く言う。

「……七時間、いけそうだ」

「起き際に薄塩を半分よ。明日に腹を空けておくの」

 彼は一歩、近づいてから半歩で止まり、列匙の柄に指を添えた。

「君が泣いたら、拍を取る」

「泣く日は、パンを四斤焼きますわ」

 ——恋はまだ薄塩。でも、拍が合う。


 ククが星を胸に、眠り番。

 私は帳面に今日の皿を書き、灯を落とした。


本日の記録

・河岸見世物対策:静けさスタンド/列匙導入→呼吸−18%/滞在+14%/騒音−16%/転倒0

・代理店エクラ:増補台本→香糸撤去/返金札3/低周波1台停止

・ルクス工房:若手ミリエル合流/列匙・壱番/二番試作→採用/軽さの品位方針確認

・王太子宮:公開要求(河岸口頭)→受領不可札交付

・黒狼隊:白線二列/列匙拍で走り抑制→救護0

・エリアス:睡眠6h55m→目標7h

・クク:眠り番(鳴き0)/列匙音に同調

・器:**三本目“列匙”**運用開始(白石頭+微鈴)


<次回予告>

王宮内協議で工房が割れ、代理店が撤退費を請求。数字と匙で支払いの皿を並べ替える。そして——黒狼隊長、七時間達成の朝に一匙ぶんの告白。

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