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第41話 火の粉舞う廃鉱山と温泉好きの不死鳥

 



 グランヴェル財閥・ワケアリ不動産本社要塞、最上階の応接室。


 その豪華絢爛なソファにふんぞり返っていたのは、十本の指すべてに趣味の悪い宝石の指輪を嵌めた、脂ぎった小太りの男だった。

 彼は大陸有数の魔導鉱石の採掘権を牛耳る、『巨大鉱山ギルド』のギルド長である。


「いやあ、若き敏腕社長に直々にお会いできるとは光栄の極みですな。本日は、我がギルドが所有する『歴史ある魔導鉱山』の権利を、格安で譲ってやろうと思いましてな」


 揉み手をして卑屈な笑みを浮かべながらも、その奥にある「世間知らずの金持ちの若造を騙してやる」という下劣な欲望は、ロイド・グランヴェルの目には完全に透けて見えていた。


「ほう。歴史ある鉱山、ですか」


 ロイドは洗練された所作で紅茶を一口飲み、優雅に微笑んだ。


「ええ! かつては最高品質の魔力石炭がザクザクと採れた、素晴らしい山でしてね。……ただ、少々『熱気』が強すぎるようになりましてな」


 ギルド長は、わざとらしく溜息(ためいき)を吐き、忌々しそうに顔を歪めた。


「数ヶ月前から、突如として坑道の奥底から凄まじい量のマグマが湧き出し、山全体が『灼熱の地獄』と化してしまったのです。おまけに、火口からは定期的に『超高熱の巨大な火球』が意思を持っているかのように雨あられと降り注ぐ始末。……今や、近づく採掘者を一瞬で灰に変える『呪われた火球の廃鉱山』ですわ」


 ギルド長は、ジャラジャラと指輪を鳴らしながら机を叩いた。


「現在、その山から噴き出す有毒ガスと火球のせいで、国から『周辺環境の回復費』と『火口の完全封鎖工事費』を莫大な額で請求されておってな。まったく、自然災害の責任をこちらに押し付けるとは忌々しい! だが、あらゆる事故物件を更地にする君たちの会社なら、この山も上手く処理できるだろう? 本来なら白金貨数万枚は下らない土地だが、今回だけは特別に、引き取り手数料として私から『金貨百枚』を払ってやろう!」


 莫大な負債と、国からの重い処分をすべて押し付けつつ、金貨百枚という端金で恩を着せようとする悪徳ギルド長。

 (ひっひっひ、いくら財閥だろうと、自然のマグマと空から降る呪いの火球はどうにもできまい! せいぜい丸焦げになって国から絞り取られるがいいわ!)


 そんな浅ましい計算など、ロイドと、背後に控える秘書官のクラウスはとうに察している。

 しかし、その話を聞いていたロイドの瞳は、負債への恐怖でも怒りでもなく――極限まで高まった『歓喜』に打ち震えていた。


(突如として湧き出した、膨大なマグマ。そして、一定の間隔で雨あられと降り注ぐ、意思を持ったかのような巨大な火球……!?)


 冷徹なビジネスマンの仮面の下で、ロイドのモフモフセンサーが限界突破の警報を鳴らしていた。


(自然の活火山ならいざ知らず、休火山が突然これほどリズミカルに火球を撒き散らすなどあり得ない! それはまるで、巨大な生物が水浴びの後に『ブルブルと体を震わせて水滴を飛ばす』のと同じメカニズム……!!)


「素晴らしい……!」


「お、おう? なにが素晴らしいんだ?」


 ロイドはガタッと立ち上がり、身を乗り出した。


「間違いない! 『呪いの火球』の正体は、熱々のマグマを岩盤浴か露天風呂の代わりにしてくつろいでいる、巨大な火属性の魔獣! そしてブルブルと羽ばたいて火の粉(汗)を飛ばしているということは、それは鳥型……すなわち、極上の『天然ヒーターを内蔵した、巨大なぽかぽか羽毛布団』です!!」


「は? なにを言って――」


「ギルド長、お話は分かりました」


 ロイドはギルド長の言葉を遮り、優雅に脚を組み替えて契約書を取り出した。


「我がワケアリ不動産が、その灼熱の廃鉱山の権利と不良債権を『丸ごと』引き受けましょう。国からの罰金も、マグマの処理も、すべて我が社が責任を持ちます。……金貨百枚、確かに頂戴いたしました」


「や、やった! これで厄介な火の山はすべてお前たちのものだ! せいぜいマグマの藻屑となるがいい、若造め!」


 ギルド長は引ったくるようにペンを取り、サインを書き殴ると、逃げるように要塞を去っていった。



***



「……ロイド様。あのような国から目をつけられている危険な活火山、転売の価値があるのですか?」


 男が去った後、クラウスが無表情のまま尋ねた。


「当然です、クラウス。あの男は、自分がどれほどの宝の山を手放したか理解していません。……魔獣を保護し、お家芸で『有毒ガスと危険な岩礁』だけを綺麗に吹き飛ばして解体すれば、後に残るのは『絶対に冷めない、極上の天然マグマ露天風呂(更地)』です。最高級の温泉リゾート拠点になりますよ」


 山を爆砕して、温泉だけを残す。

 一介の不動産屋が口にしていい規模の地形改変ではないが、財閥のトップエリートである彼らにとっては、少し大掛かりな大掃除程度の認識である。


「なるほど、完璧なビジネスですね。……ところで、先ほどのギルド長の件ですが」


 クラウスは手元のタブレットを操作し、冷たい目を向けた。


「あのギルドの裏帳簿を少し『覗き見』したところ、先日我々が壊滅させた密猟シンジケート『黒の鎖』に対し、採掘した魔力石炭を違法なルートで大量に横流ししていた痕跡がありました。……彼らもまた、国家の裏で甘い汁を吸う『巨大な黒幕』に連なる末端のようです」


「……おや、そうですか」


 ロイドの瞳の奥で、絶対零度の冷酷な光が僅かに瞬いた。

 先日、愛する巨犬を痛めつけていた巨大な闇の組織。その根っこが、思いがけないところから繋がってきたのだ。


「都合がいいですね。極上のヒーター付き羽毛モフモフを保護しつつ、同時に目障りな黒幕の資金源インフラを、我が社が合法的に『経済的抹殺(乗っ取り)』できるということです。一石二鳥の完璧な物件ではありませんか」


「ええ。では、R&Dに命じておいた【完全耐熱・極寒冷却循環スーツ】と、私用の『耐火・発火防止アクロバットコロコロ』の準備に入ります」


「頼みましたよ。さあ、視察に向かいましょうか。新たなる家族(ぽかぽか羽毛布団)のお迎えです!」


 人を灰にする火球が降り注ぐ、灼熱の廃鉱山へ。

 エレガントな御曹司と、戦闘特科トップの冷徹な秘書官は、究極の天然ヒーターモフモフを求めて、優雅な足取りで炎の中への旅路を出発した。




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