最終話 命を大事に
戦闘が終わった後、僕達に近づいてくる男性があった。
「よぉ久しぶりだな、アリス」
「あっ、団長……」
それはかつてボクが所属していたルイス猟団の団長。
ドードーというコードネームを名乗っているが正体はお父さんの後輩転生者、ユーゴさんだ。
ボクとケイト姉、リリィ姉が生まれた時は同時に産気づいたお母さん達を見ておろおろするお父さんを大いに助けていたらしい。
団長はボクを睨み、そしてエミールに言った。
「小僧、しっかりとこいつの手綱を握っておけ」
「え?」
いや、手綱って馬じゃないんだから。
「こいつのきょうだいは人助けが好きだ。だが自分の命を天秤にかけた時、自分の命を危険に晒してしまう悪癖がある。こいつに至ってはそれにためらいが無い。ある意味、自殺に近い衝動を持ってやがる」
「団長、そんな言い方」
「馬鹿が!そうやってどれだけ大勢を心配させてきやがった!お前の親父さんも同じだ。自分の命を大切にしない時がある。今回はたまたまお前の母親が予知して戦力を動かせたから良かったがそれが無ければどうなってたと思う!?」
確かに、右腕が不自由になった戦いでもボクは相手と相打ち覚悟で時計塔から飛び降りた。
他の姉妹にしても戦いの中で自分が傷つくことを厭わない傾向がある。
「よく考えろ。自分もまた、誰かにとって大切な存在なんだってな」
「……うん」
団長はボク達に背を向け歩き出す。
少し遠くから見守っていた他の団員達はボクに手を振りながら彼について去って行った。
「…………耳が痛い話だったわね。確かに、私も気をつけないとね」
「リリィ姉……」
「今の私は戦いから結構遠ざかった生活をしているけど確かにユーゴさんが言っていたような性質はあるわ。でも、それで私が死んだりしたらヒイナは母親を亡くすわけだし……それに、ユリウスが餓死するわ」
「いや、流石に餓死とまでは行かないでしょ……」
まあ、リリィ姉は彼が一人暮らしをした辺りから度々通って料理を作ってたからなぁ。
何が驚きってそれしてた当時、まだ『付き合ってない』状態だからね。
「甘いわね。あの人、未だに殆ど料理が出来ないのよ。調べたら『料理センスLv-2』なんて持ってたわ」
マイナスレベルのスキルなんて初めて聞いたよ。
もしかしてあいつ、本当にすごい奴なんじゃ……
「ねぇ、リリィ姉に聞いてみたかったんだけど味付けの事でユリウスから何か注文されたことある?」
「たとえば?」
「母親の味付けが良かったとか」
ボクの言葉にエミールがギョッとした表情になる。
「ああ、あったわね。何かスープの味付けがどうだのって」
「それでどうした?」
「3日間口を利いてやらなかった。それで困ったあの人ったら母親の所に相談に行ってボコられて帰って来たわ」
うわ、想像しただけで地獄の様な光景だ。
ボクの横ではエミールが青い顔をしている。
「もしかしてあんた……なるほど、何でこんな所に居たのか気になってたけどこの騒ぎの大本って夫婦喧嘩か」
「いや、喧嘩はしてなくてボクは成り行きで家出する羽目になっちゃったんだけど」
「流石は私の妹ね。ねぇ、エミール。あんまりアリスを困らせないでよね。我が家の姉妹は家出すると大事になるんだから」
かつて異世界へ家出した張本人が言うと思意味が違うなぁ。
ちなみにもうひとりの家出者は妹のメール。
こっちは家出というか『自分より強い奴に会ってくる』と内乱中の国へと渡って行った。
結果として怒り狂ったアンママが追いかけていきその過程で10年続いた内乱が終結したというのだから驚きだ。
「確かに……今回のは何の気なしに言っちまった事だけど反省してます。ごめんな、アリス」
「あはは、もういいよ。まあ、それでも味付けに関してはちょっと色々変えてみようかな。それこそマムのを参考にしたりしてね。だから、君にはいろいろ味見してもらうよ」
「お、おう」
「何かよくわからないけどいい感じに収まったみたいね……」
いや、だから最初からそんな波は立ってなかったんだって。
まあ、それでも早いうちにこうやって話が出来たのは良かったかも。
□
それから、ボク達はストローンにあるキャスリーンさんの家に集まった。
リリィ姉は残してきた旦那と娘が気になるからって馬を走らせて先に帰って行った。
久々に会えてちょっと嬉しかったな。
一方、お母さん達は久々に昔の友人と会えて盛り上がっていた。
「久しぶりだねぇ、キャス!!」
「ああ、リゼット。お前、家に連れ込んだあの男と結婚したそうだな。おめでとうさん」
「うぇ、つ、連れ込んだって……まあ、間違っては無いけど」
「まあ、3番手っていうのがお前らしいよ。やはりアンジェラが1番手になるって賭けてたあたしの勘は正しかったな」
「ちょっとキャス。あなたそんな賭けしてたの!?」
笑うキャスリーンさんに抗議するアンママとお母さん。
ああ、何か友達って感じでいいなぁ。
そう言えばもうひとり、メイママも友達のはずだけど……
「ストローン名物リンゴのパイ!何十年ぶりでしょうか。ほんのりとした甘さが癖になるんですよね!!」
食い意地が勝っていた。こういう所はぶれないなぁ。
ついでに妹のメールも食い意地が張っており出されたご馳走を頬張った挙句。
「ああ、もうっ!そんな一度に食べるから喉に詰めて!ちゃんと噛んで小さくして、飲み込んでから次のを口に入れるんですよ?本当に何をやってるんですかこのバカ姉は……」
末妹に背中を叩いて貰っていた。
この娘達、仲が良いよね。
というかボク達は一応一通りの礼儀作法は仕込まれているはずなんだけど、何故かメールだけ野性的なんだよなぁ。
何でこうなった?
「あの、アリス……」
「どうしたの、クック?」
「その、さっきは夫を助けてくれてありがとう。アリスが居なかったらどうなってた事か」
「いや、ボクだけではどうしようもなかったよ。クックやエミールが助けに来てくれて、その後あのオーバーキル軍団が現れたから死者が出なかったけど」
結局、ボク自体はあまり役に立たなかった。
剣聖の称号も返さなきゃな……いやまあ、別に免許制ってわけじゃないけど。
愛刀も実家に置いてきているし、あの子誰かが使ってくれたら嬉しいんだけどね。
やっぱり今のボクに似合うのは剣じゃなくて包丁だね。
「そう言えばクックって弓使いだったんだね」
「えーと、ちょっと昔狩りをしていた時期があって……一応アーチャーの資格は持ってるの」
馬上で撃ってたから技量的には更に上のレベルな気がするけどな。
多分、弓術Lv3以上はありそう。
「そっか。昔は弓も使えたけど今じゃこの身体だからなぁ」
やっぱり右腕に少し未練はある。
まあ、そんな事を言っても仕方が無い。
「ねぇ、クック。もし良ければ友達になってくれないかな。それで、お互い子どもが出来た時は協力し合おうよ。子育て同盟の結成!」
「アリスさん……ええ、喜んで!!」
こうしておふくろの味に端を発した家出騒動は実家の家族たちを巻き込み、最終的にボクとクックが同盟を結んで終結した。




