11 推敲✧︎
レジ机の上には、『コンビニ人間』が置きっぱなしになっている。
もう一度、読み直そうかなぁ……。
うーん。
わたしは、初めて『コンビニ人間』を読んだ日のことを追懐していた。
そう。
当時、中学2年だったわたしは……この作品はマイノリティへの……わたしへの応援歌だ! と思い込み、大いに胸を熱くさせたものだった。
“世間がなんと言おうが、アナタはアナタだ! 人の目なんて関係ない! 自分の価値観を信じて生きろ!”そんな沙耶香様のメッセージを感じていた。
そして、そんな声援を、孤独な弱者に届けようと、彼女は一人で戦っているに違いない。今も一人で──キーボードをカタカタと叩きながら!
そんな沙耶香様の姿を脳裏に浮かべ、一人静かに感動していた。
当時のことを思い出し、クスリと笑みが零れ落ちる。
何故ならその翌日、図書館で彼女が特集されている雑誌を片っ端から読み漁っていると、インタビュー記事の中に、こんな一文を見つけたからだ。
──「私はあまり、作品にメッセージを込める方じゃないんですよねぇ。『コンビニ人間』も強いて言えば、働く喜びを伝えたかっただけで……」
この記事を読んだときは、大いにズッコケたものだ。
だけど、今となってはそんなことも笑い話。
わたしは、カウンターの上で鈍くベージュに輝くMac Bookに視線を向けた。
高校の入学祝いに、両親に買ってもらったノートパソコン。
わたしも小説を書こう! そう思って買ってもらったものだった。
わたしも沙耶香様のような作品を書きたい。生きづらさを抱える人の声を伝えたいっ! その一心で必死に懇願して手に入れたMac Book……
うーん。
沙耶香様作品を読み直すのもいいけれど……自分の作品をもう一度、読み直して推敲しよう。
そしてわたしは自分の書いた小説を、頭から読み返し始めた。
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……うん……。
自分でも何を書きたいのか、全く分からない!
でも、沙耶香様っぽいテイストは出せた……かな?
そんなことを思いながら、ふと、壁の時計を見上げると、時刻は19時半。
沙耶香様作品を、もう一つは読めそうだ。
『コンビニ人間』もいいけど……他の作品もいいな。
──例えば『マウス』。