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第56話 底なしの流砂遺跡と、砂漠の巨大フェネック

 



 グランヴェル財閥・ワケアリ不動産本社要塞。

 氷の聖地を更地にした余韻も冷めぬうちに、今度は砂漠の国『サハラッド』の特使が、衣服を砂まみれにして転がり込んできた。


「ロ、ロイド社長……! 我が国の聖域である『古代太陽遺跡』を、どうか、どうか買い取っていただきたい……!」


 提示された映像には、黄金の砂丘の中に埋もれた、荘厳な石造りのピラミッドが映し出されていた。


「ふむ。砂漠の古代遺跡、ですか。ロマンに溢れた、非常に価値のある不動産ですね」


 ロイド・グランヴェルは、キンキンに冷えた炭酸水にライムを添えながら、優雅に微笑んだ。


「ロマンなどと、そんな悠長なことは言ってられんのです! あの遺跡は数ヶ月前から、突如として周囲数キロメートルに及ぶ『底なしの流砂』に飲み込まれてしまったのです! 踏み入れた発掘隊も、最新の魔導戦車も、すべてが砂の底へと引きずり込まれ、二度と戻ってきません!」


 特使は、震える手でハンカチを握りしめ、顔の汗を拭った。


「あの流砂のせいで、遺跡に眠る貴重な古代兵器の回収もできず、周辺のオアシス都市は砂に飲み込まれる恐怖に怯えています! すでに幾人もの高名な地属性魔導士が解決を試みましたが、彼ら自身が砂の藻屑となる始末……。もはや死を待つだけの『黄金の地獄』です! 処理費用はこちらで負担します、権利はタダで差し上げますから、どうか……!」


 踏み入れば最後、地の底へと引きずり込まれる底なしの流砂。


 (ふっふっふ、いくら財閥でも、地形そのものが『流動』する砂漠の猛威はどうにもできまい。そのまま砂の底に沈んで、一生かけて遺跡の発掘でもしているがいい!)


 そんな浅ましい計算など、ロイドと、背後に控える秘書官のクラウスには筒抜けだった。

 しかし、その話を聞いていたロイドの瞳は、砂地獄への恐怖など微塵もなく――サラサラとした『歓喜』に満ち溢れていた。


(周囲数キロメートルを飲み込む、巨大な流砂の渦。そして、遺跡の深部からリズミカルに噴き出す、きめ細やかな砂のシャワー……!?)


 冷徹なビジネスマンの仮面の下で、ロイドのモフモフセンサーが砂丘を突き破るほどの警報を鳴らしていた。


(何らかの巨大な意思が、意図的に砂を掘り起こし、転がり、遊んでいる……。この流砂は、ただの災害ではない。これは究極の『砂浴び』の結果だ……!!)


「素晴らしい……!」


「ひっ!? な、なにが素晴らしいのですか!?」


 歓喜の声を上げたロイドに、特使が腰を抜かした。


「間違いない! 『底なしの地獄』などという不吉なものではありません! その中心には、遺跡を最高の砂風呂として独占し、豪快にゴロゴロと転げ回っている、極上のサラサラ系モフモフ……砂漠の妖精(巨大フェネック)がいるに違いありません!」


「は……? ふぇ、ねっく……?」


「顔の半分ほどもある巨大な耳! 砂粒一つ絡ませない、驚異のサラサラヘアー! そして、砂遊びを止められないその無邪気な好奇心! ええ、契約しましょう。その無料の流砂物件、我が社が喜んでお引き受けいたします」


 ロイドは流れるような動作で契約書を完成させ、呆然とする特使を「お口の中がジャリジャリしませんよう」と優雅に追い出した。



***



「……ロイド様。あのような物理的に『沈む』土地、転売の価値があるのですか?」


 特使が去った後、クラウスが無表情のまま尋ねた。


「当然です、クラウス。あの男は、自分がどれほどの宝の山を手放したか理解していません。……魔獣フェネックを保護し、お家芸で『流動化している砂の分子』だけを綺麗に固定して更地にすれば、後に残るのは『一切の汚れを許さない、世界一サラサラな黄金の砂漠リゾート(更地)』です。最高級のサンセット拠点になりますよ」


 流砂を更地にする。

 一介の不動産屋が口にしていい規模の物理法則への反逆ではないが、財閥のトップエリートである彼らにとっては、少し多めの砂掃除程度の認識である。


「なるほど、完璧なビジネスですね。……ところで、ロイド様。先ほどの特使の背後関係ですが」


 クラウスは手元のタブレットを操作し、その無表情の奥に、砂漠の熱風よりも熱い殺意を宿した。


「あの特使。裏で『虚空の開拓者ヴォイド・パイオニア』から最新の『発掘型魔導機』の提供を受けています。流砂に紛れて遺跡の古代兵器だけを秘密裏に回収し、黒幕に横流ししようとしていた痕跡がありました。……彼らもまた、オーディンの計画に基づく『古代技術の独占』を狙っているようです」


「……おや、そうですか」


 ロイドは、極上の微笑みを浮かべた。

 しかし、その瞳の奥には、太陽光を反射するナイフのような鋭い殺意が静かに渦巻いている。


「都合がいいですね。私の愛する家族(大きな耳の天使)を、砂風呂の邪魔をして追い出そうとする無粋な輩。……極上のサラサラフェネックを保護しつつ、同時に目障りな密輸団の利権を、我が社が合法的に『経済的抹殺(発掘権の乗っ取り)』して差し上げましょう」


「ええ。では、R&Dに命じておいた【完全浮遊・防塵気密循環スーツ】と、私用の『砂粒全自動弾き飛ばしコロコロ』の準備に入ります」


「頼みましたよ。さあ、視察に向かいましょうか。新たなる家族(砂漠の大きな耳)のお迎えです!」


 踏み入れば即座に底なしの砂に沈む、黄金の地獄へ。

 エレガントな御曹司と、戦闘特科トップの冷徹な秘書官は、究極のサラサラモフモフと、不埒な盗掘者の首を求めて、優雅な足取りで燃え盛る砂漠への旅路を出発した。




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