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「お前……。俺の風呂とかベッドに無断で侵入してくる癖して、よくもそんなこと言えるな……」
「僕は良いんだよ。でもミーちゃんはダメでしょ?」
——こんな時だけ正論を言いやがって。
ナツメは湧き上がる怒りを懸命に沈めた。
「そんなことより、これ見てよ」
キャロルはナツメの心中などお構いなしといった様子で、セミロングの髪を、白地の布に紫陽花があしらわれたシュシュで結んだ。
「そのシュシュ、どうしたんだ?お前、そんなの持ってたっけ?」
「ミーちゃんに貰ったんだよ!ミーちゃん凄いんだよ。このシュシュも手作りなんだって!」
「へぇ、ミアは器用なんだな」
ナツメがミアに目をやると、彼女は照れ臭そうに「い、いえ……」と答えた。
「私、手芸が好きで……パッチワークキルトとかアップリケなんかを作って売ったりしていたんです。キャロルさんに差し上げたシュシュも余りの生地、ハギレを何色か利用して直線縫いで出来る簡素なものです」
ミアは出会った頃と変わらず謙虚な態度で二人に説明する。
——そうか。考えてみればミアは祖父母を何年も前に亡くしている。その間の生活費として、特技を生かして生計を立てていたのか。
ナツメは改めて、ミアの成熟度に感心した。
「でも、ミーちゃんのシュシュは完成度、めちゃ高いよ!気に入って買っていく人も多かったんじゃない?」
「多くはないですが、私の作ったキルトを気に入って下さる方もいました」
「布とかは何処で調達してたんだ?」とナツメは若干含みをもたせた口調で、ミアに尋ねた。ポトラ村で、そうした商売は成り立たないだろうと思ったからだ。
「ロザリアです。最初は布屋でハギレを頂いてコースターや財布など作っていたんですが、バザーで出された私のキルトが思いのほか好評だったようで。それ以来、手芸の依頼が入るようになったのでロザリアには月に一、二度、商品を卸しに行ってました」
ミアはチュニックのお尻部分から飛び出ている、細くしなやかな猫の尻尾を小刻みに動かす。
気分が高揚しているのだろうか、とナツメは微かに笑った。
——あるじゃないか。フライスネークの仇を討った後にも生きるに値することが。
「ロザリアで思い出したんだけど……明日、首都ロザリアに行く予定が出来たんだ」
ナツメは遺物管理局でジニーに伝えられたことを、二人に説明した。




