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 目的地の住所には古めかしい古物店が建っていた。窓ガラスが曇っているため、店内の様子は窺い知れない。

 隣接する建物や住宅とは、異質のオーラを放っている得体の知れない店。ナツメはドアの前で、冷や汗が流れるのを感じた。

「だ、大丈夫!流石にいきなり取って食われることは……ないよな?」 

 自分に言い聞かせるように呟いたが、本心ではかなり怖気づいている。ドアノブに手を掛け力を入れると、ギィイィと魔物の呻き声のような音を立てながら扉が開いた。

 店内に入った途端、カビ臭い匂いが鼻孔びこうをかすめる。

 日中だというのに、ここはやけに薄暗い。

 窓が薄汚れているせいか?とも考えたが、それ以前に店内の空間そのものが陰鬱さを放っているような気がした。

 店の棚には、今までナツメが見たことのない、形の皿や器などの調度品がひしめいている。

「何か用か?」

 店の奥の暗がりから響く声にナツメは思わず「ひぃ!」と声をあげた。暗がりから青白い顔をした中年の男がのっそりを姿を現す。落ち窪んだ眼から疑心感をあらわにした視線が放たれている。

「あ、いや。なんでもありません……」

 そう口走ってから、ナツメは自分をど突きたくなった。

 ——なんでもありませんってなんだよ!用があってここまで来たんだろうが。

「い、今のは訂正で……用はあります」

 男は訝しげにナツメを爪先から頭のてっぺんまで見回す。

「で、用件は?」

 ——なにビビってんだよ、俺。ナツメは拳を握りしめる。

「パンドラの、箱について……の情報ってありますかね……?」

 心臓がばくばくしている。万が一、襲ってこられても良いように、腰に下げたスティレットの鞘に手をかけた。

「パンドラの箱?なんだそれ」

 男は目をパチクリさせながらナツメを見つめる。

「うちの店はパラメリア以外の異国から持ち込まれた品も扱ってるが、パンドラの箱なんてもんは今まで聞いたことないな」

「そ、そうですか……わかりました」

 ナツメは一礼した後、すぐに店の外に出る。完全にデマだった。いや、まだ油断は出来ない。店を離れながら辺りを警戒する。だが、誰かに見張られたり尾行されている気配は微塵も感じ取れなかった。

「怪しい勧誘商法でもなく、詐欺でもない……か」

 思案気に俯きながら、口元に手をやる。急に疲労を覚えたナツメは、小路の十字路にある噴水の縁に腰掛けた。

「はぁー」

 深いため息が出た。緊張から解放された安堵感。いや、それもあるがパンドラの箱について収穫ゼロという結果に対しての落胆が大きかったのかも知れない。

 もともと、俺みたいな駆け出しのトレジャーハンターが他のハンターより先にパンドラへ辿り着くなんて考え自体が甘すぎたのだ。

 この件はもうおしまい。それで良い。

「キャロルとミアは、中央通りのバザーで買い物するって言ってたよな……」


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