2
「この短い時間で、敵の特徴を把握し対処法を練る……か。まだ小娘じゃというのに、やりおるのぉ」
湿地に生い茂る草が、風に吹かれザワザワと音をたてる。灰色がかった沼地から、またも異形種が飛び出した。ナツメの方に向かってくる。
「くそ!」
スティレットを掲げ防御するが、防ぎきれずナツメは衝撃で倒れこんだ。異形種は、またも木道を飛び越え反対側の沼に潜り込もうとた。
その時を待っていたかのように、ミアが左手の中指から鉄線のような糸を発射した。糸は異形種の着地した沼に突き刺さり、きりきりと長く伸びていく。
「捉えた!」
ミアは左手を胸のあたりに持ち上げる。糸が巻き上げられ、沼からミアのニーベルングに束縛された異形種が引っ張り出された。
「キャロルさん!」
「分かってる!」
釣り上げられた魚のように空中に静止する異形種に向かってキャロルが跳躍する。
「おりゃああああっ!」
キャロルのヘリオスが光り輝き、筋力を跳ね上げた拳が異形種の胴体に直撃した。
「グギュウゥゥ!!」
黒い物体は奇声を上げながら沼地に落ちた後、動かなくなった。
「おぉー。オニモグラを倒しおったか」
マリーがさも天晴れ、と言いたげな薄笑いを浮かべる。ナツメは用心しながら、ピクリともしないオニモグラに近づいていった。
オニモグラは全長一メートルくらい。全身は泥にまみれた毛に覆われ、口元には鋭い牙が伸びている。
「こいつが、オニモグラか……」
「ナッちゃん。ナッちゃん!さっきの僕とミーちゃんのコンボ見た?凄くない?」
「あ、ああ。ナイスだ。キャロ、ミア」
ナツメが二人を褒めるとキャロルは「もっと褒めていいよ!」と言い、ミアは照れ臭そうに「そんなこと……ないです」と紅潮した。
その後も、ピエスコ宮殿に到着するまで二体のオニモグラに襲われる羽目になったが、キャロルとミアの連携で難なく撃退することが出来た。
やはり、ミアがパーティーに加わってくれたことがデカい。俺とキャロルだけだったら、到底この遺跡にはたどり着けなかっただろう。
ふと、視線を感じた。マリーだ。彼女の瞳には、どことなくナツメを小馬鹿にするような色が宿っていた。
ナツメはキャロルとミアに「宮殿に入る前に少し休憩しよう」と言い残し、マリーの元へ歩いていく。
「なんだよ?何か言いたげだな」
「いやな。両手に花とはいえ女子にばかり戦闘させるのは男たるもの、どうかと思うただけじゃ」
マリーの言葉が矢のようにナツメの心に刺さる。
——言われなくても分かってんだよ。だけど、俺のスティレットは護身にすら心持たない代物だ。そして俺の宝具は、感情が激しく高ぶった状態でないと発動できないときてる。
「……俺だって、この銃さえ使いこなせれば」
「銃とは腰に下げとるエリュシオンのことをいうとるのか?」
マリーはしげしげとナツメの腰に下がったホルスターを眺める。
「なんで……エリュシオンのこと知ってるんだ?」
「わらわは千年の時を生きる犬神マリーじゃぞ。それくらいのこと知っておるのは当然じゃ。わらわ自身も宝具使いじゃしな」
マリーはポケットから何やら取り出し手のひらに載せた後、ナツメに向かって腕を伸ばした。
彼女の手のひらには虹色に光る球体状の物体が載っている。その球体が光を放つと同時に、先端が渦状になったロッドに変化した。
「それって……」
「ロッド型の宝具『ディオーネ』じゃ。普段は先ほど見せたように小さなビー玉くらいの大きさに戻せる。持ち運びに便利じゃろ?」




