第3話 同盟思案
応接間でゆっくりしていると誰かに見られているような気配を感じた。
いや、これはいるよね。どこかわからないけど確実に誰かが見てる。
「…………えーと、そこに隠れている人。わかってるから出て来てよ」
すると壁の一部が反転して気弱そうなショートカットの女性が姿を見せた。
え、何この家?
「嘘……完璧に隠れてたはずなのに!?」
「ボクは壁がぐるっと反転した方が信じられないよ。それで……えーと、この家の人かな?」
女性はコクコク頷く。
「えーと、ボクはレーギュラン・レム・アリソン」
「わたしはクックリー……この家の、娘」
「それじゃあ、キャスリーンさんの」
「娘……です。あの、も、もしかしてあなたはエミールの?」
「うん。僕はエミールの妻だよ……えーと、何かマムと一緒に家出することになって……お世話になっています」
「家出……はぁ。彼ったら何したんですか?」
聞けば彼女はエミールとは幼馴染。
また、子育て同盟を結んだ家どうしなので兄妹みたいなものらしい。
ボクはマムと家出に至った経緯を説明した。
「あー、やらかしちゃったなぁお兄ちゃん……」
クックリーは顔を片手で覆いため息。
「アリソンさんは……」
「あ、みんなは『アリス』って呼んでるからそれでいいよ」
「それじゃあわたしも『クック』って呼んで下さい。あの、そんな事言われた割にアリスさんはあんまり怒ってないんですね」
「いや、確かにちょっとイラっとはしたし、ちょっとつれない態度はとったけどさ。まさか家出騒動に発展するなんてボクも驚いているよ」
「アリスさん、不満をため込む人?」
うーん。確かにそうかもしれない。
元々不満だとかは飲みこんでしまう癖があったと思う。
それが頂点に来た結果が『もうひとりの自分』と『酒乱』だ。
まあ、『もうひとりの自分』は消えてしまったし、お酒に関してもエミールのおかげで飲まなくなった。
「そうかもしれない」
「ダメだよ。そういうの。身体によくない。それにアリスさんは遠くから来たんだよね?近くに頼れる知り合いもいない状態でそれだといつか疲れ切っちゃうよ」
彼女の言う事も一理ある。
あっちでは家族が常に傍で支えてくれてたからなぁ。
「…………ああ、そうか。多分そういう事だ」
クックはひとりで何か思い至って様で納得している。
「うぇ?、何が!?」
「あの、実はわたしも最近、結婚したんです。それで母から将来の事を考えて『子育て同盟』を結ぶ相手を探すよう言われたんだけど……その、わたし昔から友達とかいなくて。それで……」
「あー……」
ボクも何となくわかった。
マムがキャスリーンさんの所に連れてきたのはエミールを懲らしめる為でもあると思うけど、それ以外に……
「君と子育て同盟を結んだらどうかって事かぁ」
「うん。多分」
友達が居なくて困っているクックが子育て同盟を結べるようボクを連れてきたんだ。
「あの、だけど初対面でそんなのって、やっぱりおかしいだろうし……アリスさんも迷惑だよね?」
確かに初対面でいきなり同盟とは……ちょっとハードル高い。
とは言えボク自身、『子育て同盟』で育った子だからなぁ。
あれの大切さは身に染みて分かっている。
何かしらの壁にブチ当たった時、気軽に相談できる相手が居るというのはとても重要な事だ。
近年では同盟を結ぶ若い人が減ってきているがその結果、時々子どもを死なせてしまうなど悲劇的な事件が起きていると聞く。
やっぱり必要じゃん。
実はボク自身、元々友達は少ない。
レム家の子ども達はきょうだい間の結束が強く結構内向的な傾向があるので友人が少ない子が多い。
例外的に友達が多いのは一番上のケイト姉。
あの人の社交性は見習わなくてはいけないと思う。
この旧ミアガラッハ領でならば友人は皆無。
せいぜい『顔見知り』が数名出来た程度なのでボク自身も『子育て同盟』をどうしようか困っている。
これが遠方に嫁いだ時にぶち当たる壁ってやつだ。
さて……どうしたものかな。




