第2話 母達の旧知
今回登場したキャスリーンは『破界の聖拳使い』で一行だけ存在が語られた『花屋のキャス』というキャラです。
1時間後。
ボクはマムと共に馬車に乗っていた。
「えーと、マム。これは一体」
「家出です」
「家出ですよね……ってうえぇぇ!?な、何で家出!?」
マムは大きくため息をつく。
「本当にごめんなさいね。まったく、母親としてこんな恥ずかしい事はありません」
「えーと、話が見えないんですけど」
「いいですか?これ『敬意』の問題です。妻の料理にケチをつけて、挙句母親の味を求めそれを作らせようとするなんて……本当に情けない!『敬意』が不足しています」
あれ、これってマムはエミールに対して怒ってる?
「そ、そんな敬意とか大層な。ただ母親の味が好きなだけで……」
「あなたはリゼットに似て自分の気持ちを封じ込める癖があるみたいね。確かに結婚生活において忍耐も大切になる時はあるでしょう。ですがやはり『敬意』は必要です。自分の家の味が懐かしいのもわかります。ですが『相手の一族に敬意を払え』。これがナダ男性の嗜みなのですよ?」
知らなかった!
そもそもウチの父親は異世界人。
ついでにお母さん達の料理大好きな人だからそういった問題はなかったと思う。
ならボクと同様、結婚して家を出たリリィ姉はどうだろう?
彼女の夫は生粋のナダ男性だ。
ただ、よく考えたら彼はリリィ姉をほぼ全肯定しちゃう人だからやっぱりそういった問題はなさそうな気がする。
「わたしも夫と結婚した時に同じような事を言われました」
「その時マムはどうしたの?」
「勿論、『敬意が無い』と、2週間家出しました」
「うぇぇぇ!?」
もしかしてこの人、ウチの親戚とかじゃないよね?
いや、待てよ。我が家で家出経験があるのは次女のリリィ姉と四女のメール。
二人とも母親は確かこの地方の出身。
という事は……まさかこの地方の女性って家出する文化があるとか。
「旧ミアガラッハ領の女は夫と揉めると家出して懲らしめる文化があるんですよ。文化には『敬意を払わなくてはならない』のです」
やっぱりそうだ!
文化っていうかもう遺伝子に刻まれてるよね?
だからあの二人は家出したのかぁ。
リリィ姉なんて異世界家出だったからなぁ……まあ、あの時は結婚してないけどね。
あ、でもあの家出の原因を作った男が今の旦那だよね。
「それで、この馬車は何処へ?」
「とりあえずは私の知り合いの所へ」
□□□
マムに連れられて到着したのはストローンという街にあるお屋敷。
「おや、ネージュじゃないか。久しぶりだな。そっちの子は……」
「息子の嫁です。リゼットの娘ですよ」
「へぇ、リゼットの。確かによく似てるな。はじめまして、キャスリーンだ。こいつやリゼットとは旧知の仲でな」
「ついでに言えばアンジェラやメイシー達とも知合いですよ」
我が家の母親たちの名前が出てくる。
「はは、懐かしい名前だな。あの頃は街で噂になってたもんな。『大型新人のハーレム』って」
「えっとそれって……」
「あいつ何て名前だっけ。確かナナシとか呼ばれてたよな……」
「お父さん!?当時そんな風に言われてたの!?」
「へぇ、それじゃあ結局あいつを射止めたのはリゼットだったわけだ」
「えっと、実は……」
結局その『大型新人ハーレム』の構成メンバー全員とお父さんが結婚したこと。
皆で仲良く暮らしておりボクの母親は3番手だってことを話す。
「そうか、リゼットの奴。あのアドバンテージで3番手か……」
「当時は誰が1番手になるかで賭けやっててリゼットが一番でしたからね」
「ああ。アンジェラがぐいぐい行くタイプだからあたしはあいつに賭けてたけどな」
拝啓、故郷のお母さん達。何か賭けの対象になってましたよ?
まあ、確かにあのアドバンテージで3番手に落ち着いたお母さんは何というか……ちょっとヘタレだ。
「それでネージュ。あたしの所に来たってことはあれか?また旦那と?」
「いえ。今回はウチの息子がこの娘に対して『敬意を欠く行動』をしたので」
「ああ、なるほどな。エミールの奴、やらかしたわけだな。まあ、弱冠マザコンの気がある子だったからな…………ああ、あたしはネージュと『子育て同盟』を結んでいたからな。エミールの事もよく知ってるんだ。息子みたいなもんだからな」
子育て同盟。
子を産み育てるにあたって仲の良い女性と同盟を組み共同で子を育てるというナダ共和国の習慣。
この習慣が出来たのはかつて戦火で多くの男性が亡くなった背景も影響している。
互いに助け合い、次の世代を育てていこうという素敵な風習だ。
ちなみにウチの家では普通に3人の母親が同盟を結んでいる状態。
それでいて家族という関係も結んでおりその繋がりは非常に強い。
「まあ、エミールにはいい薬になるだろう。ゆっくりして行くと良い」
「あ、はい……」




