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「な、なんだよ?お前。」
「カンケー無いだろ!引っ込んでろ」
少年たちは口々に悪態をつく。キャロルの首にかかるチョーカーが光を帯びだした。
「おい、キャロ!」
半歩後ろにいたナツメは制止しようとしたが間に合わなかった。キャロルの右ストレートが地面に打ち込まれる。
直後、小島に地震が起きたような振動が走った。
左右に激しく揺れる小島に恐れをなしたのか、少年たちは一目散に上層に向かって逃げ出した。
「キャロ!」
「ごめん……。ナッちゃん……つい」
キャロルはナツメに振り返ると、所在させげに目を伏せる。
いや、キャロルの気持ちはナツメにも痛いほど解っていた。なぜ、あんなお節介をしたのか。
それは彼女自身が、異人種という理由で迫害に近いイジメに遭ってきたからだ。
そうした行為からキャロルを庇ってきたナツメも同じく、それらの行為を見ると虫唾が走る。
だが、今はジェフ達との共同発掘の調査中である。
「キャロ、気持ちは俺も分かるけど……今は勝手な行動厳禁だぞ。ゴーストとの戦闘時にもジェフから言われただろ?」
ナツメは穏やかにキャロルに語りかけた。
「……うん。ごめんなさい」
ナツメは地面に転がった林檎を拾うと、外套の少女に近づいていった。
さっきキャロルが発生させた地震に驚いたのか、少女は地面に座り込んでいたが、ナツメが近づいてくるのに気づき顔を上げた。その拍子に外套のフードがめくれる。
「——え?」
思わずナツメは呻いた。フードの下から、白と茶色が混じった猫耳が生えた赤毛の少女が翠玉の瞳を俺に向けていた。
「……あ、ありがとう……ございます」
肩に伸びた赤毛を揺らしながら、頭から猫耳を生やした美少女がお礼の言葉を紡ぐ。
——この子、異人種?キャロと同じ?いや、キャロルは犬の特徴を有した異人種だ。が、眼前の美少女は猫の耳を生やしている。猫が混じった異人種はナツメも今まで拝見したことがなかった。
にしても、この少女はとんでもなく可愛い。遠目からでも一目で分かる。透き通るような白い肌。丸く童顔な顔立ち。均整のとれた鼻と口唇。
だが、気のせいか——この美少女にはどこと無く陰というか、瞳に翳りが混ざっているように感じられる。
「酷いやつらだよね!異人種だからって理由でイジメする奴は、僕が絶対許さない!あ、僕はキャロル、彼は僕のお兄ちゃんでナツメだよ」
キャロルは、微笑を浮かべながら外套の少女に手を差し伸べた。
赤毛の少女は差し出されたキャロルの手を掴み、立ち上がる。
少女の左手には五指にそれぞれ凝った装飾がなされた金の指輪がはめられていた。
「ねぇねぇ、あなたの名前は?何ていうの?」
「……わ、私です、か?」
キャロルは周りを一望する。そして視線を少女に戻ると「あなたしか居なくない?」と無邪気な笑顔で呟いた。
少女は伏し目がちに小声で「……ミアといいます」と答えた。
「ミアちゃんか!どうぞよろしくね」
キャロルが握手を求める。しかしミアは
「……あ、あの。助けてくださり、本当にありがとうございました」
と、外套のフードを被り直しお辞儀をしたのち、足早に走り去っていった。
「おい、キャロ。宿に戻るぞ」
「あ、うん……」
キャロルは少し残念そうな表情を浮かべながら、ナツメの後を追う。橋を渡りながら俺は、ミアと名乗った少女のことを考えていた。
仄暗い陰に包まれた少女の瞳を見たときに感じた印象。そうだ。俺はあの目を知っている。あの目は——
『自分の人生に、何の期待もしていない人間が宿す瞳の色だ』




