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グキッ

ベシャッ



「…!」


…誰かがこけた



「あら、はしたない子だわ。

どこの低級貴族の娘かしら」


「下品な人ね」


と令嬢達はクスクスと笑う。


「ちょっと失礼」


エドはこけた娘が心配になり、自分を囲む令嬢達をかき分け彼女の元へと近寄って声をかけた。



ゴールドの髪…

この子まるで─




「……エド!」




「!?」



顔を上げた彼女はまさに



ロ……ロナ!?


「……っ」


エドは目を奪われてしまった。



艶やかな金色の髪を後ろで綺麗に編み込み、そしてドレスは髪を引き立てるハッとするような赤。とても、美しい。シャンデリアのせいだろうか、彼女がキラキラと輝いて見えた。



「………」



「エド…?」



はっ


「や…何でもない」


一杯聞きたいことはあるけんど…ここじゃあ、な…


…!



ボソッ「ロナ早よ立って」



「あ…ああ!」



ロナがエドの手を借りて慌てて立ち上がると周りには令嬢や王子達がこちらを怪訝な表情で見ていた。



どうしよう。

エドをダンスに誘ってそのまま逃げ出す手筈だったのに、こんなに注目を浴びてたらやりにくいな…



「手ぇ出して」


「へ?」


おもむろにロナの手を取ったかと思うと、エドは片膝をついて彼女を見上げこう言った。



「─お嬢さん、ダンスを申し込んでも?」「!!」



二人を見ていた周りはざわつく。


「あんな品のない娘をあの方はダンスに!?」


「何を考えているの!?」



「エ…エド…!?」



「はは、何顔赤くしとるん。

どうせロナも同じこと考えとったやろ。

早よ受けて」(小声)



エドも同じこと…

ああそうか!

な…成る程な!


「…え…と」


「ああ受け方知らん?

ドレスの裾を少しだけ持ち上げるだけでよかよ」(小声)



「わ…わかった…」







◇◇







「何だあのダンス。ツェルカではないな…」


「きぃー!!悔しい!あの子受けたわ!!私が踊るはずだったのに!!」


「しかしあの令嬢、とても美しい。今まで見たことがない」


「そうですね…」



三曲目となった演奏に合わせて踊る人々の中に一際目立つペアがいた。

令嬢達は嫉妬し、王子達は感嘆の息を漏らす。




「ダンス上手なりましたねぇ」

「まったくついていくので必死だ!こっちは!周りの視線も気になるし…」


「君に見とれてるんよ、ハニー」


「誰がハニーだ…、て、このやりとりだいぶ前にもした気がする…」


「ははは。今回はドレスも着とって完璧やね」


「うるさい。とにかく本題に入るぞ」


「ああその前に。質問」


「…なんだ」


「どうやってここに?そのドレスも、どしたん」


「今はそんなのどうだって…。……いや、─……はあ。

ここに招待されてた貴族を途中で襲ってちょっと借りたんだ。そして…その招待客のふりをして…」

エドは目を丸くする。


「………!襲ったて…!」



「しょうがないだろ!こっちだって後でエドに言いたい事が山程あるんだからな…!」



「あー…、そやね…」



ロナ達が貴族を襲わざるを得ないことになったのも、例え逃げ出すつもりだったとはいえ、彼女らに黙って自身を身代わりにするようなことをした自分がわるいのだ、と己を戒め自分は説教する立場にはないとエドは理解する。






「何よ。あれ」



王子達に囲まれていたキュイリアス姫が目の端に映った二人に気付いた。


「どうしました?姫様」


「私のエドが知らない女とダンスしているわ」


「エド…?」


「姫が飼われた新しいペットのことですかな?」


「「はははははは!」」



「…どいて」


「姫!」



キュイリアスは椅子から立ち上がり王子達を押し退け二人の元へツカツカと歩み寄る。



何なのあれ。

エド、私の時より随分と楽しそうに踊るじゃない。私より低身分で見るからにダンスも下手な女と踊って何が楽しいのよ。




「………!」


それまで楽しそうにしていたエドの表情が突然何か一点を見つめまるで無表情となった。


「エド…?」

「ちょっと」


「!」


その一言でオーケストラの音がサァッと消え、招待客達も空気の緊迫を感じとりダンスホールは静まりかえる。


ロナが振り返ると、そこには自分より少し身長が低めの少女が立って自分をじとと睨み付けていた。



この子確かさっき王女樣って言われてた子…?

この子がエドを…



ていうか王族への対応なんてしたことない…!

どうしようどうしよう…!!

とりあえず…!!



「ごきげんよう」


ロナは満面の笑みでキュイリアス姫に向かってドレスの裾を少しだけ持ち上げてみせた。



「「………!!」」


ホール内の貴族たちに緊張が走る。あの娘は何を考えているのかと。姫が明らかに不機嫌なのに、だ。



「っ…!!」


エドだけは笑いをこらえていたが…。



私は…振る舞いを間違っただろうか…。

さっきより、王女樣怒ってる…?



しかめっ面の王女はツカリと一歩先生ロナに詰め寄って…。



「何なのこの無礼な娘は!」



エドはサッとロナを後ろに隠す。



「エド。何のつもり?どきなさい!」



「お断りします。姫」



「下民のくせにこの私に逆らうの?後ろの女は私の物に手をだしたのよ!許せないわ!」



「なっ。エドは物じゃなっむごもご…!!」


危うくまた無礼をはたらきそうになったロナは彼に口を封じられた。



「その女は─」

「自分がダンスを申し込んだのです」



「………なんですって?」


キュイリアス姫の眉がヒクつく。



「どうしてなの?エド」



「それは…」



固唾を飲んで周囲の者は見守る。



自然に後ろにまわしていたエドの左手に、無意識にロナの両手がそっと添えられていた。



「それは…この令嬢は私の婚約者だからです」


「は?」


「は?」


キュイリアス姫や周囲の者達だけでなく、ロナまでもが頭に[!?]マークを浮かべた。




は?…エドは何を…。


はっ、いやそうか!


すでに相手が決まっている者となれば王女もエドを諦めるかもしれない、そういうことだな!



「こ…婚約者ですって?」



「はい。私は名も知れぬ貧乏貴族で、彼女と婚約を交わしていたのです。今回キュイリアス樣のご命令を受けたのは従者のためでもありましたが、急なことでもありましたので…」




ヒソヒソ

「まああの方が貧乏貴族だなんて!」

「そうはとても見えませんのに…」

「しかも既にお相手が…。その相手というのもあの品の無い娘!」


貴族達はざわつき始める。





「でもあなたさっき貴族じゃないと…!!」



「私の地位が確立されてしまうとキュイリアス樣との結婚が確実になってしまうと思いましたので言い出せませんでした。申し訳ありません」




エドは頭を下げた。



「な…」




さあ…諦めるか…?


ロナはエドの後ろでキュイリアスの顔色をうかがう。

キュイリアスの家来達はこの状況をどうすることも出来ずただ彼らを見守るだけだった。



「…………─なさい」



「……?」




「ケスト!この娘を追い出させなさい!」



!!



「はっ」




やっとの命令をうけ家来達がエドたちの方へ向かって来る。



「キュイリアス樣…」


「相手が決まっていようと関係ないわ。私が欲しいと思ったものは私の物。だって王族ですもの、当たり前でしょ?さあ、エド。部屋に戻りなさい。舞踏会は…そうね、貴族が勝手にやってればいいわ。私は今不愉快だからもう退席するけど」



声色から苛つきがにじみでている彼女をエドは真っ直ぐに見つめた。



─まだ、子供だ。



今からどうしようかと考えている間にも家来達が迫ってくる。

すると─


「エド!こっちだ!」


「!」


ロナがエドの手を取り走り始めだ。


「二人を逃がしてはだめよ!」


─その時



ドオオオオォン!



「「キャーー!!」」


「「!?」」



城のどこかで爆発音が聞こえ、その衝撃で床がビシビシと揺れた。



しかしロナは怯むこともなく奥の通路へ真っ直ぐ走っていく。



「ロナ……!」



「大丈夫だ!これも私たちの作戦の一つだから!」


「なっ…。

バカ!爆弾なんてどこで手に入れたん!誰か死んでもしたらどうする!」



「大丈夫!

しっかり場所は安全を考えた上で選んだんだ!この爆発は城の者の気を引くためだけのものだから!」



「とにかく今は全力で走れってこと!」



「!レイバー!お前ら…!」



ロナ達はレイバーらと合流し、通路の奥へ奥へと進む。自分たちの足音に重なって城の兵士たちの足音も後ろから響いてくる。




「お〜!!兄貴〜!!」



「ディール!」



少し先で、ディール達爆弾係がエドたちに手を振っている。



「こっちっす!」



「え、道、わかるん?」



「ここに地図が!!

あともうすぐで外に通じるドアがあるはずなんですよ!」



「いたぞ!あそこだ!」



「「!」」


「追いついてきた…!!」


「みんな急げ!」



少し先を見やると、ディールの言った通り少し大きめのドアが一つ。



「出口だ!さあ、気を抜くなよ!外には兵がもういるかもしんねぇ!!」



ディールの()いでのばされた手がドアノブにたどり着き、ガチャリとそれを回した。

ドアは勢い良く開かれる。





「!?…………!!」


「嘘だろ…?」




しかし開かれたドアの先にあったのは外ではなく、四角い、部屋。


「行き止まり…」


「………っくそ!」


偽物だったか…!!



握られた地図がぐしゃっと音を立ててひしゃげた。




「そこまでだ!」



兵士達が追いつき部屋の入り口でエド達に槍先を向け包囲している。




「くそ……」





エド達は逃げ場を失った…。

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